一方その頃

「あー、こほん――」

 チャイムにはまだ余裕のある八時過ぎ。

 教卓に手をつく委員長、with黒板前には副委員長こと俺、松来極まつききわみ

 ――視線の先には、ごく一部の例外を除き集められた級友たち。

 そしていつもの如く、これから犯人を言い当てようとする探偵もかくやな口ぶりで切り出す委員長。

「今日早くから皆さんにお集まり頂いたのは他でもありません!」

 しん、と静まった群衆を前に、落ち着いたトーンで委員長が続ける。

「今日から復帰となる丁字さんについてです」

 ――倒れた丁字の『その後』について。

 委員長の話を受けてざわざわ森と化す教室、それを背中で受け止めながら要点をチョークで書き留めていく。

「丁字さんの姿を目の当たりにすれば、十中八九は戸惑うでしょう。――しかしなにより、一番当惑しているのは丁字さんその人に他なりません。事態が事態です――何が何でも『今まで通り』に徹しろとは言いませんが、少しでも本人の置かれた心境を考えるようにっ」

 ビシィッと言ってみせているが、自戒を込めての言動である。……なんて迂闊に言ったら怒られるので言わないが。

「マツライ? 何か言いたいことでも」

「気の所為です委員長閣下、続きを」

 俺は怪訝フェイスに屈しない。……黒板に向き直れば、こほんとわざとらしい咳の音。

「そろそろ丁字さんと付き添い・・・・が登校してくる頃ですから、この辺で。……最後に、ワタシが丁字さんとの面会で言われた言葉を。

『これでも俺は男だ、なんて言うつもりは無いけど――俺は俺だ。見た目がカワイくなったからって中身までカワイイオンナノコになったつもりは無いから』

 ――以上!」

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