第17話 硝子窓

少し前にオープンしたカフェが近所にある。大きな硝子窓から風景を楽しめるようなカフェなんだけど、たまに窓際のカウンター席のブラインドが下げられていることがあって、やっぱり知らない人に見られたくないのかな?と思っていた。1ヶ月ぐらい経ってそろそろお客さんも落ち着いてきたかな、という頃に友人を誘ってそのカフェに行ったんだけど、その時に窓際の席を希望したらスタッフの人から、


『窓際の席ですか…?座れるのは座れるんですけど…大丈夫ですか…?』


と何か言いたそうな表情で聞かれたので、横並びで座るのは平気です、と友人と答えたら、


『何か気になったりしたらブラインドとか自由にお下げください…。』


と、何だか腑に落ちない言い方をされた。友人と顔を見合わせながら窓際の席に着いて、二人で相談しながら注文を済ませて待っていた時だった。ねぇ外見て、という子供の声がどこからか聞こえた。何だろう、と不思議に思って私たちも硝子窓の外に視線をやると


ひたっ


と、唐突に目の前の硝子窓に小さな手形がついた。硝子窓なのに手形をつけた人が見えない、という状況が理解できず友人を見ると、友人も同じく私を見ていて、それから再び、ひたっ、ひたっ、と時間をあけて様々なサイズの手形がついた。その様子に気づいたのか、


『…ブラインド下げますね。』


という声がしたと同時にスタッフがブラインドを下げた。それからのことはあまり覚えてないんだけど、お店を出る時に店内を改めて確認したら、子供なんて一人もいなかった。数ヶ月後、そのカフェは閉店した。今はテナント募集中の張り紙が貼られているけど、その張り紙にもうっすらと大人と子供の手形がついている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る