安心できません、着てください

「うー……んっ」

 太陽に向かって伸びをすると、ひまわりになった気分。絶妙に曇り空だけど方向は合ってるってことで。

「いやー、遊んだね。ビーチボールして、浮き輪で浮かんで、水鉄砲も飛び交ったりで……」

「……スミは執拗に丁字から狙われてたな」

 大きい施設とは違って流れるプールとかウォータースライダーは無いけど、それでも一時間ちょいがあっという間に経つくらいには遊び倒した実感がある。お昼寝がはかどりそう。

「ところでスミ、丁字はいいのか? さっきから向こうでこちらの様子を窺っているようだが」

「え」

 マッキーの指す方を向けば、芹那がぷいっと顔をそむけた。……揺れるポニーテール、良い。

「……行かないのか?」

「あ、いや……ありがとマッキー、オレ芹那のとこ行ってくるね」

「うむ」



「せりなー!」

 ――海パン姿の久樹が小走りで駆け寄ってくる。

「……なに」

「ごめんね、気付かなくて。なにか話したいこと?」

「別に――」

 ――なんでもないと言いかけて、止まる。言葉が自然とこぼれ落ちる。

「もっとカワイイのが良かったんじゃないの、……俺の水着」

「え? 十分かわいいと思うけど……」

 ……その表情やめろ、むかつく。お手本のようにきょとんとした顔しやがって。

「ジャージに体操着とそんなに変わらないだろコレ。……正直アリガタミ薄いんじゃないの?」

「うーん……ありがたみで言ったら芹那が誘いに応じてくれて、水着に着替えてくれたことがもうありがたいし……あと、ヘンタイっぽい感想になるけど……芹那の綺麗なおみあしが拝めたのもありがたみマックスかな。

 ……えっと、もっと違うのが着たかった?」

 これもとぼけたフリとかじゃないんだろうな……本当にむかつく。ため息出る。

「俺が『着たかった』じゃなくオマエが『着せたかった』んじゃないかって言ってんの。あとカワイイ系とは違くても、例えば――」

 ――ラッシュガードのチャックを下ろす。

「……こういうのとか。露出多い方がアリガタミ増すだろ」

 スポブラ同然なインナー水着で俗に言うセクシーとはほど遠いけど。あと胸も薄いし。

 ……久樹、フリーズしてる。今度は逆に感情の読めない顔しやがって。

「……………せ、芹那……おなか……お腹しまおう、うん、冷えちゃうから」

 コイツ目つむりやがった。

「美少女の半裸サービスシーンだぞ、少しは拝むなりしろ」

「なっ……どうしてそう脱ぎたがりなの!? 病院の時といい……もっと自分を大事にして!!?」

「どこぞの教授みたいな説教モーションしやがって……。もういい。

 ――ほら、閉めたぞ。どうせ着替えるとき脱ぐのに、二度手間だ」

「芹那が脱がなきゃ発生しなかった手間だよ!? もう……」

 ――薄目を経由した視線を向けられる。憐れむような、軽蔑するような。……そこに照れや欲情は感じられない。

「……委員長サマもそうだけど、ヘンに配慮行き届いてるっていうか良心あるっていうか……そういうの逆にムカつく。……いっそ着せ替え人形にされたりヘンな目で見られた方がマシ」

 ――数秒、じっと視線が合う。

「………………なんでアタマ撫でるんだよ」

「んー、なんとなく?」

 大きい。……優しい。でも……――いや、だからこそなのか、この感覚に身を任せてたら胸が苦しくなってきそうで――。

「も……もういいだろ、やめろ……おしまい、おーしーまーいっ!」

 ――久樹の手を振り払う。

 ああもう、くすくす笑うな。くそ、なんかむずがゆい。

「シャワー浴びに行こっか。着替え終わったら洗面所まで来てくれる? 髪の毛乾かしてあげる」

「覚えてたらな」

 ――適当に久樹をあしらって、シャワーを目指して歩き始める。

 ……早くかき氷食べて帰りたい。

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