付箋2:マーブルチョコレートさん

いつものように電車に乗っていた。出入口付近の角にもたれながら、流れる景色をただぼんやりと眺めるバイト帰り。


 その頃私は専門学校の学生だった。卒業後、就職に役立ちそうだなと思い、学校から紹介されたアルバイトを始め、数ヶ月が経とうとしていた。


 平日、夜の京王線。そこそこ混んではいたものの、人との間隔はある程度空いていた。


 ポンッ、ザー……(ゴリッゴリッゴリッ……)


 聞こえてきた先を見てみると、そこには幸せそうにマーブルチョコレートを頬張る男性の姿。


 目があった。

 無意識にすぐ視線をそらす。


 そしてまた外を眺めはじめたその時、マーブルチョコレートさんが私に近寄り腕をトントンとした。


 えっ?と思ったのと同時に(食べる?)と言わんばかりに私に向かって無言のまま蓋のあいたマーブルチョコを差し出す。傾ければザーッと出る状態だ。


 「え……いらないです」

 困惑混じりの苦笑いでそう答えた。


 ほんの少しだけ残念そうに笑った気がした。

 でもまたすぐ幸せそうに食べはじめた。


 突然そんな事があってかなり動揺した私は、電車を降りてからも心臓がバクバクしていた。


 (そんなに欲しがってるような顔してたのかな)


 ちょっとだけ太ってるから食いしん坊さんに見えたのかもしれないけど、急に電車の中でマーブルチョコレートを渡されそうになるとは。


 びっくりなんてもんじゃない。


 それからというもの、マーブルチョコレートに焼き付いた強烈な思い出は消えること無く、今もなお目にする度に思い出している。




 

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