第1話 二度目の生を得て

 この世界、キズヨルと似てるなあ。

 そんな考えが頭をよぎったのは10歳の誕生日を迎えた辺りのことだ。


 国の名前はキズヨルの舞台と同じラクレシア王国で、その他の細かな地名や宗教、歴史、魔法使いもキズヨルと同じ。さらには国王の名前までキズヨルと同一だったことから「もしかしなくても乙女ゲームのキズヨルと何かしら関係性があるんじゃないか?」という俺の推測は確信へと変わっていった。


 となると気になるのはこの世界がゲームのキズヨルとどこまで同じなのかということである。


 当時の俺は領地なし貴族として王都に住んでおり、加えて跡継ぎとなる長男がしっかり育っていたこともあってか完全に放置されていた。

 屋敷と呼べない家にいるのは俺を除けば家政を取り仕切っている老執事夫妻とメイドとして働いている10代後半の少女だけ。

 両親と兄、そして兄の婚約者は王都の別区画に建てた新しい家に移住していて、俺には生きていくのに事足りる金を渡すのみだった。


 これは色々と試せる好機!


 そう考えた俺は早速メイドに特別手当てを出すと唆してゲーム内のマップと全く同じ場所にあった冒険者ギルドでメイドを保護者代行に冒険者登録を行った。

 冒険者とは言ってしまえば何でも屋であり、魔物退治からどぶさらいと仕事内容はかなり幅がある。

 そして俺と同い年くらいの冒険者の大半はおとぎ話や英雄譚に憧れており、「きつい」「汚い」「危険」と3Kが揃っていてしかも低賃金などぶさらいや地下水道の掃除よりもゴブリンやコボルト、ブルーボアなどのモンスターの討伐依頼を優先して受ける傾向にあり、おかげでお目当ての地下水道の掃除は殆ど手付かずで検証作業を進めるのに最適な状態にあった。

 ちなみに魔物討伐の依頼を受けた新米冒険者の7割は死ぬか精神を完全に折られるかのどちらかの状態になり冒険者名簿から名前が消えていくそうだ。


 ともかく俺は街で買い物を済ませて『地下水道の掃除』の依頼を受領し、地下水道へと案内された俺は早速ある場所へ一直線に向う。


 そうして向かった先にあったのは一見するとただの管理用の扉にしか見えないものだが、中をこっそり覗いてみると本来地上の森やダンジョンにしか出現しないモンスターが徘徊するダンジョンとなっていた。


 その時の俺が感じた興奮は多分この人生で最も大きいものだったと思う。

 何せこの世界にはゲームそのままな領域が存在すると判明したのだから。



 さて、キズヨルに置けるRPGパートははっきり言って本編のオマケでしかない。


 レベル上げも特別必要じゃないし、キャラの成長やアイテムの調達をしなくても余裕でボスを倒せる難易度となっている。

 これは回復魔法や状態異常を回復でき、さらにバフをかけられるキャラクターがフィーネしかいないとなればそうならざるを得ないだろう。

 というかそもそも乙女ゲーに求められているのはシナリオとイラストであり、がっつりとしたRPGをやりたければRPGをやればいいという話になる。

 とはいえせっかくRPGのシステムを採用したのにこれではもったいない。そう考えたゲーム製作陣によって用意されたのが、地下水道の隠し通路を通じて行ける【秘匿領域】と呼ばれる隠しダンジョンだ。

 この秘匿領域は全100階ランダム生成のマップとなっており、その宝箱からは低確率ではあるが1層からでもゲーム終盤でもオーバーキルな装備やレアな回復アイテムや装飾品がランダムで手に入る特殊なダンジョンとなっており、深層に近付くとヒロインやパーティーを組める攻略キャラの最強装備を入手できる。

 が、徘徊しているモンスターはラスボスの魔王よりも遥かに強いモンスターばかりで、そのエンカウント率も通常のモンスターと変わらないという超高難易度仕様。

 ラスボス撃破後にシステムメッセージで存在を教えてもらえるということもあり、この秘匿領域のクリアは2週目以降でしっかりとレベル上げをしていることを前提としたものになっていた。

 つまり今の俺のレベルでは到底手が出せない場所なのだが、街で普通に売り出されているアイテム『魔物避けの護符』があると話は変わってくる。

 この『魔物避けの護符』は30秒の間だけ魔物とのエンカウント率を0にするという効果を持つ消耗アイテムだ。

 ゲームが現実になったこの世界では『30秒の間だけ魔物に捕捉されなくなる』という効果になっているが、どっちにしろ俺の目的を達成するのに十分なことに変わりない。


 そして俺は覚悟を決めると、大量に買い込んだ『魔物避けの護符』を使いながら『秘匿領域』の第1層へと飛び込んだ。


 目的はランダム生成される宝箱から入手できる装備品、あとは換金すれば高値で売れる回復アイテムだ。

 大体1層全体を回って出口へ戻ってくるのにかかる時間は10分程度。

 しかし俺のステータスや持ち帰るアイテムの重量、そして本来の依頼の地下水道の掃除に割く時間などを考えるとアイテム回収チャレンジは多くて4回が限度だ。


 最初の挑戦で宝箱から回収できたのはグレートポーション2つだけ。

 他にも宝箱はあったがモンスターが密集したエリアに固まっていたため帰還時間を考え断念した。

 しかしグレートポーションは終盤で店売りされるアイテムで売値もそこそこ高い。これはまだマシな方だろう。

 

 2回目の挑戦ではポーション×8の宝箱しか見つけられず回収できたアイテムは0だった。

 かさばるアイテムを持ちながら出口へ全力疾走しつつ『魔物避けの護符』を使うなんてことはレベル1のステータスでは流石に無理だ。

 そして初日3度目の挑戦ではいきなりモンスターが密集したエリアが出入口付近にセットされていたのでそのまま断念することになった。

 というわけで初日の戦果はグレートポーション2つのみという何とも言えないものになってしまったが、それでも換金できるものを入手できただけマシだろう。

 かくしてアイテムを『魔物避けの護符』と一緒に買ったカバンにしまった俺は、地下水道の掃除というアイテム回収よりも疲れる仕事を済ませ、ギルドに報告をしてから家に帰った。


 2日目の挑戦ではハイポーションを幾つかと高ステータスの防具を手に入れたが、如何せん防具が鎧だったことから回収は断念する羽目になった。


 3日目は完全に空振りだ。レアな配合素材を幾つか手に入れたが、これは攻略対象専用アイテムな上に嵩張るので全て秘匿領域内に放置することになってしまった。


 4日目は遂に武器を見つけられたが、クソデカい両手斧だったため泣く泣く回収を断念することになった。

 秘匿領域の両手斧はラスボスをワンキルできる攻撃力がある。それ故に家に帰ってからも「無茶してでも回収するべきだったのでは?」と何度も悩んだ。


 そうして暫く武器は見つからず、防具は回収できないものばかり、高値で換金できそうなアイテムばかり見つかるという日々が続き若干飽きてきた、そんな時。


「おぉ……!」


 俺は秘匿領域に突入してすぐ近くに並んで置かれていた宝箱からとある武器を回収した。


 見た目は街の武器屋で安値で売られていそうな鉄の剣。

 しかしてその実態はキズヨルの攻略サイトで秘匿領域で入手できる当たり装備TOP3に入る武器。

 経験値増加の効果が入った高ステータスの片手剣×2だった。

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