告白日和、です!

 ドライヤーもそろそろ大丈夫かな、と電源を切ったところで、がちゃり――部屋のドアが開く。……水もしたたる丁字くん、やっぱり美少女だなあ……。

「……委員長は」

「こまりちゃんなら下でかき氷の準備中だよ。……えっと、わたしがなにか手伝うこと……」

「ない」

「そ、そっか。……わたし、いちおう部屋にいるから、もしなにかあったら言ってねっ」

 ……丁字くんの方はなるべく見ないようにしますので。おとなしくスマホ眺めてます。

 とりあえずインスタで――うん、動物の写真でも漁ろうかな。ハッシュタグ、動物園――。


「……つなし


「ひゃいっ!?」

 びっくりした。変な声出ちゃった……うう、丁字くんから「びっくりさせやがって」的な視線を感じる……。

「これ返す。……お気遣いアリガトウ」

「あ、うん……シュシュね」

 速乾性のある素材ながら、まだほんのりとしたしっとり感。……あ、ドライヤーで乾かせばあとでまた使えるよね? うん、待ち時間の過ごし方決定。

 さすが速乾性だなあ、思ってたより乾くの早かった。

 ……お部屋がしんとしちゃった。うーん、でも丁字くん、無言に気まずくなるようなタイプじゃなさそうだし……またインスタ見てようかなあ。

 …………いや、待てよわたし。

 丁字くんと二人きりだよ?

 ずっと丁字くんに言いたかったこと、今なら言うチャンスじゃない?

「あの、えっと……丁字くん!」

「なに」

「き、着替えながらでいいの! ……えっと、き、聞いてくれる?」



 ――がらがら、洗面所の戸が開く。

「忘れずに来てやったぞ」

 改めて目にする芹那の私服――黒の七分袖パーカーに動きやすそうなグレーのズボン、以前男の子の芹那とサイズ以外はほとんど変わらないようなチョイスだけど、今の芹那が着ると持ち前のキュートさに反した少年っぽさがなんだかグッド。――ところで腕に気になるものが。

「それ、さっきのシュシュ?」

つなしが乾かしたから持ってけって。……髪まとめた方が食べるとき汚れにくいから、だってさ」

 ポニテ芹那の最速再放送決定。ツナ氏、ナイスアドバイス。右手が勝手にグッジョブの形を取ってしまった。

「ええと……それじゃあこの籐の椅子に、ささっ、こちらへっ」

 姫様のためにあたためてた(もちろん嘘)椅子からどいて、選手交代。

 ちょっと広い洗面所に、背もたれの無い籐の椅子――そして高そうなドライヤー。……うん、お金持ちの家って感じ。収納もごちゃごちゃしてなくてつよい。あふるる高級感。

「……さっきつなしが委員長の部屋で使ってたのもそうだけど、ドライヤーまで高そうだよな。こっちのは美容院みたい」

「あ、こまりんの部屋にもドライヤーあったんだ」

 ん? ……ってことは――!

「あっちで乾かさないでわざわざオレのとこまで来てくれた……ってコト!?」

 泣いちゃった。嬉しくてちょっと、こう、涙がじんわり。

「……律儀に来るんじゃなかった」

 鏡越しの不服そうな表情とイントネーションの中に若干の恥じらいを感じるのはオレの気のせいじゃないと思う。

「率直に言って抱きしめたい」

 ……オレの煩悩はドライヤーの轟音と共にかき消えました。大丈夫大丈夫、キコエテナイ。鏡の中の芹那が眉毛しかめてるけど、あとで聞かれてもすっとぼけます。

「――よし、完了っ!」

 ポニテの要領が分からなくて下結びになっちゃったけど、これはこれでカワイイのでアリ。

 大きな鏡の前でのスタイリング、芹那の顔が見えて大変に良かったな……。なんかもう目が合うたびにニコニコしちゃった。……そのたび目そらされたけど、そこはがんこちゃんマインドで。

「んじゃー芹那っ、お待ちかねのかき氷、食べに行きます――かっ?」

 ……どうしたんだろう、芹那が難しそうな顔してうつむいてる。

「ええと、芹那?」

 鏡越しに、芹那の顔が映る。

「……少し話してもいい?」

 いつになくシリアスな表情。対するオレは――。

「うん、いいよ」

 いつも通り、にこっと返す。……なるべく芹那が安心できるように。

 ――ひと呼吸おいて、芹那が小さく口を開く。


つなしに告白された」


 意識が宇宙に飛んだよ今。

「……もう一度オネガイシマス」

 あ、オレってこんな眉毛下がるんだ。鏡ってすごいなー。

「なんだよその顔。ふふっ……そんなにショック受けるかよ」

 あ、芹那の表情ちょっとほどけた。オレの顔ナイス。でも早く詳しく説明してほしい。今オレは冷静さを欠こうとしています。

「告白って『好きです』だけじゃないだろ、なんかこう……『罪の告白』とか。別につなしが悪いことしたわけじゃないけど」

「と、言いますと」

 あ、またちょっとシリアスモードな気配。

「…………なんで頭撫でるかな……。はあ、もうそのままでいいや。

 ――つなしに覚えのない感謝をされました。ハイ終了」

 散れ散れ、とばかりに頭に添えた手がはたかれている……どかさないよ?

「…………」

 鏡越しのジト目。しばらくのち、ため息。

「……六月だかに俺がつなしのぶちまけたプリントの束を何も言わずに拾ってやったんだと。軽くパニックになってたからお礼も言えなくて、そこから話しかけるタイミングも掴めなくて――だってさ。……ただ何の感情も無く『自分が解決できること』を『処理』しただけで、なんか……別にいいのにって。……なんかさ」

「うん」

「……俺、久樹とかつなしみたいに、気持ちがあったかいニンゲンじゃないから、なんか……。

 ……すごい一生懸命に言われて、『丁字くんはそんなつもりなくても、わたしはすごく嬉しかった』って……なんていうか、過ぎた言葉だなって」

「そうかなあ……? まあでもたしかに、そんなつもりなかったことですごく感謝されたら戸惑っちゃうのは分かるかも」

 明快な答えは見つからないけど、ひとつ確実に言えることがある。

「芹那のもやもや、オレに話してくれてありがとう。着替えの前も含めてね」

 あ、鏡の中のオレ、嬉しそう。

「……俺、オマエのそういうとこホントに嫌い」

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