それから(前)

 ほんと、今日も残暑どころか夏真っ盛りな天気だなあ――って話題が脳内ループしちゃう程度には暑い。オレも日傘買おうかなあ……。

 と、カーナビなら「まもなく目的地に到着します」な距離まで到達。

 ん? あのジャージ姿は――。

「あ、オヤスミくん」

「なずなちゃん、おはよう。今出るとこ?」

「うん、今日は朝練ないから。……お兄ちゃん・・・・・ならまだ寝てる。いいなあ、高校は近くて。中学こっち距離二倍だよー、二倍っ」

 それとなく日陰に移動。なずなちゃんも追従。

「それでも早めの出発じゃない? もう少しゆっくりしても間に合うと思うけど――」

「早く着いたらそのぶん友達と話したりできるし。あと、今みたいにオヤスミくんと話してても遅刻しないし?」

 へへん、と腰に手を当ててドヤ顔。……なずなちゃん、ほんと芹那と対象的だなあ……なんて思うオレであった。

「あ、そうだ。……お兄ちゃん、なんかあったの? 昨日帰ってからずっと、いつもの五倍くらいマジックインキな顔してたから」

 訂正。芹那を『陰気』と称しながらも心配そうにしてるあたり、しっかり芹那と兄妹だ。

「んー、ちょっとね。オレと喧嘩――ではないんだけど、それでかな。でもちゃんと仲直りできてるから、大丈夫だよ」

 そしてどことなく面影のあるジト目フェイス。

「……オヤスミくん、やっぱお兄ちゃんに甘くない? 絶対やなこと言われてるでしょ……。メに余ったら報告してね? もう『ガツン』だからっ」

 ……今のジェスチャー、『ドゴォ』くらいの勢いあったなあ……。

「――じゃあね! お兄ちゃんねぼすけだけど、根気よくガンバってねっ」



 ノック。……今日も返事無し。そのまま入室。

「芹那、おはよう――」

 ……改めて芹那の部屋、整ってて偉いよなあ。必要最低限って感じ。オレからするとちょっと寂しくも思うけど。

 それはさておき――芹那起こしチャレンジ、第二日目開幕。

「せーりなっ、おはよー、朝ですよーっと」

 まずは腕を優しくトントン。果たして芹那は――。

「おきてる……」

 起きてた(横にはなってるけど)。それとむにゃむにゃボイスかわいい。

「よし、そのまま頑張って起きようっ」

「………………」

 芹那がゆっくり起き上がる……も脱力! ぽふんと横に倒れそうなところを間一髪でキャッチ。ななめ45度を90度のところまで調整。

「んぅ……」

「――ん!? ちょっ……芹那!!?」

 起き上がろうとしてオレを支えにするなら分かる、しかしどうして腰に抱きつかれているのかコレガワカラナイ。……あ、抱き枕だと思われてる?

「ちっ……違うよ? オレだよオレ」

 詐欺みたいになっちゃった。……ええと、どうしたら……。

「………………」

 ……いや、違くて。なにやってんのオレ。頭なでてる場合じゃなくて。……ああ、でも ……なでる度に芹那が頭押し付けてくるの、嬉しいな……。このまま学校サボってずっとナデナデできたら確実にハッピーだよなあ……。

 ……いや、人ん人ん、許可得て起こしに来てるのに遅刻どころか学校サボりなんてことになったらどう考えても迷惑すぎる。もちろん自分の家ならいいってこともなくて。

 えーとえっとえっと考えろオレ。芹那が起きる方法、起きれる方法、起きたくなる方法――。

「……あ」

 ポッケからスマホ召喚。アプリ起動して……ウォッチリスト、……で、テキトーな話選んで、ちょっと飛ばして音量上げて……。


『宇宙の片隅の惑星、チキュー。五つの王国が治めるこの星に、巨大な危機が迫っている!』


「んえ」

 がば、と顔を上げる芹那。作戦大成功!

「えへへ……おはよう。さすがに戦隊始まったらイヤでも頭起きるよねぇ」

 ライダーだと放送順の関係でまだ頭ぼんやりしてそうだし。あとはイントロのギターと前口上がすみやかに脳まで行き渡るかなって。

「……なんでオマエにくっついてんの俺」

 ばっと離れる芹那、そして名残惜しいオレ。

 ともあれ目が覚めてくれてよかった。

「これからこの作戦で行こうかな」

「やめろ、曜日感覚バグる」

 ベッドから降りた芹那を先導して、部屋のドアを開けてあげて。

 それじゃあ今日もはりきって待機&準備!

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