俺はお前が嫌いだ

「いやー、楽しかった! 正直まだまだ歌えるけど、総合的にはオールオッケー!」

 ……タイムリミットまで付き合っちまった。

 しかしホント、夕方までノンストップだったな……。終盤にかけてバテるどころかどんどんギア加速してた感じ。さすがにノド心配になる。

「ホントは芹那の歌も聞きたかったけど……まあ、それはまた次の機会にってことで」

「やだ。授業ならともかく、人前でなんか歌わねえ」

 ――バス停に向かって歩き続ける。

 登校する時も思ったけど――久樹の歩くスピード、前より少し遅い気がする。……もしかして、現在いまの俺の歩幅に合わせてる? 余計な反応されたくないからツッコまないでおくけど。

「そういえば芹那、期末テストの受け直しってどうなったんだっけ? これから?」

「昨日特別に受けさせてもらった。授業に遅れが出ないように、ってさ」

 ――久樹と並んで歩き続ける。狭い道では一列に、広い道では横並びに。

 率先して車道側歩こうとするのムカつく。

 俺も妹に対して一応そうすることはある。けど、自分がそういう存在として扱われるのはなんかこう……いけ好かない。

 そんなにか弱く見えるか。心配か。……そうなんだろうな。くそ……。

「――でさ? 提出課題がいっこ真っ白で、マズーッ! って思、っ……――芹那!?」

「めっ……目にゴミ入っただけ……だけだから、別に……泣いてるとか、じゃ……」

 やばい、止まらなくなってきた。……ホント嫌だな、この肉体からだ。ホルモンバランスの関係で情緒が崩れやすくなるだとか……意識戻ってから嫌ほど薬飲んでるのに。ちくしょう。

「ええと……ちょっと端っこ寄って、うん。とりあえずえーと……ティッシュティッシュ……」

「……いい」

「良くないよ、顔べしょべしょだよ? いったん拭いて、まだ落ち着くのは無理かもだけど……もうすぐ駅ビルだから、着いたらベンチ座って飲み物――」

「……余計なお世話。ホントお節介。……そんなに俺が心配か? カワイソウか? ……だろうな、トモダチ作らないで、一人でずっと退屈そうで、ぐすっ、そんなヤツが急にっ、か弱いオンナノコになって……っ、そんなのっ、一人にさせないで……っ、助けてやらなきゃダメだよなあ?」

 自分で言ってて嫌になる。まるで主人公に手を差し伸べられるサブキャラ、あるいはゲストキャラだ。境遇も、態度も、心情も。

 ……そんな感動的なポジションごめんだ。俺はモブがいい。モブでいい。雑に襲われて死ぬようなやつ。……今すぐそうはなれないから、せめて主人公の心に傷を付けてそれっきりの役になってやる。

「……トイレ。急ぐ。……着いてくんなッ!」

 もちろん嘘だけど。

 ――全速力で駅ビルを目指す。

 久樹は、着いてこなかった。

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