第13話 903号室

ドンッ………ズー…


ここは閑静な住宅街に佇む10階建てのマンションの903号室。家賃は想定よりも少しオーバーしたのだが、築浅で会社へのアクセスもいい点と、何より繁華街から少し離れていて治安がいい、と案内されて決めたのにこれは許せない。21時頃になるとドアがドンッと鳴った後に何かを引きずるような音が聴こえる現象がたまにある。一度、ドンッと鳴った時にドアスコープを覗いたのだが何もなかったのだ。またかよ、なんて思いながら仕事に備えて早めに眠りについた。


数日後、部署のみんなで飲み会をすることになった。翌日が仕事が休みということもあって一次会で早々にみんなが飲みすぎる結果となり、酔った後輩が「マンションに遊びに行きたいです!二次会はそこ!!」と言い出したのだ。俺は特に問題なかったので場所を移動することにしたのが、俺も後輩も飲み過ぎて足も遅くなり、コンビニの買い物も大幅に時間を過ぎて、気がつけば21時に差し掛かろうとしていた。

やや大きめな声で話しながらふわふわとした気持ちでエレベーターに乗り、ドアが開いて歩き出した瞬間、ドアの前にいる何かを見て立ち止まってしまった。


『先輩〜何してんですか〜ぁ………』


背後にいた後輩も何かに気づいたのか黙ってしまった。自宅のドアの前に180cmの身長の俺よりも遥かに高い長い髪の毛の女性がへばりついている。ドンッと頭突きしたかと思うと、時間をかけてズーッ…と首を傾げるように頭が下に落ちていきドアスコープを覗いている。


きゅう、まるさぁん…………いなぁあい……


沈黙の中でボソボソと聞こえた声に、俺たちはそのままエレベーターに引き返して後輩の家に泊めてもらうことになった。後日クレームも兼ねて管理会社に連絡したところ、その部屋は特に事故物件でもなく、何なら俺が1番最初の住人だそうだ。あれは一体なんだったんだろうか。

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