第5話 めちゃくちゃにしてほしい

 ◇あれから5日後


「...なにこれ」と、女がつぶやく。


 クラスメイト全員が携帯を見ていた。


 そこには過去の所業の全てが写っていた動画がSNSに拡散されていた。

それも名前も住所も載せた上で。


 もちろんだが、被害者である彼女の声と顔は加工していじめていた側は一切加工せずそのまま写っていた。


 今のインターネットにおいて完全な悪という叩きやすいものが現れれば、それを全力で潰す偽善者が現れるのは必至だった。


 すぐに特定が行われ、彼女のSNSのアカウントには誹謗中傷が嵐のように来ていた。

そして、彼女の容姿や性格、その家族についても色々特定され更に炎上は広がりつつあった。


 まぁ、こうやってSNSに個人情報ごと載せるのは犯罪だが、彼女たちがやったことも犯罪であるのだから、犯罪だと糾弾される覚えはない。


「誰だよ!こんなことしたの!」と、クラスメイトたちを睨みながら叫ぶ。


 当然クラスの人たちは目を逸らす。

これは当然の結果だ。

悪行を見て見ぬ振りしたように、悪行について誰も庇ってくれないし、誰もが信用なんてできないんだ。


「こいつが写ってるってことは撮ってるのはこいつじゃない!絶対誰かが撮ったんだろ!」と、未だ叫び続ける。


 そうこうしているとすぐに先生が入ってきて、相沢と吉田と塩田が呼び出される。


 そのままクラスメイトたちに叫び続けて、消えていく様はなんとも面白かった。


 そして、その様子さえも動画に上がるのだった。


『うーわ、ざまぁwww』

『化粧濃すぎwwwブスだから高校生でも化粧しないと誤魔化せないレベルwww』

『まぁ、正直全然やれますね。誰か一緒にあの子の家に行きませんか?』


 そんなコメントが溢れる。

悪には正義なんて完全に時代遅れである。

悪に悪。それだけのことだ。


 それからは実に早くことが進んだ。

念の為SNSのアカウントは削除したが、投稿した内容はすでに他の人が呟いており、消えることのないデジタルタトゥーとなり、無限に叩けるデジタルサンドバッグとして叩かれ続けた。


 当然、実行犯である相沢と吉田は退学となり、その後どうなったかは知る由もない。

まぁ、この近くにはもう住めないだろうし、僻地にでも転校したのだろう。

しかし、その場に居ただけで何もしていなかった塩田は停学扱いとなり、来月にも帰ってくるとのことだった。


 ひとまず、彼女を取り巻く一連の騒動はこうして一旦幕を閉じたのだった。


 ◇


「...ありがとう」


「お礼を言われる筋合いはないっての。結果的には加賀島に辿り着いた人間もいたわけだし。迷惑をかけずに解決できなかったのは事実だからな」


「それでも、あのままだったら私...自殺していたかもしれないから」


「そっか。まぁ、それなら良かったよ」


「...なんで助けてくれたの?」


「前にも言ったと思うけど俺も被害者だからな。そんだけだっての。俺は俺のためにやって副次的に加賀島が助かった。それじゃ納得できないのか?」


「...できない」


「まぁ、わかった。んじゃ、具体的なメリットがあればいいってことだな。そうだな...。じゃあ5000円くれ。それでお互い何もなかったってことでいいか?」


「嫌」


「...じゃあどうすればいいんだよ」


「...付き合って欲しい」


「...え?」


「私のこと...めちゃくちゃにしてほしい」

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