第12話 夜会①
「それではこれより魔法・剣術実力試験各部門の成績上位者表彰式を執り行います。まずは魔法部門の表彰です。魔法実力試験成績5位、3学年クロード・シューマッハ、前へ!」
「はい!」
進行役を仰せつかった学年主任の教師が緊張しつつも高らかにそう宣言すると、それに呼応するように茶髪の男(恐らくあれがクロード・シューマッハなのだろう)が声を上げ、1人講堂中央に敷かれた王国の紋章などの装飾がされた豪華な赤い絨毯の上に歩み出ると、玉座に座るエルゼスの元へ向かっていく。
そしてクロードがエルゼスの前で跪くと侍従が彼の前に立ち書状を読み上げ始めた。
「王立魔法学院3年生、クロード・シューマッハ。汝は魔法実力試験にて優秀な成績を収めた。王国のため、これからも奮励努力するように」
「はっ!」
最後に侍従から勲章を受け取ると拍手が鳴り響く中、シューマッハはエルゼスに一礼してから人混みの中へ戻っていく。
「……昨日も説明したけどあれがこの式典の大体の流れだ。教師に呼ばれたら声を上げて中央の赤い絨毯のところに行ってそのまま王太子殿下に向かい、侍従から勲章を貰ったらその場から退く。勇者勲章授与の流れもこれと一緒だからさっき呼び出された人と同じことをすればいい」
「……わ、わかりました」
拍手が続く中、俺は改めてフィーネに式典の流れについて説明する。
……それにしても。
「魔法実力試験4位、イアン・モーレフ。前へ!」
「はい!」
続いてイアンが呼び出されエルゼスの元へ向かっていったので俺は改めて玉座の方を見る。
キズヨルで最初の夜会イベントとなる魔法剣術実力試験成績上位者表彰式で上位となったヒロインのフィーネに勲章を送るのは国王本人だったはずだ。
2年生以降は実力試験も表彰式も全てフィーネのモノローグで済まされてしまうので詳細は分からないが何か変化があったという記述はなかったと思う。
それに何よりエルゼスがキズヨル本編に直接登場するのは各ルート終盤の魔王復活と魔王城浮上以降だった。
先の決闘の時もそうだが、エルゼスはなぜこの時期から姿を現している理由が分からない。
「王立魔法学院2年生、イアン・モーレフ。汝は魔法実力試験にて優秀な―――」
そもそもエルゼスはどうしてフィーネのバッドエンドルートだけ一切登場しなかったんだ?
フィーネが目をつけられ、そして学院に入ることになった理由。それにエルゼスは大きく関わっている。
にも関わらず自分の弟がフィーネを学院から追い出そうとしていることに対してエルゼスはどうして何も行動しなかったのだろうか。
(というかエルゼスって色々と謎が多いキャラなんだよなあ。キズヨルシナリオの根幹に関わってるキャラなのに妙に出番がないし、その割にステータスはバカ強いし)
その最大の出番というのもラスボス撃破後にシステムメッセージで「『王太子エルゼス』と腕試しが出来るようになりました。エルゼスとの腕試しに勝利すると最高難易度ダンジョンが解放されます」と伝えられ、何故か序盤から大講堂にいるエルゼスに話しかけると会話なしでいきなり戦闘突入というものだ。
それに勝っても負けても会話はなく、最高難易度ダンジョン――『秘匿領域』へチャレンジできるようになったことをこれまたシステムメッセージで伝えられるだけ。
この不自然なエルゼスの出番にクリアしたプレイヤーの間で様々な議論が行われ、そして最終的には『出番が少ないのは単純に納期に間に合わなかっただけだろう』と結論付けられた。
実際勇者アーロン周りのムービーは確かに感動する出来ではあったけれど、少なくないプレイヤーから『他の要素に力入れるべきだったのでは?』と疑問を投げ掛けられていたので、俺もこの結論をすんなりと受け入れていたのだが……。
(ゲームが現実となったこの世界でエルゼスがフィーネがバッドエンドルートに入ったにも関わらず動かなかった理由……。単純にそのことを知らなかったのか。あるいは何か意図があったのか? ……と)
「魔法実力試験3位、サラサ・エンフォーサー。前へ!」
そんなことを考えている間にイアンの表彰が終わり、魔法実力試験3位のサラサ嬢が呼び出された。
サラサ嬢は相変わらず気だるげでやる気がなさそうにエルゼスの元へ歩いていく。
そしてそんな彼女の態度と容姿に魔法学院の教師陣は顔を真っ青にしていた。
「……あの、アッシュさん。本当に今さらなのですがサラサさんはドレスを着てこないといけないのを知らなかったのでは……?」
「いやあ、知ってたとしてもドレスは着てこなかったんじゃないかな……。現にこれだけ大勢の人がいる場にボサボサの髪と着崩した制服で来てるわけだし」
むしろ俺は出席したことに驚いている。
これまでのサラサ嬢の言動を考えるとパーティーを無断欠席してもおかしくなさそうだったのだが。
(流石に王族が出席する式典には出ないとまずいと思ったのか? それとも他に何か狙いが?)
