107 上級街

 翌日はヴェロニカ達を連れて上級街の店をまわる。以前は入れなかった店で貴族用の魔道具などを見せてもらう予定だ。

 馬車で移動し店舗に乗り付けて、店内ではなく個室へと通されて商品の希望を聞かれる。

 今回は戦闘用の武器になる物や魔法を増幅してくれる装備、油のいらないランプや水を出す魔道具を見せてもらった。

 炭鉱用にも綺麗な空気を生み出す魔導具や扇風機の様な物があるらしいので、カタログを見て気になった物を伝えていく。

 武器に関しては一振りで消し炭にする様な強力な武器は無く、ボール系魔法が撃てたり、刃に属性をまとわせたりが殆どでそれほど欲しい物は無かった。

 撃った矢に属性を纏わせる弓やクロスボウがあったので買うのはそれくらいだろうか。

 炎を纏った剣もロマンを感じはするが実際に使ったらとても熱かったので他の属性のほうが良いだろう。

 魔法を増幅する装備は俺が作れる程度の物ですら金貨数枚から数十枚という高額であり手が出せなかった。

 便利系のランプや水が出る魔導具は金貨十枚はするが、風系は使い道が少ないのか金貨5枚だったので武器と合わせて白金貨3枚分を買い上げた。

 風の弓、火のクロスボウが各30枚で。買わなかった矢が無くても撃てる属性弓は倍以上の値段がするそうだ。


 買い物が終わり他にも無いかカタログを確認し直していると隣の部屋から怒声が響いて来た。

 こちらが黙ってしまったため耳を澄ませると何を言っているか分かるほどの声量で会話を続けている。



『先日確認させた時には有ると言っていたではないか!』


『い、1週間も前の事ではありませんか!遣いの方も取り置きが必要とも言っていなかったのですでに販売してしまったのです!』


『そんな事は知るか!確認させたのだから買うに決まっているだろうが!』



 何やら行き違いがあったようだがこのまま聞いているのも座りが悪い。



「今日は日がよろしく無い様だしこれで失礼させてもらおうか。」


「そうですわね、予定していた物は買えましたし帰りましょうか。」


「申し訳御座いません、馬車までご案内させて頂きます。」



 購入した物をマジックバッグに仕舞い廊下に出ると、大きな音を建てて隣の部屋の扉が開いた。

 出会わない様に早めに出たのだが思っていたよりも気が短いようで部屋から出てきた男と鉢合わせしてしまった。



「ん?誰かと思えばベイリアルの牛娘ではないか。」


「お久しぶりですウォーカー男爵。」


「久しぶりだなヴェロニカ嬢、そちらは初めて見る顔だがどなたかな?」


「始めましてショウト=ボルドウィンと申します。先日準男爵位を頂きました。」


「おぉ、これはご丁寧に。先程ヴェロニカ嬢も言っていたがラトウィッジ=ウォーカーだ。

 辺境に飛ばされたベイリアル家の者がこんな所で何をしておるのだ?貧乏地方貴族が買う様な物はここには無かろう?」


「最近はそうでもありませんが今日はこちらのショート様の付き添いですわ。」


「ふむ?聞いたことの無い家だがその若さで魔導具を買えるとは余程優秀と見える。」


「実用的な小物を数個なら必要経費でしょう。さすがに屋敷に飾られる様な装備品おきものには手が出ません。」


「その小物を準男爵程度では1つ買うのにも苦労するのだがな。

 しかし感心せんな、貴族の令嬢が男と二人で買い物とは。ここは辺境では無いのですから勘違いされてはまた婚期が延びますぞ?

 ただでさえ貰い手がいないのですから気を付けなければいけません。

 まあどうしても相手が見つからなければ私の側室にでもして差し上げますが。」



 そう言ってヴェロニカを舐め回すように見ると笑みを深くする。



「ご心配はいりませんわ。婚約が決まりましてもうすぐ式を挙げることになりましたの。」


「なんと、物好きな方も居たものだ。まぁ良い私は忙しいのでこれで失礼する。」



 興味を失ったのかそう言うと俺達を追い越して男は去って行った。



「ごめんなヴェロニカ。言い返していいのか分からなくて言わせっぱなしになってしまった。」


「いいえショート様、言い返してはいけません。

 下級貴族は当主と正妻以外は貴族では無いのでわたくしは平民なのです。

 爵位も上ですしショート様が罰せられてしまいす。

 言い返したければ同格になるかさらに上の貴族に庇護する価値を示さなければいけません。」


「規則としては分かったが納得はし辛いな。」


「お顔が怖くなっていますよ。人によっては殺意や悪意を飛ばしただけで罰してくる方もいますから顔に出してはいけません。」



 腑に落ちず不機嫌そうな顔をしていると店員からも茶を勧められ、あの貴族が出発するまで部屋に戻る事にした。

 お茶を一杯飲んでいる間に店員が玄関を確認しに行ってくれて、鉢合わせしない様に取り計らってくれた。

 一人ならこれで帰っていただろうが今日はデートでもあるので次は服屋に行って気分を変える事にしよう。

 ヴェロニカが着れる物は少ないがスカートや乗馬ズボン、紐で調整が出来る服を試着して幾つかを購入した。

 もっと着せ替えを楽しみたかったが着れないのでは仕方が無い。領地に帰ったらのきねぇさん達の店に発注する事にしよう。

 装飾品店では貴族のパーティ用の物はほぼ特注になるらしいので普段使い出来そうな物をいくつか購入する事にした。

 パーティ用の物は自分で作ることにしてインゴットもいくつか売ってもらった。

 ウサを晴らす為に買い過ぎたのか褒賞で貰った白金貨5枚がほぼ無くなってしまったが仕方が無いだろう。

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