世界が嫉妬する髪へ

「……着替えたけど」

 制服姿の芹那があらわれた! コマンド?

「うん、じゃあオレの前に座ってくれる?」

 オヤスミは手招きをした! ……制服もバッチリ似合ってる、とか言い始めると余計なことまで言っちゃいそうだしね。『スカートも似合いそう』だとか。

 ラグマットに芹那が座る。こっちもすかさず、ローテーブルに置いた寝癖直しスプレーを手に取って――。

「じゃあ、まずは軽く濡らしていきまーす」

 全体にしゅっしゅ。前髪も忘れずに、目の上に手でバリア張りながらぷしゅー。ほんのりミントのいい香り。

「次は、えーと……ドライヤー」

 スイッチを上まで滑らせれば、エンジン全開な轟音がけたたましく鳴り響く!

 最初は前髪から。もう一度バリア展開しつつ、近づけすぎないように、当てすぎないように……――そろそろ後ろ行っていいかな? ちょっと触って……うん、良さそう。

 後ろは……えーと、ちょっと引っ張りながら乾かすんだよね。一旦ドライヤーストップ。

「芹那、髪の毛ひっぱるけどもし痛かったら言ってね?」

「……いいから早く終わらせろ」

 オッケーとのことなのでドライヤー再開。

 髪は下から引っ張りながら、ドライヤーは上からゆっくり降りながら。

 肩甲骨おしまいに行き当たったら冷風にモードチェンジ。……変身アイテムみたいにガイド音声が流れたらちょっとテンション上がりそうだなって前々から思ってる。

 仕上げに冷気を行き渡らせて――。

「――よし、ドライヤー完了っ」

 いよいよ後半戦、あとはブラッシングあるのみ。

「……こんなブラシ、うちにあったっけ」

「スタイリスト私物です。……あ、もちろんピカピカの新品だよ? いやー、持つべきものはバイト代だね」

『ワンストロークでまとまる』なんて宣伝文句がうたわれてたけど、一応念のため毛先からちょっとずつ、ほぐすように丁寧に。

「え、オマエこれいくら――」

「推しへの課金は実質タダ!」

 うん、至言至言。ため息は感謝の意として受け取っておきます。

「でもこれ本当にすごくまとまるよ? ほら、ワンランク上のふわさら髪になってる」

「俺には見えないけど」

「あ、やる前写真撮っておけば良かったな……。明日はビフォーアフター比較しようね」

「しなくていい」

 なんて話してるうちにブラッシング完了。ヘアアレンジもそのうちさせてほしい。

「……芹那、髪切る予定ある?」

「これでも切った方。またドネーションするから伸ばす」

「ヘアドネーションしたんだ!」

「性別変わっていきなり髪伸びたから、切りたいって言ったら看護師さんが教えてくれた。……ショ、ショートにしなかったのは俺の意思じゃないからな! 頼んだらこの長さに切られてただけだっ」

「聞いてない聞いてない。ふふ、道具しまってくるね」

「なんで笑ってんだ……くそっ、勘違いするなよ!」

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