一転

「そうか、分かった。」


上西 守取調官は、剪芽梨からの電話を受け、頷きながらほくそ笑んだ。


「これで決まりだ。」


真浦の取り調べは昼夜を問わず行われ、容疑者はおろか取り調べる上西さえも疲れを感じていた。

互いが限界を超え、怒鳴ることも憚れるほどだった。

そんな時、剪芽梨班が証拠を見つけたと大阪府警署長から直々に通達があった。

上西は、剪芽梨に一度電話を入れ詳しい情報をせがんだ。

数分後、剪芽梨から折り返しの電話があり、大社にあった男児の猥褻本の話を聞いた。

矢張りその本からは真浦の指紋がべたべたと検出され、更には真浦のものと思われる精液も付着していたとわかった。

精液に関しては鑑定は持ち帰ってみないと分からないとの事だったが、上西は真浦の性癖にこの殺人の動機があったと確信した。


然し、ここで思わぬ事態が発生する…






「今回の逮捕は、無効です。」


国選弁護人の条廼壱が横やりを入れてきたのだ。


「取り調べの時間について、真浦さんに嘘の申告をしたばかりか、食べ物、飲み物さえ与えず長時間の取り調べを行った事実が立証され、この通り裁判所の方から、保釈指示が出ました。今後、真浦さんの取り調べは私が同席し、時間設定を行って頂きます。」


真浦の取り調べ被害説明から、条廼壱は真浦にICレコーダーを渡し、忍ばせておくよう指示を出していたのだ。


大阪府警は手も足も出せず、真浦の保釈を承諾するしかなかった。








「出ました!猥褻本からと男児の洋服から真浦の精液が検出されました。」


鑑識のミトコンドリアDNA鑑定により、新たに二つの確たる証拠が出たのだ。


真浦は、再び大阪府警の拘留申請により、身柄を留置された…



「だから、あの神社でたまたま拾って、暇だから読んでたんだよっ!」


真浦は、ロリータ雑誌を酷く自分のものではないと否定した。

然し、その雑誌に真浦の精液が付着していた事実は、警察の目星と一致し、その確実性を高めるものとなった。

警察としてはこれが詰め所だった。

然し、思わぬハプニングが起こった。

佐茂韋神社の神主が嘗て幼児わいせつの罪で逮捕されていたと警察のデータべースから分かったのだ。


「剪芽梨さん、こいつしかも男児の猥褻動画流出でも取調べ歴がありますよ。」


與那虞は、器用にパソコンデータを操作しながら、神主の顔データと経歴、防犯カメラの三つをモニターに映し出して言った。


「映ってるか?」


「いえ、日にちが抜け落ちてます。明らかに消された後ですね。」


「まったく、神のお仕えたる者が…。」


剪芽梨は、解れた糸を再び揉みくちゃにされたように頭を抱えた。


「その神主を任意で引っ張って来い!」

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