第16話 残念でした

「だから私は岡田くんのこと...好きになっちゃったの...」と、唇を触りながら言う。


「...いや、それはおかしくないか?」


「...何が?」


「俺は園原がいじめられていたことも、学校に来なくなっていたことも知っていた。見て見ぬ振りをしていたクラスメイトの1人だったんだぞ。そのターゲットが加賀島に移って俺は加賀島を助けた...。それってつまり、園原は見殺しにしたのに加賀島は助けた人ってことだろ。そりゃ、間接的には恨みを果たせたのかもしれないけど...」


「...そうだね...。だからきっと...今のは建前なんだと思う...」


「建前?」


「...本当は入学してからずっと...岡田くんのことが好きだった...。一目惚れ...したんだと思う...。けど、人を好きになったのなんて初めてだったから...何か理由を探していたんだと思います。...オン眉になって学校に行けなくなったのも、本当は恥ずかしいこんな姿を見せたら幻滅されると思ったから...」と、のどを触りながら言う。


「...そっか...。まぁ、その気持ちは素直に嬉しいよ。けど、悪いが俺は園原のこと好きじゃない」


「...そっか。好きじゃないんだ」


「...あぁ」


「...どうやったら好きになってくれる?」


「どうやっても好きにはならない。見た目だけ理想に近づいても何の意味もないから。それで好きになるならきっとタイプに寄せてくれるなら園原以外のことも簡単に好きになるってことだろ。嘘や見栄や無理をしたところで何の意味もないぞ」


「...意味なんていらない」と、彼女は俺に近づいて無理やり唇を奪った。


「...それで何か変わると本気で思ってるのか?」


「...」


「まどろっこしいことはやめようぜ。もう分かってんだ」


「...何が?」


「園原、お前は俺のこと好きなんかじゃない」


「...」


「お前はまだ檻の中に居るんだろ。...どうせこの会話も聞いているだろ?


 そう言うとポケットから携帯を取り出し、操作を始める園原。


 そして、携帯をこちらに向ける。


『あんた、本当すごいね。いつから気づいてたの?』と、スピーカーの状態で塩田のそんな声が聞こえた。


「...気づいたのはついさっき。園原の仕草を見て勘づいた。最初は人見知りだからとかオドオドしてるのかと思ったけど、しきりに口を触ったり、喉を触ったり、足をモゾモゾと動かしたり、唇を噛み締めたり。全部嘘をついている時のサインなんだよ。...そもそも俺のことを好きになる女の子がそんなにほいほい現れるかよ」


『それはそうだね。岡田を好きになるやつなんていないもんね』


 いや、そこまでは言ってない。


『けど、だからどうするの?この状況。手も足も縛られて、助けを求めることもできないのに』


「...助けを求めるなんて行為、俺に必要ねーよ」


『...どういう意味?』


「偽りのヤンデレキャラなんてものは本物には勝てねーってこと。あるやつが偽物は本物になろうとしているから本物より本物だ、なんて言っていたがそんなことはない。演技や嘘を一生続けられる人間なんてこの世にいない。本物が本物たりえるのは限界がないからだ」


 そんな話をしていると、扉が開く。

その時、ようやくこの場所のおおよその場所を把握することができた。


 そこには1人の女の子が立っていた。


「ここで登場するのが加賀島だったら綺麗なストーリーだったんだがな」


「...残念。私でした」と、塩田が笑うのだった。


【挿絵】

https://kakuyomu.jp/users/tanakamatao01/news/16818023214025529086

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