男同士(?)、防音密室、自由時間。何も起きない
「ねぇ芹那。……芹那はこういう言い方好まないと思うけど、あえて言わせてもらうね?
――防音な密室に男女で二人きり。
そんな状況でオレがしたいこと、芹那ならわかるよね……?」
――不敵な笑み。意味深なセリフ。
「に、にじり寄るなっ。離れろ、はなれてっ、ソーシャルディスタンスっ!」
コイツに限ってそんな……いや、俺がなにか誤解してる可能性はある。そうだ、どうせしょうもないことに違いない。
……違いない、よな?
──────────
カラオケ屋に連れてかれたと思ったらなぜか天ぷら蕎麦が出てきた。意味不明にもほどがある。
「ふふ、新鮮な初見の反応……。オーナーさんの趣味らしいよ、蕎麦打ち。不定期に数量限定で用意されるんだけど、昨日『出るかも』って独自の情報網からリークがあってね?」
「インサイダー取引じゃん。てか独自の情報網って何だよ」
「グループトークのルーム名」
鏡を見なくても自分がチベットスナギツネみたいな
「まあまあ。伸びないうちに食べよっか、光らないそば」
「いつのネタだよ……――いただきます」
――せいろから蕎麦を取り分けて、つゆに浸して……。
うまく啜れない。……取りすぎたか。なかなか
「――ん」
おいしい。
冷たくきゅっと締まった麺――蕎麦の香りも死んでない。つゆも濃すぎず薄すぎず。千円以内でこの味が出てくるの正直どうかしてると思う。
えび天も小さいけどサクサクのプリプリで、しそ天は絶妙なサクッと感。揚げるの難しいだろうに。
「……蕎麦屋に改装した方が儲かるんじゃねえのか、これ……?」
「『趣味』で『数量限定』だからこそ出せる味……だったりするのかもよ? ずぞぞぞ」
久樹、やっぱり俺より一度に取る量多いな。……向こうからしたら俺はちみちみ健気に蕎麦啜ってるように見えるのかな。だろうな。ちくしょう。
「……芹那、焦らなくていいよ? 部屋夕方まで使えるし」
「俺のスピードじゃ日が暮れるって言いてえのか? するるる」
まあ、味わって食べたいし変な対抗意識は鎮めるに限るな。
「ん? 芹那、なんで後ろ向くの?」
「オマエが微笑ましそーな目で見てくるから」
◆
「ちょっと休憩したし、そろそろいいかな」
――久樹がよいしょと席を立つ。
「……なんか距離詰めようとしてないか?」
テーブル挟んだ位置からどんどんこっちに迫ってきてるのは確実に気のせいじゃない。
……あ、これ端に追いやられる。まずい。……いや、何がマズいんだ。でもなんかマズい感じする――本能的に?
「ねぇ芹那」
――久樹がどんどん距離を詰める。
「……芹那はこういう言い方好まないと思うけど、あえて言わせてもらうね?」
「な、なんだよ……」
「――防音な密室に男女で二人きり。そんな状況でオレがしたいこと、芹那ならわかるよね……?」
──────────
「なぜこうなったかというと……」でオープニングに入りそうな不可解シチュエーション――ここ数十分間の回想が頭の中で高速展開してるんだけど、これ走馬灯か?
「待て、落ち着け、何するつもりだ」
「何って、そりゃ――ねぇ?」
当然みたいな顔して首かしげられても困る。ていうか近い、どんどん近い。……いざとなったらテーブル潜って逃げるか?
――久樹が手元をがさがさ漁る。
握らされたのは黒くて太い、そして片手ではちょっと重たい――。
「……マイク?」
「――大怪盗アルセーヌ・ルパンが残した不思議な宝物『ルパンコレクション』がギャングラーに奪われた!
失った大切な人を取り戻す為に戦う快盗、世界の平和を守るために戦う警察――君はどっちを応援する?」
――久樹、デンモク操作。
――そして流れる、短くも聞き覚えのあるイントロ。
――すかさず歌い始める久樹。
「………………」
「いや芹那も歌って!!?」
「歌わない」
「えー! せっかく男女揃ってるのに! なら『ルパンレンジャーVSパトレンジャー』歌うしかなくない!!?」
「帰る」
「えー!」
「かーえーる!」
「じゃ、じゃあオレひとりで歌う……」
歌えないだろ、……いや……わりとちゃんと歌えてるな……?
「……最初からこれが目的だったのか?」
「〜〜〜♪♪♪ ……んー? まあ目標の一つと言いますか……一緒にご飯食べて、ついでに楽しいことできたらなーって。…………♪♪♪」
……なんていうか、コイツはどこまで行ってもコイツだな。
――呆れと疲れのため息を吐いた。
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