「お、王立魔法学院1年生、サラサ・エンフォーサー。な、汝は魔法実力試験にて優秀な成績を収めた。お、王国のため、これからも奮励努力するように……」
「ああ、わかったわかった。ではもう帰ってもいいかね?」
「あ、ああ……」
侍従は顔を引きつらせながらそう返事をすると、サラサ嬢は用は済んだとばかりにその場から立ち去る。
……いやはや、あの子本当にフリーダムな性格してるな。
「ま、魔法実力試験成績2位、フィーネ・シュタウト。まっ、前へ!」
「……それじゃ行ってきますね」
「おう、いってらっしゃい」
続いて呼び出されたフィーネは俺に一言告げるとエルゼスの元へ向かう。
「お、やっと見つけたぜ」
それに前後してイアンが俺の元へ駆け寄ってくる。
「お帰り、イアン。どうだった?」
「めっちゃ緊張したわ。王太子殿下の前にいるってあんな疲れるものなんだな……」
まあ本来直接お目にかかることすらない御仁なのだからそりゃ疲れるだろうな。
さて、フィーネの様子は……?
「……あの子、凄く綺麗だな」
「あれが平民の娘って嘘だろ?」
「魔法、剣術どちらも2位なんだって。凄い……」
ドレスを着て優雅に歩くフィーネの姿に、参加者は羨望の眼差しを送っている。
「……」
「アッシュ、お前なんで満足そうな顔してるんだ?」
「え? 俺そんな顔してた?」
「してた。滅茶苦茶ニンマリした顔でフィーネちゃんを見てたぞ」
……そんな顔してたのか、俺。ちょっと気をつけないとな。
「王立魔法学院2年生、フィーネ・シュタウト。汝は魔法実力試験にて優秀な成績を収めた。王国のため、これからも奮励努力するように」
「はい!」
エルゼスはシューマッハの時と同じで笑みを浮かべながら目下のフィーネを見ている。
……あそこまで近づけば何かしらエルゼスの態度や表情に変化が現れるかなと思ったんだけどな。
「魔法実力試験1位、アッシュ・レーベン。前へ!」
「はっ!」
さてついに俺の番か。
「じゃ、行ってくるわ」
「頑張れよ」
「おう」
イアンとそんなやり取りを交わして俺はエルゼスの元へ向かう。
「……あれがあの4騎士を蹂躙した」
「全部門トップってマジかよ……」
「あいつに逆らったらどんな目に遭うか……」
周りの反応は……まあ良いとは決して言えないものばかりだな。
今さらだし気にしないけど。
「王立魔法学院2年生、アッシュ・レーベン。汝は魔法実力試験にて優秀な成績を収めた。王国のため、これからも奮励努力するように」
「はっ!」
そしてエルゼスの前で跪くと侍従から勲章を受け取り、改めて一礼する。
その時、一瞬だけエルゼスの顔を確認したが、彼の表情や態度には相変わらず変化が見られなかった。
(……不気味な奴)
そんな感想を抱きながら、俺はまた人混みの中へ戻っていくのだった。
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