第21話 ループ

就職で都会の方に引っ越してしまった友人の元へと朝から遊びに出かけたのだが、久しぶりに会う友人とついつい盛り上がってしまい気がついたら夜の23時になろうとしていた。時間も遅いし泊まっていけよ、と言われたが申し訳なくて帰りついたら連絡することを約束に、車を運転して帰ることにした。間隔を離してぽつんと佇む街灯に、静まり返った夜の道を数十分ほど走ると疲れもあって頭がぼんやりしてきたので、何かラジオでもないかなぁとつけたら23時からのラジオ番組があっていたようだった。パーソナリティーの名前は電波のせいか途切れてうまく聞き取れなかったが、


『今日のお題について早速メールをいただいてますのでご紹介しますね。ラジオネーム ガクブルさん。…え、名前からしてもう怯えてますね。こんばんは〜』


と、夜にしては明るめのテンションで話す女性の方だった。お題は今まで経験した怖い体験とかそんなのだったのだが、ガクブルさんという方は【夜道でお辞儀をしている人を見てしまうと良くないことが起きる】という話を耳にしてから夜帰る時に運転が怖い…というエピソードだった。なんだそれは、良くないことって何だ、と少し笑いながら運転をしていたら、ライトで照らした少し先に、街灯もない暗い歩道で上半身を曲げた男性を見かけた。しかも直角に体が曲がってて、まさかこの男性じゃないよね…と思いつつ横目で確認しながら左に曲がって車を走らせてたら、また少し先に体を曲げた男性がいた。微動だにせず先ほどと一緒のポーズのような気がする。少し気味の悪さを感じながらじわじわと進み、また左へ曲がると、


「あれ?」


さっきまで気づかなかったのだが、同じ道を走ってることに気づいて思わず声が出た。そしてよく聞くとラジオの内容もループしていて、さっきのお辞儀の男性の話を再びしているのだ。もう既に悪いことが起きてしまってる、と理解すると同時に少し不安になって友人に電話をかけると、おかけになった電話は電波の届かないところに…とアナウンスが流れてきて、自分がここから一生抜け出せないことに気づいてしまった。


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遊びに来た友人が忽然と消えて数ヶ月が経った。あの時、もう少し強く引き留めていたらこんなことにはならなかったかもしれない、と毎日後悔していた。情報提供を呼びかけるも、車も何も見つからないし友人の目撃情報も1つもなかった。少しでも情報が得られれば、と思って休みの日になればビラを配り続けていたある日、帰りが遅くなってしまっていつもより少しスピードを出して運転していると前方に歩道に男性の姿が見えた。その男性は前屈みのような体勢をしていたのだが、その服装があの日最後に見た友人と一緒だったので、思わず車を降りて友人の名前を呼びながら駆け寄ったら、友人がぐっと腕を掴んできて


「……変わってくれて…ありがとう…。」


と顔を上げることなく呟いた。

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