奉納の理由

東京、歌舞伎町。

クラブ、シャングリラは若い客層を中心に根強く続く老舗の店だった。

店の外観は一面が黒い壁で、一見には敷居が高いことを表している。


「すみません、ちょっとお話お聞かせください。」


與那虞が警察手帳を見せ、シャングリラの店内で黒服の店員らしきブルーの髪色をした男に話しかけると、男は、仏頂面で店内の開店準備の手を止め、挑戦的な目を向けた。

何かしら、警察を煙たがっている。


「この酒、この店にあると聞いたのですが、知っていますか?」

「すみません、ちょっとお話お聞かせください。」


與那虞が警察手帳を見せ、シャングリラの店内で黒服の店員らしきブルーの髪色をした男に話しかけると、男は、仏頂面で店内の開店準備の手を止め、挑戦的な目を向けた。

何かしら、警察を煙たがっている。


「この酒、この店にあると聞いたのですが、知っていますか?」


與那虞が、六角の写真を店員に見せると、男は困ったように、一人の男を大声で呼んだ。


「水野さん!警察が何か言ってますよ!」


與那虞と小森は店員が呼んだ方向に目を向けた。

明らかに、筋者とわかる首から入れ墨が見えた。

ガタイも、2メートル近い、まるでプロレスラーのような男だった。

小森はまずい状況になったと訝しんだが、與那虞は、余裕でその男に又同じことを尋ねた。


「見たことないですかねぇ。」


與那虞の言葉に、怖れがなかったことで水野は、素直な表情でこういった。


「うちで扱っています。」


その言葉に、二人の刑事はチャンスを得た魚のように水野に食いついた。







一方、剪芽梨は、銘酒を手にした老婆と話し込んでいた。


「私の祖父が、この酒を作ったんですよ。祖父は、杜氏とうじとして酒蔵で晩年を過ごしました。決して、有名なお酒を作っていたような、名人ではなかったけれど、あることがきっかけで、この2本の銘酒を作り上げたのです。祖父は、きっとこの酒を亡くした家族に捧げたのでしょう。この酒はいまは亡き祖父の形見なのです。」


「そうですか、それでこの銘酒を神社に奉納しようと・・・」


剪芽梨の中に何故か悲しむべき事実という悲壮感が浮かび上がる。


「お祖父様は、ご病気か何かでお亡くなりに?」


老婆は、瞬間目を伏せ、周囲への緊張を隠せなかった。

そして、小さな声で、呟くように言った。


「自殺です。」


剪芽梨は、聞いてはいけなかったことと知りながらも、この事件との関わりを追求していく探究心をせき止められなかった。


「いつ頃の話ですか?申し訳ありませんが、事件に関わる可能性があります。詳しくお聞かせください。」


事件という言葉に老婆はうろたえ、逃げるようにその場を去ろうとした。

剪芽梨は、この時を逃せば事件の真相は迷宮入りだと思い、懸命に老婆を引き止めた。


「待ってください。お願いします。分かっているだけでも複数人が殺され、今後まだこの事件の被害者が増えそうなんです。」


「こ、殺された・・・」


老婆はその場で足を止めた。そして、剪芽梨の方を振り向きこう言った。


「殺したかったのは、祖父の方だったと思います。」


その言葉に剪芽梨は、事件の真相に最も近い重要証言であることを確信した。








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剪芽梨刑事シリーズ②・・・銘酒・六角 138億年から来た人間 @onmyoudou

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