第13話 仲直りかな

肩で息をしている二人が、真正面を見ている。どれぐらい、荷物の奪い合いをしていたのだろう。

「いい加減、してもらえます。」(嫌だ)

数分前と、何や変わらない会話に、徹は、深く、大きい溜め息をついた。京一は、意固地になり、荷物を抱き締めている。

「お願いですから、俺の荷物、返してください。」

口を一文字にして、頭を横に、勢い良く振る。そんな京一の姿を横目で見ながら、また、大きな溜め息をつく。

「もういいですわ。」

そんな言葉を発して、ドアノブに手をかけた時、こんな言葉が、徹の耳に入ってきた。

「楽しいねん。徹君といると…。」

呟く様なか細い声に、徹は、思わず振り向いていた。

「言葉では、うまく説明できんけど、頼りになるというか、自然な感じがええねん。」

視線を、振り向いた徹に向けて、言葉を並べ始める。

「まだ、三日しか、経ってないんやで、なのに、こんなにも自然に、モノを言いやっている。すごいと、思わん。私がとった言動で、徹君に腹をたたせていたのはわかった。反省している。でも、嫌なら、何も言わず、行けばいいやん。別に、私に確認を取らなくても、そのまま、出て行ってくれれば、いいやん。」

「それは、そうやけど…。いや、それは違う。」

京一が、言葉にした事は、一理ある。別に、嫌なら、黙って、居なくなればいい。正直、今の二人の関係は、そんなもんである。三日前に知り合った二人。何の義理もなければ、何の関係性もない。京一に、断る必要などないのである。

「多分、徹君も、私と同じ気持ちになってくれたんやと思う。だから、イライラしたんや。だから、もう、ちょっと、旅を続けてくれんね。本当に、無理なら、嫌なら、何も言わず、いんでくれていいから…。」

京一が、並べた言葉に、共感したのか、言葉が出てこない徹は、しばらく考え込む。

「わかりました。ラストですよ。」

ほんまに…。思わず、そんな言葉を発してしまう京一。徹の方が、折れてしまった。子供じみた、京一の言動が、許してみたくなった。

「京一さん、確認しますよ。むやみに、車を止めない。周りを確認せずに、車を飛び出さない。それから、俺は、これから、言いたい事は、言いますから、それを聞いてくださいね。」

徹が、ゆっくりと、丁寧に発する言葉に、頷く京一。そのまま、抱き抱えていた荷物を、後部座席に戻すと、正面を向く。ハンドルは八の字に握り締めた。

「では、とりあえず、旅館やね。」

「そうですね。荷物を置いて、京一さんが楽しみにしていた、何々監督の聖地巡り…。」

「大林監督な。なんや、聖地巡りって…。」

「映画で、使われたロケ地を巡る事をゆうとですよ。」

「ほう…。これも、ジェネレーションギャップやな。」

二人は、口を大きく開けて、笑う。京一にとっては、ただの観光。映画のロケ地巡りなどする気はない。尾道という土地を、散策をして、風景と記憶に残る映画のワンシーンと重ね合わせる。そして、その時に、湧いてくる感情に浸れればいい。それを、聖地巡りというのであれば、それでいいと思った。

「それでは、いきますか。」(はい)

「ナビ、よろしくな。」(わかりました)

京一の愛車、ホンダライフが走り出す。尾道三山と対岸の島に囲まれた尾道という土地。《海の川⦆とも云うべき、尾道水道の恵みによって、尾道三山と尾道水道の間、限られた生活空間。これから先も、揉める事があると思う。しかし、仲直りをする二人の姿が見えてくる。


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