付箋3:縁は奇なり~ミスケ編~
ミスケとの出逢はなんとも不思議だった。
学校からの帰り道、ゴミ捨て場の横を歩いていると、そこからいきなり何かが飛びついて私の洋服の首元にブランとぶら下がった。
それがミスケ(雄猫)だ。
そこまで小さい猫ではなかった。
(ねこ!!ねこが私に飛びついてきた!!)
ただ単純に嬉しかった私は、そのままミスケを抱きしめて小走りに帰宅した。
その姿を見て母は驚いていたが、私と同じく大の猫好き。経緯を話してるうちにもうメロメロになっていた。
ミスケは人懐こい性格だった。
夜になり父が帰宅。父も大の猫好きなのだが、はじめは飼うことに反対した。が、次の日にはもう(ミスケ~♡)という具合にデレデレだった。ちなみに父が反対した時、母は無視していた。
どうやらミスケの人懐っこい性格からくる甘え上手もかなり威力を発揮したようだ。
こうしてミスケのいる暮らしが始まったわけだが、ミスケはとにかくよく食べる。なんでも食べる。うちに来て数ヶ月でコロッコロのぽっちゃりねこと化した。
猫可愛がり──
文字が人の形になるとしたらそれは両親だ。こうして甘え上手なミスケは父や母を毎日翻弄していた。
ねだられればなんでも食べさせる。
食べると嬉しい。
その繰り返しだ。
私はといえば、食べ物をくれる人と認識されていなかった。何もくれないくせにベタベタと触ってくるしつこい子供、と思われていたようでよく噛みつかれた。
そんな日々を送っていたある日、ミスケは突然いなくなった。
母曰く、どうやら靴が挟まって半開きになった玄関のドアから出て行った(らしい)。あのぽっちゃりが?どのくらいの隙間だか分からないけど通れたのか?
その疑問は今であれば(猫は液体だからな)とすぐに思い浮かぶが、それはどうでもいい。
それよりも何故靴が挟まっていたのか、未だ謎である。
ミスケがいなくなった事に気付いたのはご飯をねだりに来なかったから、と言っていた。すぐ探しに行ったけど見つからなかった、と。
両親の落胆ぶりはかなりのものだったが、ミスケはあの性格。きっと自分のごはんのために、またどこか違う場所で甘え上手を発揮しているだろう。
今思えばミスケにとっての我が家は(食べ物がいつでも食べられる危なくない場所)という感覚だったのではないだろうか。
あれだけ猫可愛がりしていた父と母に対しても、自ら四六時中くっついて歩いていた訳でもなかった。
自由に動き回り、鰹節が入っている戸棚を物色し、部屋一面に煮干しをぶち撒け、食べ、満足したら寝る。
これは憶測でしかないのだが、あの突然の出逢い以前もそんな暮らしをしていたのかもしれない。
なんらかの偶然が重なり、同じように外へ出て、あの場所で歩いていた私に飛びついて、セーターに爪が引っ掛かり、ぶら下がった。
コロッコロになる前に、たまたま出逢っただけなのかもしれない。
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