梅宮神社
「どういうことだ。幻の酒が2つ出てきた。六角そして双龍。2つの酒と今回の事件はやはり繋がっていたということか。となると一つ一つを追っていくことより2つの酒の繋がりを調べていくほうがいいだろう。・・・與那虞、急ごうか、聞き出すことが又増えた。」
「はい。」
剪芽梨、與那虞が、梅宮神社に向かった頃、大阪府警では、鑑識の結果が上がってき
ていた。
「被害者宅の写真から、部屋にあったデジカメとは別のもので撮影されていることが分かりました。」
「同じ物は見つかったのか?」
「はい、被害者と写っていた印刷会社の社長宅にあったデジタルカメラと同一でした。」
「よし、もう一度社長から事情を聞く。任意で御出願え。」
「はい!」
鑑識は、トリカブトの種類も前回の皆兵エナジー社長殺害時のものと同種、DNAも
98%の確率で同一だと報告した。
京都市、梅宮神社。
前日の雨で霧の立ち込める境内は、所謂、神仏の精霊なる怪しさを含んでいた。
「今頃、そんな話を蒸し返して何があったというのです?」
梅宮神社宮司、
深く知ろうとすればするほどその表情を歪めた。
銘酒六角を作り出した男は、
だが、その男が何処の生まれで、何処で育ち、又、身内の話など、宮司は全てを話し
たがらなかった。
口を真一文字に閉じる仕草や目線を閉じることから何かを隠していることは明らかだ
った。
「些細なことでもいいのですが、何か思い出せることはありませんか?」
與那虞が、焦りを隠すように丁重に問いただすが、宮司からは何も得られそうもない
と諦め顔を作った。
彼の座る座布団に並んで正座している剪芽梨の顔をチラ見するとある一点を
見つめ微動だにしていない。
合わせるように與那虞もそちらに目線を送る。
「あっ!」
うっかり声を漏らした與那虞は、バツの悪そうな顔で自分の頭を二度、平手で叩い
た。
二人が見たものは、一枚の掛け軸だった。
本堂の後ろに場違いとも言えるその絵面は、正しく銘酒六角の水仙模様と瓜二つだっ
た。
剪芽梨が與那虞に目線で合図を送る。
「それでは失礼致しました。お手数お掛けしました。ご協力有り難う御座います。」
與那虞のあいさつで二人の刑事は梅宮神社をあとにした。
次の場所は決まっていた。
梅宮神社で見た掛け軸の出所を探るため、京都にある古物商を目指すことにしたの
だ。
「この事件、深い霧のように先が見えてこない。ほとんどの地取りが空振りに終わっている。だが、もう4人死んでるんだ。捜査を長引かせる訳にはいかない。もっと、深いところ、見た目に左右されず、事件の本質を的確に掴もうとしなければ解決には至らないだろう。」
剪芽梨は、一度、捜査本部に帰って事件を整理し直すことにした。
4つの殺人事件の繋がりを精査し、無駄足を防ぐ。
嘗て、捜査は靴底をすり減らしてやるものだとされた。
だが、時代はjもう、昭和をとうに過ぎ、令和という新たな時代を経過中だ。
無駄をやる時代は終わったのだ。
情報処理化された無駄のない的確な捜査を心がける時代となっているのだから。
大阪ミナミの国道を1台の白バイがサイレンを鳴らしながら1台のスポーツカーを追
いかけていた。
白バイの前を走る赤のフェアレディZは時速120キロで走行していた。
「前の車、スピードを落として止まりなさい!止まりなさい!」
「ここを走っていると、あの頃を思い出す。歓楽街で酒と女に溺れたあの頃。あの酒と出会わなければ、あの方に出会わなければ、俺は、一介の白バイ警官としてくだらない人間に遠慮しながらくだらない愚痴を聞きながら、くだらない人生をたどっていただろう。・・・銘酒六角、そして双神。あの酒が、俺のくだらない人生を意義あるものに変えたんだ。」
その白バイは、違反者を捕まえ、厳重注意と違反切符を切った。
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