新たな幻

立麩から署に戻る車中、剪芽梨は何度も反芻するように情報を精査する。


「幻の銘酒、六角。その正体が見えてきた。石清水八幡宮いわしみずはちまんぐう宮司ぐうじがその役目を終え、蔵元に弟子入りし、自らの命と引き換えに一本の酒を作り出した。名を六角。」


「剪芽梨さん、もしかしてその宮司が関係しているのでしょうか?」


「なんとも言えない。その宮司が六角を作り出したのは今から50年も前だ。而も当人はすでに亡くなっている。」


「ではその家族が・・」


「いやぁ、その可能性は低いだろう。」


「なぜです?」


剪芽梨は自らの思考をフル回転し事件の見立てを行った。


「まず六角だが、非売品で市場にはない。ということは知る人間に限られる。その中で神社の宮司と繋がりがある人物。」


「剪芽梨さん、それではかなりの数が・・・」


「そうだ。だが、今回の事件が、もう一つの事件と繋がっているとすれば?」


「もう一つの事件?・・・・、あっ!」


「そうだ、子供殺しの真犯人だ。」


一方、大月みやびの元へと向かった小森は、マンション管理人を通してみやびの部屋を訪ねた。


インターフォンにはカメラが有る。

一回、二回と押してみるが反応はない。


「管理人の話からすると彼女は確実にいる。出てこい。」


小森は焦れる気持ちを抑えながら6度インターフォンを押した。


「いないようですね。」


「・・・」


管理人の言葉にも小森は部屋の中に気配があることに気付いていた。

それは、部屋から何かしらの臭気が漂っていることからだった。


「何の匂いだ?・・・はっ!」


「管理人さん、鍵!鍵を早く!」


その後、みやびの住むマンション、「プリンスプロトコル」は、警察車両、救急車でごった返した。

覆面者から、急遽駆けつけた大阪府警警察署長、邑守が降りてくると小森が現場状況の詳しい説明を行った。


「死体は、大月みやこ、30歳。職業、印刷店ケーソル事務員。勤務状況は欠勤なし、遅刻なし、有給をこの5年間取得していません。死亡当日は勤務日ですが、出勤して来なかったと、会社社長、見丸みまる善次ぜんじ68歳が証言しています。ですが、社長は、たまに欠勤することもあるだあろう、大目に見ようと、その日そのままにしておいたとのことです。」


「何日のことだ?」


「死亡推定日時の昨日だそうです。」


「うんー・・・。たまたま、休んだと考えたか。その社長と被害者の関係性は?」


「実は、被害者の部屋にあった写真の中に、タイ旅行に行った写真があったのですが・・・。」


「タイ?アジアのか?」


「はい、その写真の中に、社長と被害者が肉体関係を結んでいるベッドの写真が10数枚見つかっています;」


「自撮りか?」


「今、鑑識が被害者の部屋にあったデジタルカメラと写真の照合を行っています。」


小森は、署長に緊張しながらも、その場の状況を隈なく、署長の耳に入れた。

役目を終え、小森は現場を離れ、署長に気づかれないよう剪芽梨に連絡を入れた。

勿論、大月みやこが殺された報告もあるが、主任の捜査状況も知りたかったのだ。

見立ては、捜査するもの全てがやっていく。

決定権は部下にはない。

しかし、剪芽梨班全員の見立ては、何時も筋に狂いがなかった。


「主任、今?」


「小森か、いま京都に着いた。これから、梅宮神社に向かうところだ。何かあったか?」


「はい、大月が殺されていました。」


「なに!死因は?」


「トリカブトによる中毒死です。」


「またか・・・。」


「主任、更に驚くことが。」


「まさか・・・六角か?」


「いえ、今度は、双龍でした。」


「えっ!」


剪芽梨の千里眼に霞が掛けられた・・・。

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