第27話 徹との別れ
隣にいる徹も、父親の事を思う。これから、向かう実家には、父親がいる。多分、間違いなく、その父親と、芋焼酎を飲むのだろう。どんな話をしよう。まずは、京一とのこの旅の話をしよう。それから、今後の事を話し合おう。二人にとっての父親という存在。改めて、父親の偉大さを感じていた。
徹と出会った神戸のレストラン。京一が、拾った写真の風景が瞳に映る。平屋の民家、暗がりではあるが、ぶっとい木々達の群れの中に車を止める。
徹は、スマホを取り出し、電話を掛ける。ちょっと、行ってきます。そんな言葉を発して、車から降り、玄関先に向かう間、軒先の灯りがついた。ガラガラという音と一緒に、年配の女性が姿を現す。間違いなく、徹の母親だ。
「京一さん、挨拶したいって…」
母親と一言二言、会話を交わした後、駆けよる徹が、京一に、そんな言葉をかける。
初めまして…車から降り、母親の近くに歩み寄った京一は、そんな言葉と発して、深く頭を下げた。
長い間、私に付き合わせてしまって…。そんな京一が発する言葉に、恐縮するように細かく頭を下げる母親。
『父さん、早く、出てこんね。』
そんな母親の言葉に、いえいえ、夜も遅いんで、これで失礼します。そんな言葉を返し、もう一度頭を下げて、その場から離れた。
「京一さん、本当に泊まっていかんでも、いいんですか。」
車に乗り込もうとする京一に、徹は、そんな言葉を投げかける。
「いいから…」
「でも、今から、宿探すのも…」
京一は、チラリと徹の後方に視線を向けると、徹の母親が、心配そうに、こちらを見ていた。思わず、軽く会釈をする京一。
「もうええから、早く行ってやり…お母さん、心配しているやろ。」
「母ちゃんも、泊まってもらいって、いっとるし…」
別れ惜しいのだろう、必要以上に、引き留めようとする徹。
「気持ちは、うれしいんやけど、一人で考えたいねん。わかるやろ。」
京一は、朝方もう一度、父親の所に行ってみようと思っていた。とにかく、一人になって、自分の気持ちを整理する事を考えている。
「それに、親父さんと、一緒に焼酎を飲むんやろ。」
京一は、そんな言葉を口にして微笑む。
「京一さん…わかりました。」
徹は、口を一文字に噛み締め、自分の中で踏ん切りをつける。
「大阪に来たら、連絡してくれや。また、酒でも飲もう。」
「はい。この九日間、楽しかったです。本当にありがとうございました。」
そんな言葉を口にして、右手を差し出し、握手を求めた。ガッチリと握り返す京一。
「ホンマは、私が、言わなぁあかんのに…。徹君、こんな私に付き合ってくれて、ありがとうな。」
一回り以上も離れた男達が、瞳を潤ませている。そして、二人の旅はここで終わった。神戸のレストランで、写真を拾った事が縁で、始まった二人旅。京一にとっても、徹にとっても、楽しく、感慨深いものであった。あとは、京一がどんな行動を取るかである。自分の居場所を手に入れられるか、どうかは、一人で決めらければいけない。
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