第3話 魔法実力試験①
「皆さん、本日の魔法・剣術実力試験は全学年合同で行います! 事前にお渡しした番号と案内に従ってコロシアムで実力試験を受けてください!」
子爵位に叙されるという超ド級の胃痛案件を抱えながら迎えた翌日、俺たちは王立魔法学院恒例の魔法・剣術実力試験を受けることになった。
王立魔法学院では前世の中学高校で行われるような定期テストはあるが、それ以上に重要視される試験がある。
それが年に2度、魔法・剣術実力試験というものが行われ、各々の魔法や剣術の才能を騎士団や宮廷魔術師が見守る中で測定されることになっている。
そしてここで優れた成績を叩き出して騎士団や宮廷魔術師の目に留まれば卒業後に色々と便宜を図ってもらえるようになるのだ。
そのためこれら実力試験は今後の人生を左右する重要な【儀式】という側面も持っていた。
さて、この魔法・剣術実力試験は全学年合同で行うためその日の授業は丸ごとなし、さらに王立魔法学院では珍しく全生徒の出席が義務付けられていることから1日中学院に拘束されることになる。
そしてそれが意味するのは……。
「……おい、あれが4騎士を叩きのめしたっていう……」
「……あいつ、全身で血を浴びながら笑ってたらしいぞ……」
「……こ、こわい」
「はあ……」
つまり丸1日ずっとこの化け物を見るような視線に晒され続けるというわけだ。
というかどんどん噂に尾鰭がついていっていないか? お前らの目には俺はどんな殺人モンスターに見えているんだ?
「おーい、アッシュ!」
と、そこで能天気な声で俺を呼ぶ声が聞こえてくる。
声が聞こえた方を見るとそこにはイアンの姿があった。
「よお、イアン。番号何番だった?」
「魔法が190番、剣術が105番だったよ。お前は?」
「魔法が423、剣術が441。どっちもだいぶ後ろの方だな」
王立魔法学院の生徒数は全学年合わせて確か500人程度のはずだ。
それを考えると魔法も剣術も400番台となってしまったのはかなり運がない。何せ実力試験が終わるまでずっとコロシアムから離れられないのだから。
「はあ、ついてねえ……」
幸先の悪さにため息をつきながら、ついでに辺りを見回してみる。
……フィーネの姿は見当たらない。もう番号札を受け取ってコロシアムの中に入ってしまったのだろうか。
「アッシュ、とりあえず入って良い席確保しとこうぜ」
「……そうだな。あ、ついでと言ったら何だけど400番台が呼ばれたら起こしてくれよ。それまで寝てるから」
「見なくていいのか?」
「真面目に見てたら嫌な視線も目に入るから」
「ああー、そういうことか。でもオレの活躍はしっかり見ててくれよ」
「分かってるよ」
そんなことを話しながら俺たちはコロシアムの観客席側の入り口へと向かう。
(……やっぱりいないな)
最後にもう一度振り返ってフィーネの姿を探してみるが人混みの中からあの特徴的な桃色の髪を見つかることは出来ず、俺は「やっぱりもう中に入ってしまったのだろう」と考え、大人しくコロシアム内に入っていくのだった。
◇◇◇
「これより魔法実力試験を開始します! 1番から100番までの方はコロシアム中央の闘技場前に集まってください!」
教員の呼び声を受けて既に中央闘技場付近で各々の派閥だったりグループに分かれていた100人の生徒が一斉に集まり出す。
「おい、アッシュ。あの子、フィーネちゃんじゃないか?」
一方周囲の視線を無視するために観客席の最上部で目を閉じようとしていた俺の肩をイアンが叩く。
言われてイアンが指差す方向を見ると、そこには確かにフィーネの姿が。
位置的に50番台くらいだろうか。
「イアン、頼み事ばっかで悪いんだけど闘技場に行く時にフィーネと会ったら俺がここにいるって知らせてくれないか」
「 りょーかい。でもここまで頼まれてやったんだから今度何か奢れよ」
「はいよ」
「それではこれより魔法実力試験を開始します! 1番の方から順に的に魔法を放ってください!」
と、そこで魔法により拡声された教師のアナウンスがコロシアム中に響き渡る。
午前中に行われる魔法実力試験はそれぞれが得意とする魔法を宮廷魔術師が用意した特殊な魔法防御を施した魔物型の的に当てるというものだ。
またこの試験はあくまでも実力を図るためのものであるから使用する杖は全て学園から貸し出されたものとされている。
「『ファイアボール』!」
「ウィリアム・アレッタ、65点!」
そして的に向かって魔法を放った後、試験官にその魔法の威力や鮮やかさ、発動までのスピードなどから100点満点で点数をつけられ、そこでようやく魔法実力試験は終了となるのだ。
しかしこの魔法実力試験で見られる魔法というのはゲームやダンジョンでモンスターが使う実践的な魔法に比べると地味で非効率的なものばかりで面白みは全くない。
まあこれでも全体から見れば上澄みな方なのだろうが。
「お、フィーネちゃんの番だぞ!」
そうして暇な時間を過ごしているとフィーネの番が回ってくる。
ゲームだと【聖魔法】で発生させた光の粒子を的に纏わせることで高得点を稼いでいたが……。
「はあっ!」
フィーネが杖を的へ向けると空中にいくつもの魔法陣が出現し、そこから的の姿が見えなくなるほどの光の奔流が発生する。
「フィーネ・シュタウト! 96点!」
「おいおい、96点って歴代最高得点じゃね?」
「あ、ああ、多分そうだったと思う」
確かゲームでレコンが5属性の魔法を組み合わせた攻撃を披露した際の点数が91点で、その時に「王立魔法学院始まって以来の最高得点」とモブキャラたちが話していたのを覚えている。
それを考えるとフィーネの96点という数字は相当なものだと言えるだろう。
実際周囲もフィーネが披露した未知の魔法とそれに対する点数に相当ざわついている。
(というか、俺が教えたのはレベリングとバフをかけるタイミングとかだったからあれはフィーネが自分自身で会得した魔法なのか。本当に凄いな……)
彼女の努力の成果に心の底から感嘆していると、俺の姿を見つけたフィーネがVサインを送る。
いやはや、フィーネが俺の知らないところで努力をしてあれほどの魔法を扱えるようになっていたとは知らなかった。
これはお祝いに何か買ってくるかな。
「101番から200番までの生徒は闘技場前に集合してください!」
「オレの番だな。期待して見てろよ」
「ああ。応援してるよ」
そこで場内アナウンスが鳴りイアンは席を立つ。
さて、あいつは
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