第12話 決闘③
side.エリーゼ
(何なのよ、あのモブキャラは……!)
アルベリヒが特別に貸し切ってくれたコロシアム内にあるVIP専用室。そこであたしは決闘の推移に苛立っていた。
大金とコネで用意した最強装備であのクソモブと負け犬をボッコボコにしてこの学院であたしに歯向かうような馬鹿を一掃する。
そう考えていたのに、あいつは、あのクソモブキャラは店売りの武器でそれを余裕綽々といった様子で破壊した。
(これじゃアルベリヒが勝ってもあたしの力を誇れないじゃない!)
あまりに情けないユージーンとレコンの敗北に地団駄を踏んでいると扉が開く音が聞こえてくる。
その音を聞いてあたしは急いで椅子へ座り姿勢を正すと、執事を連れた鳶色の髪の男が特等室に入ってきた。
「ほお、お前さんがアルベリヒがお熱の嬢ちゃんか。なるほど、なるほどな」
そしてそいつは遠慮することなくあたしを見定めるようにじろじろ見ると納得したように頷きながら隣の席に座ってきた。
顔は見覚えがあるような、ないような……。どちらにしろ失礼極まりない男であることは変わらない。
「あの。私、今日この部屋は貸し切りだとアルベリヒ殿下から伺っているのですが……」
「許可は貰っているさ。それに俺はこれでも妻も子もいるのでな。お前さんには決して手出しはしないから安心しろ」
アルベリヒから許可を貰っている……? ということはこの方は王族なのかしら?
どちらにせよ無理やり立ち退いてもらうことは出来なさそうね。こいつも後ろで控えてる執事も何か強そうだし。
「俺の体なら幾らでも観察してくれていいが、それよりお前の大事な大事な婚約者を応援しなくてもいいのか?」
「っ、言われずとも応援していますよ!」
「ならいいんだが」
少し喋っただけで分かった。あたしはこの男のことが嫌いだ。
でもアルベリヒと付き合っていくとなるとこいつとも仲良くしなくちゃいけないのよね。
正直今すぐため息をつきたいところだけど、必死にそれを我慢する。
(早くあいつらをボコボコにしてよ。アルベリヒ……)
あたしはそう願いながら闘技場へと視線を向けた。
◇◇◇
「ゆ、ユージーン様、並びにレコン様を戦闘不能と判断します!」
あれからユージーンとレコンはステゴロで俺に挑んできたが、その拳が届くことはなく流石に審判役の女騎士様も見ていられなくなったのか必死に声を振り絞って宣言する。
しかしユージーンはそれを不服として「まだだ! まだオレはやれる!」とその宣言を不服としたが、アルベリヒに何かを囁かれると不満そうな顔で闘技場から降りていった。
そしてアルベリヒとデイヴィットはこそこそと話し合いを始める。
ま、どんな策でこようがこちらを真正面から打ち破ってみせるだけだが。
「フィーネ、まだ魔法は使えそうか?」
「わたしはまだまだいけます! それよりアッシュさんは怪我とかされていませんよね?」
「かすり傷1つ負ってないから安心してくれ」
俺はフィーネの状態を確認すると改めて剣を構える。
まだまだ戦うつもり満々だったユージーンを引き下がらせることが出来たということは何か奥の手のようなものがあるのだろう。
……となれば油断は出来ないな。
「おおっと、君の相手は私だよ」
そんなことを考えているとデイヴィットが視界外から短剣を握って俺に攻め込んでくる。
これもゲイボルグなどと同じ終盤装備だが、短剣という的の小ささのせいでクリティカル攻撃による武器破壊を狙いにくい。
決闘とはいえど上級貴族に傷をつけたら何が起こるか分からないし、かといって短剣を奴の手から弾き飛ばすのは武器破壊よりも難易度が高い。
だったら――!
