新学期編

寝起きドッキリ

 こんこんこん、と芹那の部屋のドアをノック。

 ……返事は無し。お家の許可は得てるので迷わずにゴー。

「おはよーございまーす……」

 前にテレビで見た昔の『寝起きドッキリ』みたいにして、抜き足、差し足、忍び足。

 ……寝息がどんどん近くなる。

「芹那ー?」

 ベッドに到達。果たしてオレの目に飛び込んできた光景とは?


「すぅ……」


 ――衝撃の映像がこちら。

 横向きに丸まりながら大きめのぬいぐるみを抱き枕にして眠る、まつ毛の長い小柄な美少女――網膜に映し出された芹那の姿は、仮にゲームなら間違いなく一枚絵がスクロールして出てくるタイプのそれで。

 男の子もとの姿でもふつうに微笑ましく感じたとは思うけど……なんというか、今は余計にバフが掛かって、つまり。

「かわいい……」

 割り増し……いや、何百パーセントもマシマシでかわいく見える。天使すぎ。ほっぺぷにぷにしたい。……していいかな?

「……せーりな。芹那ー」

 ――やばい。赤ちゃん。赤ちゃんだこれ。あまりにすべすべぷにぷにが過ぎる。TS化して肌が作り変わったから……? 女の子がみんなこうって訳じゃないよね、だったらスキンケアなんて概念は無いわけだし。

「……ん、んぅ……――なに……」

 もぞっと身体が動いたのに合わせて、指をほっぺからそっと離す。……もっと触ってたかったけど。

「おはよう。今日から新学期だね?」

 自然に笑顔が作れてるとしたら、目をぎゅむっとつむって可愛く声を漏らしてる芹那のおかげ。

「んん……――ひさき……なんでいるの……」

「えへへ、今日から平日の朝はオレが起こしまーす。いぇい」

「……すー」

「いや寝ないで!? ……あっ、まだ夢だと思ってる!? 違うよ、リアルに朝だよ! 起きて!?」

 さながら麺棒で生地を伸ばすかのごとく芹那をゴロゴロ揺すってみる。このまま起きてくれないと仲良く遅刻案件ですよ?

「ん゛んぅ……」

 芹那がタオルケットをかぶろうとする――ところを阻止! そのまま両手を掴んで、ぐいー。

「う゛う゛う゛う゛」

 猫みたいに伸びたところで、すかさず片手で腰を支えて逆リクライニング成功。

「はい、おはよう」

 改めて見ると、シュシュで結んだ髪がかわいい。寝癖対策かな?

「むかつく……」

「あ、起きる?」

「トイレ」

 芹那がのそっと歩き始める。……そして芹那の服装が半袖短パンだったことも正式に判明。ちょっとオーバーサイズ気味なのがまたかわいい。

「ついてくんな」

「まあまあ。――口ゆすいで朝ごはん食べてー、あ、ドア開ける開ける……で、そのままだいたい洗面所って芹那のお母さんから聞いたんだけどさ」

 足音ぺとぺとしててかわいい。

「髪の毛オレがやってあげるから、歯みがきだけで着替えてくれる? オレ、リビングで待ってるから」

「覚えてたらな」

 ――トイレのドアがバタン、と閉まる。

 すみやかに退散、リビング直行。

 ……よし、こっちも準備開始!

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