付箋9:だって部長は忙しい

 中学3年生になった私は、演劇部の部長として忙しく動き回っていた。念願の部長になれた。


 自分が部長になれたなら、絶対裏方に回ろうと思っていた。部長という権限を最大限に活用し、ずっとやりたかった舞台セットを手作りしたり、衣装を考え布も買いに行き、照明も操作したかった。やっと自分のやりたい事が出来る。───


 中学生になったら絶対演劇部に入ろうと思っていた。きっかけは市民会館で見た演劇だった。劇団が来て色々な演目をやっていたのだ。


 私は幼少の頃から頻繁に舞台を見に連れて行かれていて、劇が大好きになった。今度はどんなお話なんだろう。毎回とても楽しみだった。たくさん観劇したが、私が印象に残っているのは「泣いた赤鬼」だ。とても感銘を受けた。


 同時に(私も舞台に立って劇をしたいな)と小さな夢ができた。


 中学に入ったら部活に入れる。演劇部はあるだろうか。──入学して間もなく、演劇部の存在を確認し、私は即入部を決めた。


 とても演技上手な先輩ばかりだった。新入部員にとって憧れの存在だ。


 演劇部の活動は(マラソン・体操・腹式呼吸で声出し練習・台本読み……等々)様々な流れがあった。


 演劇部でマラソンや体操?……私はびっくりしたのだが(腹筋を鍛えるため)という教えに基づき、必ずやることになっていた。ぽっちゃりさんにはかなりきつかった(笑)


 演劇部が目指すべきは文化祭。劇を披露するのだ。新人部員が落ち着いた5月頃に文化祭でやる演目を決める話し合いが行われる。


 演目は数点候補があり、それが決まれば配役と裏方を決める。その役目は3年生が担っていた。


 2年、1年と希望は聞いてくれるが、3年生が決定権を持っている。


 こう書くと厳しい上下関係があるのだな、と誤解されるかもしれないが、みんな優しい先輩方、そして個人の能力や向き不向き等を考慮して決めていくので、例えるならば敏腕プロデューサーと言ったところだ。


 そして、部長をされていた先輩はとにかく凄かった。ずば抜けて演技が上手い。


 私は(部長先輩のように演技が上手くなりたい!)という一心で部活動に励んだ。その甲斐あって(なのかは分からないが)文化祭でやる劇の演目で役をもらえたのだ。いつもスキップしながら唄うように話すのが特徴の陽気な妖精だ。……もしかしたらぽっちゃりがキャラ付けしやすかったのでは?とも思うが(笑)嬉しかった。私が舞台に立てるなんて。


 そして稽古が始まった。キャストと裏方、それぞれにやることが沢山ある。私は舞台の上で稽古をしながら、ふと裏方チームに目を奪われた。


 ベニヤ板をノコギリで切り色を塗り、釘をトンカチで打ち付け、組み立ててセットが出来上がっていく。凄いのが出来た!とセット作り担当組の声が響く。


 一方、照明組はあの大きな照明器具を操り、カシャカシャと手際よく色替えをし、舞台上の役者達を照らす。場面によってその色は赤やオレンジ、様々な色に変わる。


 「ただいま~」と声がする。衣装担当組が顧問の先生と一緒に布やキラキラしたビーズを買って帰ってきた。


 私はその時に裏方の仕事というものを知ったのだ。今まで目で見ていた舞台の上の演技以外の部分の存在を。実際に演劇部に入り(観客として見ていた劇)の全貌が明らかになった。演劇とは、役者だけでは無く、これだけの裏方チームがいてこそひとつの劇が出来上がるのだと。


 次は裏方をしたい。物を作るのも大好きなのだ。そして演劇という全てを知りたかった。だがそんな気持ちも虚しく、私は2年になってからも役をもらい、希望は愛情をもって却下された(笑)


 前置きがかなり長くなったが、遂にその希望が叶うのだ。私は部長になった!でも部長、やる事が凄まじく多い。時間にも追われる。


 いつもバタバタと走っていた。舞台のある体育館から校舎、行ったり来たりだ。


 そんな時だった。


 バキッ!!!嫌な音とともに転んでいた。

 片足はすのこを突き破っている。


 体育館と校舎を繋ぐその道はコンクリートになっていて、生徒が歩く場所にはすのこが引き詰められていた。上履きの時はすのこの上を歩かなければならない。


 私は走っていた。(多分)体重が一気にかかりすのこを突破った。


 サッカー部の先生が飛んできた。怪我をしていないか聞かれたが、私は全然平気…すのこが…大破(笑)


 驚くべき事にこの一連の出来事、1度じゃ済まなかった。


 私が卒業するまで、なんと合計で7枚のすのこを突き破った。3回目くらいからはもう心配などされない(笑)


 「また部長がすのこ壊したぞー!」と校庭にいるサッカー部の先生も呆れ顔だった。


 何よりも用務員さんにとても迷惑をかけた。歳が若く、私達生徒にとってはお兄さん的存在で、なんでも話せる大好きな用務員さん。そんな心の拠り所のような存在の用務員さんに要らぬ仕事をさせてしまった。ご自身の仕事に加え私が突き破ったすのこを直し、直してはまた突き破る……どんな気持ちだったのだろう。はぁ、猛省。


 直してる姿を目撃した時は駆け寄り(本当にごめんなさい)と謝ったが、用務員さんは(大丈夫大丈夫!直せば良いんだから)と笑ってくださった。


 とはいえ、ものの14~5歳の中学生が、あの厚い板で作られたすのこを7枚もぶち抜くなんて(しかも1年間で)想像するだけでかなり小っ恥ずかしい。うぅ……猛省再び。


 我ながらとんでもないぽっちゃり部長だ……。あれだけ慌てるな走るなと言われながらも、すぐ忘れてすのこを壊し続けたのだから。


 あれから数十年経ったけど、記録は破られていないと断言出来る。そんな中学生いないよ?(笑)本当に恥ずかしいし、只々迷惑なだけ。


 はい……本当にご迷惑をおかけしました。この場を借りてお詫びいたします。


 あの時のぽっちゃり演劇部部長です。

 すのこを7枚も壊してすみませんでした。




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