105 謁見、昇爵、婚約

 夕食での約束通り次の日から、ヴェロニカはドレスを作るためにマージョリー様と一緒に服屋を呼んで過ごし。

 俺は物資や奴隷の買い付けなどをして忙しく過ごした。

 王都だけあって店も品数も多くて紹介を受けた店だけでも十数軒を回ることになった。

 その甲斐もあり探していた乳製品や野菜の種を見つける事が出来たので領の食事を美味しく出来そうだ。

 試食もさせてもらい地球の物と比べれば甘みが少なく野性味はあるが十分美味しく食べれたので生産できれば料理の幅が広がるだろう。

 特にネギ系の食材が数種類手に入ったので肉料理が美味しくなりそうだ。


 奴隷商もいくつか回ってみたが好みの美人はらず、新たな領民を増やすに留まった。

 レオゲンよりも高い素材の買取価格による儲けも買い付けであっという間に消え去った。

 丁度開催されていた奴隷のオークションにも参加してみたが特に目を引く人も居なかったので買うことは無かった。

 というか犯罪奴隷ではあったがまた元貴族令嬢や令息が売られていたんだけどこの国大丈夫なのか?

 美人だけでは無く戦闘奴隷も元ゴールドランクの冒険者がオークションに出ていたし上位層になっても安心という訳では無さそうだ。


 そうして細々とした買い物をして過ごす事3日、ベイリアル家の馬車で王城まで送ってもらいついに謁見の時が来た。

 控室から先にはヴェロニカも入れず、パーティメンバーも無しで一人で謁見の間に入らないといけない。

 大きな両開きのドアを両脇に控えた騎士が開き「進め」と言われて下を向いて赤い絨毯の上を進む。

 「止まれ」と言われるまで前に進みその場に片膝を着いて待つと王が入室してくる。



「一同面を上げよ。ショウト=ボルドウィンよ、授爵したばかりにもかかわらず炭鉱の発見、整備。他国により秘匿されていたコークスの製造法を明らかにし、さらに王家主動で行っている辺境開拓事業への多大なる貢献として自費での街の建設および街道整備をするなどその功績は枚挙まいきょいとまがない。

 その功績を鑑み騎士爵から準男爵へと昇爵させる運びとなった。陛下より直接御言葉をたまわれる機会を得た事を光栄に思うが良い。」



 周りが顔を上げ立ち上がる中でも跪き続け王座の横に立っている偉い人の偉そうな言葉を聞く。

 頭を下げ続ける俺を放置し感謝の言葉や報奨金の他に装飾のされた剣をたまわり一言も発言しないまま式が進んで行く。



「さて、ボルドウィン卿よ直答を許す。聞けば街道を作るために随分と魔石を使ったそうだな。

 報奨を増やすことは出来んが何か願いがあるのなら話を聞こうではないか。」


「有難う御座います、ではヴェロニカ=ベイリアル嬢との婚姻を認めて頂けませんでしょうか。」


「ほう、隣のベイリアル領との縁を望むか。良いだろうボルドウィン家とベイリアル家の婚姻を許そう。両家の交友を深めデクオン共々辺境の地を発展させる事を願う。」


「はっ!有難う御座います、領地を良く治められるよう努めさせて頂きます。」


「うむ、今後の活躍も期待しておるぞ。」


「ではこれにて閉式とする。一同礼!」



 事前に聞いていた通りの流れで式が終わり、再び頭を垂れて陛下を見送る。重い扉の閉まる音がすると部屋の中の空気が弛緩し雑談が聞こえだした。



「ボルドウィン卿、これで陛下の顔と名を知る事となったが陛下にはミドルネームがあるため直接念話は出来ん。知ったとしても不用意に念話をすれば罪に問う事になる、軽々けいけいな行動は慎むように。

 それから陛下のミドルネームを知ったとしても家族であろうと教える事は許されんという事を覚えておけ。」


「承知いたしました。軽率な行動をせぬ様に注意致します。」


「陛下も言っておられたがそなたの働きで50年は開拓事業が短縮出来た。陛下直近の者は皆感謝しておる。

 緊急の要件があれば私に直接念話を飛ばすが良い、私の名はケンジー=スペンサー。伯爵位ながら陛下より宰相職を頂いて居る。

 私からも異世界人の事で相談する事があるかも知れんからよろしく頼む。」


「あ、はい。もちろんです。」


「ではな、また会おう。」


「はい、有難う御座いました。」



 異世界人という言葉が出てきて驚きで演技が途切れてしまった。

 気を張り直し貴族式の礼をして顔を上げるとすでに部屋には俺達と警護の騎士しか残っておらず、宰相もさっさと広間を出ていってしまった。

 宰相の背を追って広間を出ると侍女と褒賞を持った文官に声をかけられて控室まで案内してもらう。

 控室で待っていたヴェロニカ達と合流するとようやく緊張が解け、深くソファに座り込んで一息付く。

 乾いた喉を茶で潤すともう一度気を入れ直して付いて来た文官に向き直る。



「すみませんお待たせ致しました。」


「いや、構わん。初めてであれば当然の事だ。」



 椅子に座り茶を飲んで待っていてくれたカーティス準男爵に謝罪し話を進めてもらう。



「さて、これが先程頂いた感謝状、依頼料兼報奨金、宝剣となる。

 金額は白金貨5枚、剣にはそなたの家の家紋が彫られていることを確認してくれ。」



 綺麗な装飾の付けられた宝剣のつばには猫と花と剣が描かれた家紋が彫られていた。

 うちの家紋と言われても初見なのでこれが選ばれたと言うことなのだろう。

 少し可愛い感じではあるが花が多い我が家には丁度良いと思う。



「確認しました、問題ありません。」


「ではこれが家紋の詳細な覚え書きとなる。今後は王都や王城に入る際にはこの家紋が描かれた馬車や懐剣を用意し門兵に見せるように。

 この宝剣は家宝として決して外に出さず無くしたり壊すことが無いように気を付けよ。最悪の場合家の取り潰しもあり得るからな。」



 この宝剣、王城での儀式やパーティで着飾るための装飾品ではなく。所持している者を家の当主と認める程の重要な品らしい。

 確認される事は滅多に無いが家督争いや乗っ取りがあった場合に判断材料の一つになるらしい。

 もっとも次男が一人で宝剣を持って来てもすぐに家督を継げる訳では無いのであくまでも判断材料の一つでしかない。



「そういえば、私のいた場所ですと準男爵と騎士は子供に引き継げない爵位だったのですがこの国ではどうなのでしょう?」


「仕事もせず貴族年金で暮らしているような貴族ならば子爵以下の者は引き継ぐことは出来ないが、ほとんどの者は子にも同じ仕事をさせるから問題がなければ引き継げるな。

 そなたなら領地の統治があるからきちんと学ばせれば子に渡すことも出来るだろう。」


「なるほど、それなら安心です。」


「さて、私の仕事は以上だ。そろそろ失礼させてもらうよ。」


「有難う御座いました。」


「ではな、また会おう。」



 カーティス準男爵を見送って部屋の中が完全に身内だけになるとヴェロニカに抱きついて精神力を回復する。



「さぁショート様帰りますよ、もうひと頑張りして下さい。」


「もうちょっとだけこのまま。」


「下位貴族が用もなく城にいても良いことなど無いらしいですから少しだけですよ。」



数分間の補給で回復し報奨を片付けると部屋を出て入口まで警護の騎士に案内してもらって城の入口へと向かった。

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