第24話 初めての自家生産馬
相変わらず、全然レースに勝てないミヤムラボウズ、ミヤムラジョオウに、
この年、4月。
「産まれたよ!」
という、真尋の声に、牧場スタッフは安堵の声を上げていた。
実は馬のお産については、結構大変だったりする。
一般に、馬の妊娠期間は342日ほど。約11か月になる。
つまり、昨年、2001年5月に種付けをしてからちょうど11か月目が4月だ。
通常、馬は夜間に出産することが知られている。これは馬が、自然のなかでは捕食される草食動物なので、自分たちが最も安全で、周囲の目から遠ざかった時間帯を見つけようとするからだと言われている。
そして、母馬が人目を忍んで
馬主に出産に立ち会う経験が無かったり、常時監視ができない状況だったり、難産のリスクが高い母馬については、自宅で出産させることは推奨されていない。
もし、馬主や管理者が、自宅で出産させることを決めた場合は、獣医師と詳細な計画を立てる必要がある。その場合は、清潔かつ安全で、静かなスペースを確保することが重要だ。
また、一部の母馬は、放牧地で問題なく出産することも可能だが、一般的には、母馬は馬房内に飼養しておいて、出産の兆候や経過を観察しやすくすることが最善であると提唱されている。
そのための馬房としては、最低でも約4m×4mの広さが求められ、良質の敷料が必要となる。敷料としては、オガは馬体に付着しやすく、仔馬が吸い込んでしまう危険性があるため、出産用の馬房にはワラが推奨されている。
一般的に、馬の出産は、以下の3つの段階に分かれる。
①第1段階: 最初の子宮収縮から始まる。これは30分から6時間も続くことがあり、母馬には
②第2段階: 破水が見られて(羊水の袋が破れる現象)、仔馬が20〜30分以内に
③第3段階: 胎盤の排出が見られるが、これは、仔馬の娩出から3時間以内に完了する必要がある。もしそれ以上長くかかると、母馬に多くの問題を引き起こす胎盤停滞という病気が疑われる。
こうして、様々な困難を乗り越えて、ようやく出産となるが、それでも母馬、仔馬とも命の危険があり、下手をすると命を落とすのが、馬の出産なのだ。
さらに、仔馬は娩出から1時間以内に立ち上がり、2時間以内に受乳し、3時間以内に胎便を排出するのが正常だとも言われている。
とにかく、ようやく初めての「お産」を終えた、子安ファーム。
もちろん、お産には、牧場長の真尋を中心に、厩務員の結城と相馬、さらに獣医の岩男先生も立ち合って、何とか無事に終わる。
生まれてきた仔は、もちろん可愛いが、誕生時の平均体重は50〜60㎏、つまり人間で言えば、成人と変わらないくらいの体重になる。
それが、100㎏になるのに、1か月しかかからないという。
人間の赤ちゃんは、生後9~11か月で立つようになり、1歳前後で歩くようになるが、馬の場合、たったの1~2時間だ。
しかも、生後10日〜2ヶ月で牧草や固形の飼料を食べ始める。
とにかく、幸いだったのは、獣医の岩男先生がいることもあったが、母子共に健康だったことだ。
「可愛い! この仔は、この牧場で生産した初めての仔だからね。きっと、活躍してくれるよ、オーちゃん」
と、真尋は根拠がないような一言を言って、大喜びだったが、圭介は、この仔が後に重要なレースに参戦するようになるとは、この時は思ってすらいなかった。
父はホームスチール、母はサクラノキセツ。生まれた仔は、牡、つまり男の子だった。
父のホームスチールが芦毛、母のサクラノキセツが青鹿毛だったが、彼は母のような青鹿毛を持って生まれてきた。
まだ名前すら仮称だが、サクラノキセツの2002。初めての自家生産馬として、子安ファームに生まれた彼は、大切に育てられることになる。
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