お昼ご飯を食べに行こう

「起立、礼――」


 ――始業式やらなんやらが終わって教室がざわつき始める。

 疲れた。……覚悟してたほどじゃなかったけど。

 まあいい、何もないなりにさっさと帰って――。

「せーりなっ」

 うわ出た。

「……ふふ。一日お疲れ様」

「学校午前中だけだったけどな」

「まあまあ、細かいことは気にしない。……それで、どうだった? 久しぶりの登校。なんかあった?」

 分かりきったニコニコ顔、むかつく。

「びっくりするほどなんも無かった。たまに視線は感じるけど、変に絡まれることも無かったし。……オマエに以外は」

「そっか、良かった」

 強いて言うならギャルたちが「うちら味方だからね」とか言って飴とかチョコとかくれたくらいか。……ちょっとウザかったけど、久樹に比べたらずっとマシだしまだ許す。

「あのさ、お昼食べに行かない? オレがおごってあげるから、ね?」

「……オマエ夏休みいくら稼いだの?」

「ふふ、秘密〜」

 なんだそのニヤケ面。本格的にむかつく。

「ていうか誘うならもっと仲良いのとか賑やかなのがいるだろ。俺なんかにかまけてないでそういうヤツらとつるんでろよ、貴重なセーシュン棒に振るぞ」

 ――前学期より一回り大きくなったカバンを手に取って背負しょい込む。このまま帰ってやろうかな。

「貴重な青春だからこそ、オレは芹那と過ごしたいけどなあ。もちろん他の友達も楽しいよ? でも、今日は芹那といたいなーって」

 ――久樹が軽くしゃがみ込んで、こちらの顔をのぞき込む。

 ホントにコイツ、俺の美少女っぷりに腰抜かしてしばらく惚けてたヤツと同一人物? なんか幼稚園の先生みたいに優しい顔と声色で――くそ、どこからその余裕湧いて出たんだよ。これでヘンに背いたらかえって子供みたいじゃんか。

「……おなか空いた。仕方ないから行ってやる」

 いずれ覚えてろ、くそが。

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