106 パーティ招待
城の廊下を騎士に連れられて歩いて行くと廊下の端で誰かを待っているように辺りを見回している太った男が居た。
服装から貴族であると分かり、こちらに気がつくと見回すことを止めて近付いてくる。
「グラシャム男爵、国王派の貴族です。」
ヴェロニカが小声で相手の事を教えてくれ、警戒を少し緩める。
貴族には派閥があり大まかに国王派、貴族派、領地派、中立派の4派に分かれ。国王派と貴族派の仲が悪いらしい。
領地派は領地優先で利益によってどちらにも協力し、中立派はどちらにも協力しないという立ち位置らしい。
「やあボルドウィン卿先程ぶりですな。謁見の間にいたグラシャム男爵と申します。
さすがは戦いに身を置く方ですな全く動かないので石像になったのかと思いましたぞ。
実は2日後にガーンランド伯爵様主催のパーティがありましてな、よろしければいらして下さい。
身内の会なので軽い気持ちでいらして頂いて大丈夫です。あ、こちらが招待状になります。
それでは私はこれで、またお会いしましょう。」
一方的に
「あーとりあえず帰りながら話すか。」
「そうですわね、ガーンランド伯のパーティなら大丈夫だと思いますが参加致しますか?」
「ベイリアル家は国王派なんだよね?なら一度参加してから戻った方がいいかも知れないな。」
王城からの帰り道、馬車の中で相談した結果。パーティに出る事になった。
国王派の顔合わせのための会であり、ガーンランド伯は国王派の下級貴族のまとめ役としてベイリアル家も世話になっている方だからだ。
代を重ねれば領地派になる可能性もあるが、今は色々と手伝ってもらっているヴェロニカの実家に合わせるのが一番動きやすいだろう。
一番人数が多いのは貴族派らしいが地方や領地持ち貴族には影響力が全く無く。あくまでも王都内で職を持つ貴族の集まりらしいので俺にはあまり旨味が無い派閥である。
パーティに参加するのは俺とヴェロニカと祖父母の4人で、衣装はヴェロニカと同じくオズワルド様から頂いた物を手直しする事になった。
身長もさほど変わらず体格もほぼ同じということで直す所は余り無かったが、ズボンを少し詰めることになったのは人種の違いのせいだろう。
対してヴェロニカは肩と胸元の出ていた衣装に布を足し、露出を減らすなど大きく雰囲気が変わっていた。
直すのは職人に任せて俺は家紋が描かれた品や装飾品を作ることにした。
ベルトのバックルやカフス、ブローチ、指輪、耳飾りにロックスパイダーのショールなど。金や銀、銅、プラチナまで買ってきて色々と作り上げた。
宝石を魔石で誤魔化し地球でも貴金属を買ってきたがそれでも白金貨2枚が飛んでいくことになった。
プラチナの合金で作ったので丈夫さもあり、普段使いだけでなく魔法の触媒にもなる実用性があったり。こちらの世界の流行りは分からないがドレスに負けない物は作れたと思う。
パーティ当日、伯爵邸に日が沈み始めてから向かい広間に通される。
ベイリアル男爵家の10倍はあろうかという大きな屋敷の中には様々な美術品が置かれ、廊下を歩く俺の目を楽しませてくれる。
美しい景色の絵やカッコいい鎧、人物や動物の石像など俺にも分かりやすい美術品が並べられており。抽象的な物は伯爵の好みでは無いらしい。
剥製一つとっても魔物の剥製が並べられているので俺にとってはファンタジーミュージアムを観に来たみたいで非常に楽しい。
長い廊下を立ち止まりながら進み広間の大扉を通ると高さこそ無いが体育館の様な大きさの部屋があった。
部屋の隅には軽食が並べられ着飾った人達がその前でたむろしていた。
パーティには爵位の低いものから会場に入る決まりがあるそうで、準男爵成りたてである俺に合わせて早めに会場入りしてくれたヴェロニカの祖父母と共に会場で貴族達に挨拶をして回る。