「フィーネ! もう一度防御の加護を!」
「は、はい! 【ディフェンシブ・オーラ】!」
片手剣にさらに防御バフをかけてもらうと、俺とデイヴィットは互いに牽制しながら少しずつ距離を詰めていく。
「【アサルトラッシュ】!」
先に動いたのはデイヴィットだった。
彼は短剣による連続攻撃で俺が片手剣を使えないように仕掛けてくる。
しかしその動きは俺の目で十分に捉えきれるもので十分に対処可能なものだ。
「くっ……!? ここまで攻撃を受けても全く表情を崩さないとはな……!?」
俺の動きはデイヴィットの連撃に対応できるよう最適化されていき、彼もそれに気付いたのか冷や汗をかく。
狙いはこのままデイヴィットをバテさせ、動きが止まったところで短剣を奪い取る。
クリティカル攻撃を狙うよりはこちらの方が労力は少ないだろう。
実際デイヴィットの動きは鈍っていき、あと少し耐久すれば短剣を奪い取れるな。
(いや、何かが変だ)
そこまで考えて俺は違和感を覚える。
デイヴィットは攻略対象キャラの中でも頭がよく、ヒロインやアルベリヒたちが気付かないことにもすぐに気付き即座に対応策を思いつくメインキャラの中では参謀枠だった。
それなのに何故無駄だと自覚している攻撃を続ける?
何にせよ、その答えは目の前の相手を無力化すればすぐ分かるだろう。
そう考えて俺は疲れ果てたデイヴィットから短剣を奪い取り、それを闘技場の外へと投げ飛ばす。
「デイヴィット様、戦闘不能!」
審判役はそれを見てすぐにそう宣言する。
……だがデイヴィットの顔はユージーンやレコンと違って何処か満足感のあるものだった。
「……出来ればあと5分は耐えたかったけど、でも君たちに一太刀浴びせる時間は十分稼がせてもらったよ」
「時間……?」
そう言ってデイヴィットはすんなりと闘技場から立ち去っていく。
そしてそれと入れ替わりに剣を鞘に収めたまま構えているアルベリヒが俺たちに相対する。
「ずいぶんと奇妙なことをされていますね、殿下」
「ああ、こいつを解放するには一定時間魔力を込める必要があるからな。だがその時間はデイヴィットが稼いでくれた」
……解放するのに魔力を込める必要がある武器?
そんなものゲームに存在しなかったような―――。
(……いや、いやいや待て待て。まさかアレを持ち出してきたのか!?)
キズヨルには1つだけ、その前提条件が必要となるイベント専用武器がある。
だがそれは例え王族でも、いや王族だからこそこんな決闘ごときに持ち出していいはずのものではない。
特にゲームが現実となったこの世界では。
「頼むから外れてくれ!」と俺は心の中で懇願したのだが、最悪なことにその予想は的中してしまう。
「お、おい。あれって……」
「嘘でしょ? なんでこんな試合に――」
「おい! 警備担当にすぐ連絡を!」
アルベリヒがその剣を完全に鞘から抜くと、コロシアムで観客席に座っていた学院の教員が外賓の方々は悲鳴や困惑の声を上げらる。
白と金の装飾が施され、その透明に近い刃から薄い桃色の光を放ち、その鍔に翡翠色のクリスタルが埋め込まれた一振りの剣。
この国の建国伝説で初代王にして最初の勇者が振るい、以後は王位継承の証として次期王位継承者とごく一部の警備担当者しかその所在を知らされることがない宝剣。
そしてキズヨルの逆ハーレムルートのラスボス戦直前で、数百年前、初代国王にして勇者の想い人だった初代【光の聖女】がその身を犠牲にして武器へと転じたという悲劇を明かされると共にフィーネたちに貸し出されることになるイベント専用アイテムであり、ラスボスを倒すことが出来る唯一の剣。
王家屈指の秘宝である【光の宝剣クリア】が建国以後、王位継承の儀を除いて初めて大勢の人間を前に姿を現したのだった。
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