大阪府警察署長
「社長、今回の事案は中国を拠点に展開しようと思い、子会社を置くことにしたいのですが如何でしょうか?」
「ああぁっ!中国に子会社だと?それでいくら取れるんだ?」
「収支予想からすると、200億は。」
「そうか。うむ。やってみろ。」
皆兵エナジー商店取締役社長、
「このままいけば、来期も黒字。来年は一つ、会社を任せて世界一周の旅行でもするかな。あの女が死んでくれたおかげで…」
「社長、ロシアの外務省から国際電話です。」
「ば、馬鹿野郎、ノックをせんか!」
三鬼縞の表情は、青ざめていた。
つい零した女の死という言葉。
それが意味するものは、夢野いけみの死の事だった。
「神主さん、いい加減に話して下さいよ。あんたがあのエロ本捨てたんだろう?」
「ば、馬鹿なこと言わないで下さい、刑事さん。私は神にお仕えしてる身ですよ。そんな卑猥なものを境内の近くに捨てるわけがないでしょう?」
「あ~ぁ、言っちゃったぁ。嘘は続かないって。何故境内近くって分かったんですぅ?」
「えっ、ああ、いや、それはですな。ニュースで見…」
「事件の詳細は分かりません、が、今の所の報道ですが。いい加減、吐けや!」
「手前ぇが捨てたんだろう!エロ本!」
神主が白状した。
境内で見つかった幼児の猥褻な本は、この神社の主、
しかし、警察はこの事で本命から遠のくことにもなった。
「もう一度、猥褻本のDNA鑑定をやり直せぇ!」
府警署長、井田垣の厳しい檄が飛んだ。
大阪府警では、大変な騒ぎとなっていた。
鑑識課の主任がこの事件の解決を急ぎ、あろうことか、鑑定結果を捏造していた。
更にその指示を出したのが、大阪府警察署長だった事も署内で明らかとなった。
「署長は何を考えてるんだ。」
剪芽梨は、疑心暗鬼にも近い猜疑心に包まれた。
「いったい誰を信じればいいんだ。」
この事態に、本庁が動いた。
人事異動だった。
大阪府警署長、井田垣 兌夫、小笠原署署長を命ず。
「飛ばされた。」
署内の全員が、認識した。
鑑識課主任は、警察学校鑑識係に移動になった。
新たに鑑識課主任に就いたのは、
新井は本庁期待の新人鑑識だった。
稀な人事異動に、大阪府警全体が本庁に馬鹿にされたと思った。
そして大阪府警署長に任命されたのは、剪芽梨が良く知る人物だった。
「先輩宜しくお願いします。」
剪芽梨が頭を下げる
「剪芽梨、元気だったか。」
気さくな人柄の邑守は、剪芽梨の肩をポンと叩いた。
「ご無沙汰してしまって、申し訳ありません。」
剪芽梨は彼に恩があった。
大学柔道部で喧嘩騒ぎがあった時、助けてもらったのだ。
剪芽梨、20歳の時・・・
「今度の試合で勝った方が、来年この柔道部を仕切る、それでいいな!」
馬鹿な考えだった。
誰が上だろうが、まじめに柔道を極めればそれでよかった。
しかし、格闘家には、強者に対する異常なほどの執着が切っても切れないものだ。
全国大学柔道選手権に出場が決まった我が柊伯館は、一回戦で優勝候補の
大会前日、宿泊先の旅館で、3年が集まり来年の主将を決める話し合いがあった。
柊伯館では生徒の自主性を重んじ、主将は部員が多数決で決めることになっている。
大概は、3年が決めたことを、2年以下1年も従うのが慣例となっていた。
「候補は、
誰もが二人のうちどちらを押すか思案に苦しんだ。
それほど二人の力は拮抗していた。
佐久間という部員がこの勝負の間に入り、決定は選手権の個人戦上位者という事になった。
剪芽梨は主将になる気はなく、大間に譲ると遠慮したが、大間はこれを不服とし、自分を馬鹿にするのかと威圧的に勝負を望んできた。
「そうじゃない、俺は個人的な勝ち負けよりも、柊伯館の優勝が欲しいと言ってるだけだ。」
剪芽梨の言葉は、火に油を注いだだけだった。
大間は、その夜、剪芽梨を旅館の外に呼び出し、喧嘩勝負を望んできた。
「決着は早い方がいい。お前はいつもかっこつけなんだよ。素直にお前なんか相手になるかと言えよ。」
大間は、既に仲間意識が消え、剪芽梨への対抗意識が燃え盛っていた。
それは何時しか、相手を殺してでも地位を奪うという犯罪意識にも代わっていった。
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