かき氷・サプライズド・ユー!

「ツナ、マツライ、お疲れさまです。助かりました」

 ――かき氷機に食器、そして食材が和室にすべて揃った。あとは主役の登場を待つのみ。

「うむ」

「ふふっ、このくらいお安いご用だよ。丁字くん、喜んでくれるといいね」

「それに関しては間違いないかと。芹那くゃ――丁字が甘いもの、それもフルーツならイチゴが好きらしいこともゴハから聞いていますし、なによりかき氷機の性能もジャムの味も申し分ないものです。よほど甘味が苦手でなければ舌鼓を打ちまくるかと」

 持つべきものはストレス解消と称して年中ジャムを大量生産する母だ。いつも消費が地味にキツいけど今日ばかりは感謝しかない。

「加えて今回はサプライズ要素もあるからな。スミの提案はいつもナイスだ」

「なんですかその示唆的な仕草」

「なんですかって――俺はただこの和室にどんと置かれたクーラーボックスを一撫でしただけだが?」

 謎にチート系な口調で返された。なんだこいつ。まあいつものことですけど……。

「それはそうとして無駄にイラつきますね……」

 手を出さないだけ褒められるべきだと思う。

「ま、まあまあ……――あ、ガラガラって音したよ。丁字くんと御八角くん、出てきたんじゃないかなっ」

「そうですね、誘導も兼ねて様子を見に行ってきましょうか」

 これから起こる『想定外』を前に、クラスいちの美少女(個人の見解ですが)はどんな反応をするのだろう。

 ――芹那くゃんの反応、楽しみだ。



「――さあ、主役のお出ましですよ」

「わーわーぱちぱち」

「い、いえーいっ」

 ――和室に足を踏み入れた瞬間、先にいた松来とつなしからなぜか拍手で迎えられる。

「なんだよ主役って」

「ふふ、これから分かるよ。さあ座って座って!」

 ――久樹に促されるまま、座布団に腰掛ける。

「こまりんの家のかき氷機、電動のやつなんだね」

「父は手動がいいと言っていたんですがね。……手間が無くて便利ですよ? 今から実演いたしますけど――マツライ、器」

 ――委員長がボタンを押せば、降りそそがれるふわふわの氷。器が回されるにつれて、山の形ができていく。

「閣下、そろそろストップを。――よし、雪山一丁。つなし

「うん。ジャムかけるね」

 きらきら。真っ赤。シロップはとろとろだけど、果肉はそれなりにごろっとしてる。

 ……おいしそう。

「そしてオレが練乳をかけたところで芹那のもとへとかき氷が届けられ――……ませんっ!」

「は?」

 自分でも驚くくらいガチの「は?」が出た。……ちょっと恥ずい。

「マツライ」

 ――声をかけられた松来が後ろのクーラーボックスを漁り始める。

 ……アレ、スペアの氷入れてるんじゃないのか? なんかデカいの取り出したな……と、アイスすくうヤツ……まだ出んのか? 今度は屋台のたこ焼きソースみたいな……あとなんか小さいタッパー。

「芹那!」

 やけに得意げな表情。なんなんだよホントに。

「なんだよ」

 ――久樹が箱のフタを開ける。

「まずはオレの持ってきたアイスを…………よし、ドーン!」

「え」

「次にツナ氏のチョコソースをかけて、っと。で、最後にマッキーのミントを植えれば……!

 ――完成! スペシャルイチゴかき氷!」

 手作りイチゴジャムに練乳だけでも贅沢なのに、さらにバニラアイスとチョコソースまで……?

「……呆然としてますね」

「呆然としてるな」

 呆然ともするだろコレ。そんで久樹のしまりがないニヤケ顔むかつく。

「え、えっとね! 丁字くんっ、退院……退院祝いなの、丁字くんのっ」

「……退院祝い?」

「うん、少し遅くなっちゃったけど――オレたちからの退院祝い。芹那が無事に戻ってきてくれて嬉しい気持ちをオレはアイスに込めました」

「わ、わたしはチョコソースに……!」

「そして俺はミントに。……味変用の紅茶パウダーもあるぞ?」

「ワタシは場所や器材や……ベースとなる諸々ですね。――さあ、溶けないうちに」

 ……俺、こんなにもてなされるいわれ無いと思うんだけど。普段誰ともつるまずほとんど一人で過ごしてるようなヤツだぞ。美少女補正か?

 ……いや、俺の姿がどうであれ少なくとも久樹はこういうことしてきそうだな……ホントなんなんだよコイツ、くそ……キトクなヤツ。

「芹那が食べないならオレが――」

 ――久樹がかき氷をひとすくいする。そのまま口に運ぼうと――。

「おまっ、俺の……!」

「――なーんてね。はい、あーんっ」

 ……あ、つい口開けて……。


「……美味しい」

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