第18話 とある喫茶店の口コミ
SNSなどでカフェやスイーツ店などを探しては食べに行くことが趣味だけど、正直、SNSの動画で紹介されているようなお店でも、俗にいう【ハズレ】のお店があり、最近はネットの口コミサイトを読んで食べに行くことが多くなった。それで週末の休みに向けて、まだ行ってないお店に遊びに行こうとSNSで調べていたところ、一つの喫茶店が気になった。私好みの雰囲気良しの喫茶店だったので口コミサイトを確認したけど、
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★★★★☆ 4ヶ月前
昔ながらの喫茶店。味は問題ない。味は。
★★★★★ 3ヶ月前
今日も食べに行ってきたけど美味しかった!食事中のルールがあるけどすぐ慣れる。
★★★★☆ 3ヶ月前
いつも変にドキドキする。その緊張感を紛らわせてくれるのはお店にいるお婆ちゃんの存在と美味しい料理。
★☆☆☆☆ 2ヶ月前
ルール守らなくて怖い思いしたし出禁になった。
[お店側から返信があります。]
お店の店主です。ルールはルールです。
★★★☆☆ 2ヶ月前
みんなが快適に過ごせる空間を目指したいお婆さんのお店。確かに静かで過ごしやすいし、おすすめのたまごサンド美味しい。
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と、何やらルールが多そうな印象の喫茶店だった。当のルール自体はどこにも書いておらずお店に直接向かったら聞けるのかな、店主が怖い感じなのかな?と思いながらも週末はここに行こうと決めた。
週末、その喫茶店への道のりを地図アプリで確認しながら向かうと目印の手書きの看板と一緒に、おそらくルールと思われる注意書きが親切にも出されていた。
【食べ始めたら最後まで黙って食べること。独り言も厳禁。】
なんだ、そんなこと。簡単じゃん。て思いつつ早速店内に入ると、ほぼ満席なのに誰も一言も話しておらず少々不気味さを感じたのだが、おそらく店主と思われるお婆さんに近づくと、
『あそこの席に座んなさい』
と優しそうな声で案内された。ちょっと拍子抜けしてしまったけど、テーブルにも先ほど見た注意書きが書いてあった。その横におすすめのメニューと謳った、たまごサンドとミニグラタンという文字を目にしたのでそれを注文した。たまごサンドは厚焼きではない昔ながらのサンドイッチだったが、挟んであるたまごフィリングのまろやかで濃厚な味わいに何個でもペロリと食べられそうだった。そして、ミニグラタンを食べ始めた時だった。一口目を口にした時に思わず、
「あつっ…」
と声を出してしまった。しまった、と思ったのだがすでに遅かった。一瞬の静寂と共に、
あつかった?
と聞き返され、お婆さんに心配させて申し訳ないと思いながら声のした方を向くと、私の顔を覗き込むように見てくる全然知らない青白い女性の顔があった。
あつかった?あつかったの?ねぇあつかった?
と私に同じ質問を無機質な声で繰り返すんだけど、それがどんどん首がおかしな方向に傾いて、顔もどす黒くなっていき、目もどこを見てるか分からなくなっていく。明らかに私との距離が近くなっていることに気づき、思わず目を閉じたら
『あらぁ、話しちゃったのね…』
と、さっきとは違う優しい声が聞こえた。恐る恐る目を開けるとお冷やを手に持ったお婆さんがそこにはいた。私が全く話せない状態で口をぱくぱくとさせていると、
『…私みたいなお年寄りになると、あんまり見えないし聞こえなくなっちゃうのよねぇ。ごめんねぇ、あの子に悪気はないけど、あなたのことが心配でずっと聞いてくるかもしれないから、多分ご飯を食べられないと思うのよねぇ。あなたは遊びに来れなくなっちゃうねぇ…。』
と言い残して、そのまま戻って行こうとしたので、中途半端に残したままだけど慌てて追いかけてお会計をお願いした。お店を出る時にもう喋っていいのよ、と言われて
「…ご飯美味しかったです。残してすみません。」
と謝ると、いいのよ。何人もいたのよ。黙って食べることって意外と難しいのよねぇ。みんなが快適な空間で過ごせるように、と思ってルールで縛りつけちゃってごめんねぇ。と言われて、このお婆さんがいうあの子の存在に関してなんだか質問してはいけない気がして、それ以上聞くこともなくその場を去った。
という話が数ヶ月前の出来事である。
つい先日、お調子者でもある親友にその喫茶店での出来事を話してしまったのだが、その親友が喫茶店で同じようにたまごサンドとミニグラタンを頼んで、私と同じようにルールを破ってしまった挙句、熱いに決まってんだろ!とあの子に文句を言ってしまい、あの子に付き纏われているらしい。
あのルールがあるのに熱々のグラタンをお勧めしてるあたり、お婆さんの【快適な空間を目指したい】が【あの子が静かに過ごしていけるような、快適な空間を目指したい。邪魔者はその場で排除する。】に思えてきて、ほんの少し怖くなってしまった。
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