自身より上位の貴族へ話し掛けてはいけない規則らしく。最初からいた騎士爵、準男爵へ話しかけて後から部屋に入って来た男爵達に挨拶した後、食事をしながら雑談となった。
味は濃いが肉料理は美味しく、菓子は甘過ぎはするがフルーツは美味しくて種類も豊富と十分食事を楽しめた。
たまに子爵や伯爵が挨拶をしに話しかけて来たが、すでに脳がパンクしており名前を聞いた端から忘れてしまった。
なぜステータスで知能や記憶力が上がってくれないのかと本当に文句を言いたい。
美しいご令嬢方とも挨拶をしたが結婚を迫られるという事もなく少し拍子抜けしてしまう。
参加者の入室が全て終わると、主催者であるガーンランド伯の入室が告げられて今度は伯爵位の貴族から順に挨拶へと向かう。
ヴェロニカ達と共に男爵位の最後に挨拶に向かって一緒に挨拶をさせてもらう。
「お初にお目にかかります。先日準男爵位を頂きましたショウト=ボルドウィンと申します。」
「グレアム=ガーンランドだ、先日の式は見事だったな
新たな街道も見せてもらったが素晴らしい出来だった。私の領にも敷いて貰いたいくらいだ。」
「あれは土精霊の契約者と魔石があれば他の者でも作れる物ですのでそちらの方が早いかも知れません。」
「確かにそなたはこれから婚姻の準備や鉄鉱山までの整備など仕事が詰まっておるか。
我が領にもエルフは数人居た筈であるし土精霊の契約者を探してみるか。」
「下級精霊と土の魔石でも大丈夫なので探せば出来る者はいると思います。」
「下級精霊ならたしか兵士の中にもいた気がするな。攻撃と穴掘りにしか使えんと思っておったが石の道も敷けたのか。」
「魔石で魔力さえ用意できれば街の外壁や家なども作れたりとかなり重宝しております。」
「そういえば一月で街も作ったのだったか、よくそれだけの魔石を集めたものだ。」
「金額に見合った期間の短縮ができますからね、使い所次第だと思います。」
「確かにな。数年かかる外壁の工事が一月で出来るのなら予算さえ用意出来るのなら選択肢に成り得るだろう。
人口の増加に悩んでいる街は多いからな。」
伯爵自身も挨拶回りがあるので、ほんの少しの時間話しただけだが割と話しやすく、顔役というのも納得できる雰囲気の方だった。
話題も向こうから振ってくれて非常に助かった。
会場にいる全ての貴族に顔合わせが済み、元男爵夫妻の友人が話しかけて来るだけになると。俺はヴェロニカと共に夫妻から離れて過ごした。
何人か娘を勧めて来る貴族もいたが美人ではあるものの、残念ながら15歳未満の子供ばかりで食指は動かなかった。
この世界では問題無いと分かっていてもさすがに若すぎる。
側室は一人は必要らしいが15歳以上はすでに婚約が決まっている事が多いので難しいな。
まあ子爵以下の側室はメイドや平民がなる事も多いらしいので、フェリに子が出来たら奴隷から解放して迎え入れるのが無難だろう。
夕方に始まったパーティも日が沈んで空が真っ暗になれば帰り始める者が出始め。俺達も人数が半分ほどになる頃には帰宅した。
3〜4時間は会場にいてかなり楽しめたと思う。分かりやすい悪徳貴族もいなかったし、仕事が出来そうな人が多かったのはこの派閥の色なのかも知れない。
明後日にはタイソンへ帰るつもりなので明日は王都での最後の休日だ。デートなど浮ついた事は出来ないが皆で買い物はする予定だ。
家に帰り何事も無く王都での予定を終わらせることが出来て何とか貴族としてやっていけそうだと胸を撫で下ろすと、ここ最近の精神的な疲れから解放されて早々に眠りに就いてしまった。
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