第88話 ステイヤーとしての才能
一方。関西に向かった2人は。
2008年3月23日(日) 阪神11
競馬場に着いて、何故か仲良く「タコ焼き」を食べながら、競馬新聞を見て、パドックを見ていた。
そして、座席に向かう。
今回は、2人とも馬主ではないので、馬主エリアではなく、通常の座席だ。
「で、隊長はどうだ?」
「こりゃ、いいね!」
美雪が上機嫌に声を上げていた。
「どうでもいいが、いいね、とこりゃいいね、は何が違うんだ?」
「別にー。ただ、前走からの勢い、そして覚醒した才能。彼は頭がいいね。恐らく自分の適性がこの距離にあるって、わかってるんじゃないかな」
「馬にそこまでの知性があるのか?」
「わかってないな、相馬さん」
「何がだ?」
「確かに馬の知性は、人間の2、3歳児レベルで、犬より低いって言われるけどね。調教して鍛えて、何度もレースに出て。ちゃんとわかる馬はわかるんだよ」
「そんなものか」
「そんなもの」
なんだかんで、2人は仲良く並んでレースを眺めることになるのだが、美雪は年の離れた相馬を、「父親」みたいとも思ってなかったし、相馬はそもそも年齢的なこともあり、恋愛自体に興味を示していなかった。
阪神競馬場、芝3000mは、この阪神大賞典のみに使用されるコースで、2コーナーの出口付近からスタートして最初の直線までの距離はおよそ360m。内回りコースを約1周半、コーナーを6つ回ることになる。
スタートしてから最初の3コーナーまでの間に先行争いが激しくなる場合もあるが、その後は完全にペースダウン。2周目の3コーナー過ぎまで淡々と流れ、そこから一気に加速してゴールまで激しい追い比べとなる。
昨年のステイヤーズステークスほどではないにしても、長距離を走るレースだ。
人気面では、このレースにライバルのイーキンスが出走していなかったこともあり、ヴィットマンは単勝1.6倍の圧倒的1番人気だった。4枠4番に入る。
2番人気の馬のオッズが、6.3倍だったことがその人気の高さを証明していた。
そして、レースが始まる。
ファンファーレの後、スタート。
さすがに長距離レースの常として、スタート直後からヴィットマンが動かないし、他の馬もどちらかというと、様子見と言った感じで、淡々と進んで行く。
ヴィットマンは、全13頭のうちの4番手くらいにつける。
(いい展開だ)
(鞍上は池田か。さすがにベテランだね)
相馬と美雪が心の中で思う中、レースは1周目を回って行くが、やはりヴィットマンは動かず。
彼が本格的に動いたのは、2周目の3~4コーナーの中間あたりだった。
「さあ、ここでヴィットマンが動く」
先頭で、逃げを打っていた馬が、徐々にだが落ちてきて、差が詰まってきていた。
4番手にいた、ヴィットマンが動いて3番手に上がる。
「400を通過して、直線に向きます。先頭はヴィットマン」
ここで仕掛けたヴィットマンがじんわりと上がってきて、ハナに立っていた。
「200を通過。2番手は……」
2番手との差が、この時はまだ1馬身半から2馬身程度くらいだったが。
「さらに突き放す、ヴィットマン」
そこからさらに加速していたのが、ヴィットマンだった。
「差は詰まらない。先頭、ヴィットマン、リードを4馬身くらい広げてゴールイン!」
最終的にはある意味、ヴィットマンの圧勝だった。これで彼は父、フォーゲルタールが勝ったレースを2つ勝ったことになり、ステイヤーズステークスに続いて重賞を連勝となっていた。
阪神競馬場に大歓声が響く。
「すげえな、隊長」
「だから言ったでしょ。これは、天皇賞春が楽しみだなあ」
「しかし、イーキンスの3連覇がかかってるレースだぞ」
「そうだね。だから何?」
「観客の多くは、その3連覇を期待してるだろうに」
「いいんじゃない。
実際に、イーキンスは天皇賞をすでに2連覇しており、この年、3連覇がかかっていた。陣営は、当然、それに合わせて調整し、出走予定と言われていた。
「なるほど。一理あるかもな」
「でしょ。でも、次はオーナーくんと一緒に見たいな」
「前から思ってたんだが、あんた、もしかして子安の兄貴のこと、好きなのか?」
「さあね。別に相馬さんに言う必要ないし」
などと会話をしながらも、彼らは勝利の目撃者になり、ヴィットマンに賭けていた美雪は儲かり、逆に相馬は賭けられないことで、意気消沈していた。
こうして、ヴィットマンは、阪神大賞典を制した。
彼の父・フォーゲルタールが勝った重賞は、ステイヤーズステークス、阪神大賞典、そして天皇賞(春)。
ヴィットマンが父に追いつこうとしていた。
彼の次のレースは、天皇賞(春)と決まる。
その前に、ミヤムラシンゲキオーのクラシックが始まろうとしていた。
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