付箋4:縁は奇なり~コスケ編~
ミスケ以降、猫との劇的な出逢いはしばらく無かったが、その日は突然訪れた。
冬の夜の仕事帰り。職場を出てすぐの事だった。駅へ向かうため横断歩道を渡っていると、突然私の足元に小さなねこが勢いよく走ってきた。右折しようとする車もいる。
(ひかれちゃう!!)と思った瞬間、いとも簡単にひょいと抱き上げる事ができた。
多分、車のライトやこの場に出てきてしまった恐怖で、身体が竦んでしまったのだろう。でもそのおかげで、私は咄嗟にその子猫を抱き上げる事が出来たのだ。
そこまでわずか数秒程の出来事だったと思う。
(良かったぁぁぁ)と思ったと同時に、私はこの震えている小さなねこを家に連れて帰らなければならない、と強く思った。言葉では表せない気持ちだった。
この小さなねこが、後に我が最愛の弟分となるコスケ(雄猫)である。
説明すると長くなるので割愛するが、私とコスケはその後、無事に家へ帰った。
帰宅した時、父はもう寝ていた。が、母娘のただならぬ雰囲気を感じたのか、のっそりと起きてきた。そしてコスケを見てすぐに、
「絶対だめだ!!飼わないよ!!」
母は無視。
父はブツブツ文句を言っていたが、また布団に戻った。
その時コスケはというと、既に我が家に順応していた。母が用意していた鰹節粥をぺろりと平らげ、色々匂いを嗅いだりしながらあちこち歩き回っていた。
父のブツブツは寝床からも聞こえていたが、私は覚えている。一晩経つと父は豹変する事を。ミスケの時にそれを体験している。
案の定だった。
(コスケちゃあ~ん♡)……デレデレである。
とりあえず一旦ダメと言っておきたいタイプなんだなとその時に分かった。母はそれを良く知っている。だからミスケの時も無視してたのか。……
それはさておき
この日からコスケは家族の一員として、イタズラ満載の日々をスタートさせた。思い出したらキリがない程のイタズラ伝説がある。
コスケのイタズラがどんなものだったのか、ほんの一部ではあるが紹介しよう。
電飾の無い金の飾り玉だけをつけた自作のシックなクリスマスツリーがあった。お気に入りだ。部屋に飾っていたのだが、仕事から帰るとツリーの様子がおかしい。
(玉がほとんど無い)
すぐ母に聞く。
母は笑いながら話し始めた。なんとコスケが金の飾り玉を取ろうとツリーをひっくり返し、取れた玉を転がして遊び、自分では取れない隙間に入れ、またツリーの玉を取りに行き……とまぁ、それを何度も繰り返していたと。
全くとんでもない弟だ。
回収した金の飾り玉をツリーにつけ直していると、コスケが何食わぬ顔で(お姉ちゃんは何してるのかニャ?)とばかりに近寄って来た。
「コスケ!玉取っちゃダメ!!」
ダッシュで逃げる。まるで私に叱られるのが楽しくて仕方ないようだった。
家に連れてきてすぐ分かったのだが、コスケはかなり頭が良い。驚く程賢かった。そして人の気持ちもよく察した。
「もう玉とっちゃダメだからね!」……言ってはみたものの聞いちゃいない。分かってる。現行犯でないと叱っても無意味なのだ。
(またやるよなぁ)
思った通り、次の日も同じ事をしていた。完全に面白がっている。もう埒があかないので、ツリーはそのままにしておいた。玉はコスケが取れない隙間に何個も入っていた。
(ここに入ってる玉を取ってくれないかニャ)と言わんばかりに、隙間の前で静かにちょこんと座ったまま目をシバシバさせてアピールする。
私はそんなコスケが可愛くてたまらなかった。とんだ姉バカである。全くもう、という素振りで玉を取り出し、一緒に遊ぶ。なんて優しい姉だ。
──こうしてコスケのイタズラは次々と伝説を作っていった。
真夜中に空の猫缶を転がして遊び、それをすっ飛ばして玄関に当て、その音で家族全員が飛び起きたり。
買ったばかりのタオルケットを使い始めた翌日、仕事から帰ると(なんか今日はタオルケットの上でずっと寝てたよ~)と母から聞き、嫌な予感がしてタオルケットを見てみたら、毛だらけだわパイルが無数に飛び出てボッロボロだわで(爪引っ掛けて遊びましたね?????)と愕然としたり。
私の部屋に3つあったエアークッションに噛みつき穴を開け、空気が抜ける感触が面白かったのか、数日後には全てのクッションがぺしゃんこになったり。
帰宅の度にエアークッションが1つづつ、ぺしゃんこになっている姿を目撃する私の気持ちを想像して欲しい。
……さすがにもう笑うしかなかった。
そして様々なイタズラは主に私にだけ行われた。イタズラを嗾けるのは姉だけ、と決めているように思えてならない。
そんなコスケだったが、彼の中で好きの順位はあったものの(笑)有難い事に私たち家族をとても愛してくれた。コスケの愛は平等だった。
約16年半共に暮らした我が最愛の弟分、コスケ。
永遠に大切な存在だ。
コスケの事となると間欠泉の如く筆が止まらなくなるので、この辺でやめておこう。既にかなりの文字数だ。
かくして、私に訪れた運命的なふたつの出逢い。
この先もあるだろうか。
いや、さすがにもう無いのではないか。
なんて考えているうちに、その日は突然やってくるかもしれない。
縁は奇にゃり。
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