ある男の死
「おつかれ様です。三月さん、隊長が呼んでます。」
「隊長が?何か言ってたか?」
「いえ、先月の有給休暇の理由が曖昧だとだけ。」
!三月
警察学校卒業当時は、捜査一課に憧れを持っていたが、昇進試験その他、身体能力、推理力の面で刑事には不適格と府警署長から今の白バイ隊隊長に通達があり、配属となった。
彼には、もう一つ、刑事には向かない部分があった。
異常なまでのこだわりだ。
それにつられて執着心も顕著に現れ、しばしば、同僚と衝突していた。
環境によって、猜疑心も強くなり、交通ルールを異常なほど絶対的に考えていた。
「法を守れないやつは、この世の中から排除しなければならない。」
それが、彼が書いた大学の卒業論文に書かれてあった。
そして、異常なまでに、道路交通違反を取り締まった。
「何言ってんだ。前の車に合わせて走ってたら、60キロになったんだろうが!捕まえるなら、前の車にしろよ!」
コイツらは何時もそうだ、自分は悪くない、悪いのは周りだとぬかす。人と同じことをしたい、ただそれだけで、犯罪だろうがしないと損だと考えるアホどもだ。
「だから言ってる通り、30キロオーバーの違反者を見かければ捕まえるのが当たり前です。でも、見ていない車を捕まえられないでしょう?」
「間抜けだから、見逃すんだろうが!税金泥棒が!」
こんなクソみたいな男に、俺のような位の高い警察がなぜバカにされなければならない、ふざけるな、お前たちと違って、俺は世の中を正すために死ぬほど努力をしてるんだ。
「運転手さん、ちょっと降りてください。午前11時43分、公務執行妨害で緊急逮捕します。」
「なんだそれ、公務執行妨害って俺は手を出したりしていないぞ、警察は又冤罪をやらかすのかぁ!」
「公務員に対する暴言も執行妨害の対象ですよ。」
「くそ、それじゃぁ、俺に暴言を吐いたお前ら警察も同罪だぁ!」
白バイ警官など所詮使いっぱしり、世の中なんて変えられるはずはない。俺がどう足掻こうとこの世の中は悪事に染まった愚劣な世界・・・
「緊急、緊急。大阪環状線で接触した車が逃走中。各車両、至急応援に向かえ。なお、逃走している車は、衝突を繰り返している模様。」
「応援に入りますか?」
「うむ、周囲が危ない。急げ!」
大阪環状線、第2京阪入り口から、剪芽梨と小森の二人が逃走車を追いかけ始めた同時刻に一台の白バイが、その逃走車に追いつこうとしていた。
「前方の車、すぐに止まりなさい!止まりなさい!」
逃走車の運転手は、ハンドルを左右に大きく振りながら、目の前にいる、車、そして歩行者に体当りするように意識的に衝突させていた。
「クソ!なんてことをする!お年寄りや子供まで容赦がない。捕まえてやる、捕まえてやる。お前なんか死刑にしてやる!」
白バイが速度を上げ、逃走車の前に割り込もうとするが、それを阻もうと車の窓を開け、車内の二人の男が大声で威嚇しながら、白バイに体当たりを仕掛けてくる。
それを避けては又前方へと割り込もうとする白バイ警官。
前方には、青信号で渡っている保育園の集団がいる。
「確保しなければ、殺されてしまうかもしれない。130キロか。減速させるには前に出るしか無いな。俺の命など、たかが知れてる。警察組織はたった一人警官が死んだところで変わりはしない!」
白バイが、スピードをフルスロットルに上げ、遂に逃走車を追い抜き、前方に割り込んだかと思うと、車両の砕ける金属音と、何か物に乗り上げたかのような空音が同時に起こったかと思うと、逃走車は、そのまま、道路脇の電柱に衝突し、炎上した。
剪芽梨がその現場に到着したのは、事故の数分後だった。
「何が起こった?追跡してればよかったんだぞ・・・」
剪芽梨の言葉は現場を物語るものだった。
「剪芽梨さん、これ。」
小森が提示したのは、白バイ警官の警察手帳だった。
「三月 頸建、白バイ隊主任補佐か。」
刑事二人は、先行した自分たちの責務として現場保存を行った。
鑑識が到着したのは、それから一時間後のことだった。
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