第11話 決闘②

 それは新しいレベル上げの獲物を探している最中にリザードマンと戦っていた時のことだった。

 相手のリザードマンは両手剣を握っていて、俺に上段斬りを叩き込もうとしてきたので、とりあえず下手な盾よりかはよっぽど頑丈な秘匿領域産の片手剣で防ごうとしたのだが。


「ギャギャアッ!?」

「……あれ?」


 俺の片手剣は偶然真上に突き出され、リザードマンの両手剣はその箇所を中心にひび割れ壊れてしまったのだ。


 大前提として『キズヨル』というゲームには武器耐久値なんて概念は存在しない。

 しかし鉄が雨風に晒されて錆びるのが当然であるように、ゲームではないこの世界の武器は何度も何度も使っていれば刃こぼれを起こし、やがて使い物にならなくなってしまう。

 だから武器が壊れるのはおかしいことではない。そう認識していたのだが、まさかそれを意図的に引き起こすことが出来るとは思っていなかった。


 とりあえず武器を失い慌てふためくリザードマンを瞬殺すると、俺はこの現象についての検証を始め、そしてある結論を得ることになる。


 どうやらこの世界の武器には耐久値という隠しステータスのようなものがあり、それが相手の物を上回った場合その武器を破壊することが出来るようだ。

 しかしこの耐久値の比べ合いが発生するのはごく限られた状況……それこそ相手の武器にクリティカル攻撃をぶつけるくらいのことをしないと発生しない。

 そして何より武器破壊をするということはドロップアイテムが1つ失われるということを意味する。


 なんだこれ、全く役に立たないじゃん。


 こうして無駄に時間を浪費したことを後悔しながら、やや八つ当たり気味にリザードマンの群れに飛び込んでいったのだが。



「お、オレのゲイボルグが……!?」


 まさかこんな形で役に立つとはなあ。

 と、壊れた家宝を前に膝をつき呆然としているユージーンを見ながらしみじみと実感する。


 リザードマン相手にクリティカル攻撃を武器に叩き込む練習、そして防御の加護を与えるフィーネの聖魔法【ディフェンシブ・オーラ】、その全てが合わさった結果がこれだ。

 フィーネの聖魔法自体も彼女を蜂相手にパワーレベリングさせたことで格段に効果が上昇している。

 おかげで武器屋で売っていた一見すると強そうな見た目だが性能は秘匿領域産の武器を除いて中の下な片手剣でもユニーク武器を破壊することができるというわけだ。



 ……というか本当に今さらだけど「壊した武器の賠償をしろ!」とか後で言われないかな。いやでも決闘をすることになった時に「不正があったとか騒ぐなよ」と言っておいたから大丈夫だよね? うん、きっとそうに違いない。そもそもこんな決闘に家宝を持ち出してきたのはユージーンだし、うん、そうしよう。


「ユージーン、大丈夫か!?」

「くそっ! よくも卑怯な真似を……」

「アッシュ・レーベン……!」


 そんなことを考えている間にアルベリヒたちはユージーンたちの元へ駆け寄ると、俺に憎しみの籠った視線をぶつけてくる。


「アルベリヒ、次は私にやらせてくれ」

「いいのか、レコン?」

「私は遠距離攻撃型。奴らのあの卑怯な手段でこの杖を破壊することはできないだろう。その間に君たちは奴らの仕掛けの種を暴いてくれ」


 そう言ってレコンはゲイボルグと同様にシナリオ終盤で手に入る片手杖【ロッド・オブ・アロン】を構え、ユージーンに代わって俺と相対した。


「貴様のような卑怯者に私は負けない! 【ファイアー・ボール】!」


 レコンが放った初級火属性魔法【ファイアー・ボール】は彼が持つシナリオ終盤装備の魔法攻撃力向上効果も加わり中級かそれ以上の威力のある魔法となって俺たち目掛けて飛んでくる。


「フィーネ、攻撃支援頼む」

「はいっ! 【オフェンシブオーラ】!」


 俺はフィーネに簡潔に指示を飛ばすと再び剣を構え、そして――。


「【ウインドスラッシュ】!」

「なっ……、魔法を斬っただと……?」


 風属性の魔法攻撃が含まれる初級魔法剣技【ウインドスラッシュ】を【ファイアーボール】で真っ二つに切り裂く。

 これも原理はゲイボルグを破壊したのと殆ど同じ。違うのは比べ合うの物理的耐久値ではなく魔法攻撃力の差であり、狙うべき的がファイアーボールの中心にある当たり判定ということだ。それとぶつける魔法属性についても考慮しないといけないということくらいか。

 これは以前ラミアの群れと出くわし、そいつらが火属性の魔法攻撃を放ったのと俺が水属性の魔法剣技を同時に放った時に起こった現象から着想を得て試してみたものだがどうやら上手くいってくれたようだ。

 加えてフィーネの物理・魔法攻撃力増強バフ、これが加われば怖いものなしだ。


「! があっ!?」


 さて、その間に俺は自慢の魔法を突破され呆然としているレコンの懐へ忍び込むと、奴が握っているロッド・オブ・アロンを力任せに破壊する。

 そしてすぐにフィーネの前へ戻り剣を構え直すと俺は改めて挑発するようにこう告げた。


「予備の武器があるっていうのなら幾らでも付き合いますよ。俺とフィーネの力で全て破壊してみせますから」

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