第26話 校則

私の通う学校には少し変な校則があった。それは【通学時には学校の指定の靴を必ず着用すること】だった。普通ならよくある校則だけど、それ以外の校則はほぼ無いに等しいのである。式典の時だけ制服を着用すれば普段は服の指定すらなく、その自由な校風だからこそその校則だけは…、という感じで先生たちも常日頃から注意したりみんなも守っていた。そんな学校に夏休み明けに転入生が来た。同じクラスになったその女の子はYという名前で、転校自体が急な理由だったのか前の学校のジャージと思われる服を着ていた。帰宅時に余計なお世話かな、と思いながら学校の靴の規則について話すと、


『…私、両親が事故で亡くなって、祖父母が暮らしてるここに来たんだけど、これ両親と最後に選んだ最後の靴なんだよね…。』


と履いている靴を見ながら話す姿に少し心が痛んだし、言わなければよかったと後悔した。翌日もYは指定ではない靴を履いていたので担任に指定の靴を履くようにと言われていたが、その顔はどこか納得していないようだった。その光景は複数人が見ていたけど、靴以外に関しては態度も良い方だし、理由を知っている私としては、そのぐらいはいいのでは…と感じた記憶がある。それから数週間経った時、その日は朝から雨だったけどもうすぐ授業が始まる、という時間に廊下を走るYの姿を見た。すれ違い様に、


『…S先生に怒られたから、担任の先生に靴を取りに帰ったって伝えてくれる?』


と言われたので気をつけて行っておいでね、と見送った。S先生は今年度新しく来た先生だが校則には厳しい先生だったので怒られてしまったのかなぁ、と軽く考えながら教室に行き、数分後に教室に入ってきた担任にそのことを伝えると急に顔が険しくなって、


『何時頃に出て行ったの?さっき?』


と焦ったような態度で聞かれた。数分前に出て行った、と伝えるか伝えないかぐらいの時に担任はすぐにどこかへ向かっていった。その数十分後に、Yが靴を履き替えに帰っている途中で行方不明になってしまったこと知った。他の先生たち複数名がYの捜索で不在の中で、ただならぬ空気に全クラスの生徒が自習どころでは無くなってしまっていた時、全校生徒が体育館に集められて靴に関する校則の話が始まった。


【随分昔から指定の靴を履く校則はあった。しかし、とある生徒が雨の日にその校則を破ってしまい教師に注意されて靴を履き替えに帰る途中で交通事故に遭って亡くなった。それから一度だけ同じようなことが起こって生徒が行方不明になったことがあり、雨の日だけ指定靴を履くという校則の改変も変な話なので、当時のままの校則を残して日頃から厳しく取り締まるようにしていた。】


簡単にまとめると私たちはこんな感じのことを言われたと思う。そんな話があったこと自体知らなかったし、S先生がなぜ取りに帰らせたのか気になっていたのだけど、その次の日からS先生は休職、それから数ヶ月後に風の噂で、S先生がこの学校の出身で過去に一度この件で行方不明者が出た時、その行方不明者と同じクラスだったという話を聞いた。なぜ事情を知っていて取りに帰らせたのか、Yはどこに行ってしまったのか分からないまま私たちは卒業した。


今でも雨の日になると、Yを思い出して後悔する。

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