第17話 続・古代日本の息吹

続いて、二人は神魂神社に来ていた。二人並んで、一つ目の鳥居の脇で一礼をすると、真っすぐに続く参道に歩を進めた。しばらくすると、二つ目の鳥居が現れる。両側に木々が植えられた石段を登り始めると、二人同時に、立ち止まってしまう。とても静かなところ、頭の天辺から、足のつま先に向かって、シャッターを閉めるみたいに、しゃぁーと何かが降りてきたような気がした。二人は同時に視線を合わせ、何も言葉にしない。言葉にしてはいけないような気がしたからである。そのまま、何も言わず、石段を上がっていくと、脇の小道に視線を向ける。

「京一さん、何やろ、この道…」

「ふん、何やろな。」

京一も、立ち止まり、覗くように小道に視線を向けた。獣道みたい印象で、道自体は下っている。見える道の先がカーブしているせいもあるのだが、道の先が見えない。

「どうします、行ってみます。」

恐る恐る、そんな言葉を口にする徹。道の先に興味を持つが、行きたくないようにくみ取れる。京一も、同じ感覚を覚えた。道があるのだから、この先に、別に怖いものがあるのではないだろうと、思うのだが、何か嫌な感じがする。

「徹君が行きたいのなら、行くけど…」

徹に、丸投げをする。しかし、徹は、行かないだろうと踏んでいた。

「ふ~ん、結構急だし、戻ってくるのに、時間がかかりそうやから、止めときますか。」

ほうか、じゃあ、と言葉を発し、スタスタと石段を上り始めた。内心、ほっとしている。肯定の言葉を言わないかと、ドキドキしていた。

山の湧水が注ぐお手水があり、(女坂)と書かれた看板が見える。脇には、本殿が見える石段があるのだが、とても急であった。二人は、お手水で両手に口の中を清め、自然と緩やかな女坂に足が向く。

イザナミノミコトを主祭とする大社造りの本殿を目の前にして、言葉にならないでいる二人。この神社に足を踏み入れて思った事は、神聖な場所、汚れて云うモノがない。自分の邪心が洗われるような気がしてくる。目に見えるものではないが、そんな事を感じる二人は。お互いに、日本人であることを再確認した。

二人は黙ったまま、古くさい古社の前で、不覚にも口を閉じるのを忘れていた。京一も徹も、無宗教である。家に仏壇があったから、あえて言えば、仏教なのだろう。日本神話の時代。日本を造ったとされる神々の時代。日本人が、この神社を造った。多分、何度かは、建て替えられているとは思うが、日本人であれば、誰でも心に秘めるものはあるだろう。

「すごいなぁ。」

「そうですね。」

京一もそうであろうが、徹も神社巡りなんて興味などない。神社に、足を運ぶのは初詣ぐらいであろう。こじまりとした古くさい建物に、圧倒されている二人がここにいた。

神魂神社は、出雲国造家の祖、天穂日命(あまのほひのみこと)の創建の古社、伊邪那美命(いざなみのみこと)を主祭神に、伊邪那岐命(いざなぎのみこと)を合祀している。自然石の階段を上った境内に立つ、高床式の本殿は国宝で、現在する大社造りの社殿では、日本最古である。

今日の酒盛りは、静かなものになるだろう。そして、明日の出雲大社が楽しみになる。二人は本当に、この場所を選んでよかったと思っている。こんなにも穏やかな気持ちになれたの、この数年なかった事である。心に響いた、日本の原点を、目の当たりにして1日であった。二人は深く一礼をして、静かにこの場所を後にした。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る