104 街道開通

 翌朝ヴェロニカが来るのを待って北門から飛び立つとザカリーまで一気に移動する。

 辿り着いたその日はザカリーで宿を取り、翌日から街道作りを開始する。

 昨日出発時点でザカリー側には伝えてもらったが特に誰かに話しかけられることなく作業を開始させてもらえた。

 ザカリーまでの道のりと違い馬車の行き来が多く、度々作業を止められる事になったが3日かけて王都までの道を作ることが出来た。

 ザカリーで借りた馬車の御者台に座っているだけだったので今までの工程よりは楽ができ、舗装した道を走るので揺れも少なくはあったが水を通す溝を通る時の振動はいかんともしがたく。尻にダメージを与えるのに十分であった。

 休憩時に馬車の作りを見てみたが板バネすら使われていない簡単な造りだった。

 冒険者ギルドの馬車はここまで振動が直に来ることはなかったので物資輸送用の安物を借りてしまったようだ。

 夜に寝るためにたいらで広い荷台の物を選んでしまったがヴェロニカ達には悪い事をしたな。

 幸い皮やクッションは沢山あったので荷台では誤魔化せた様だが、御者台でクッションを重ねる分けにもいかず交代する事も出来ないので一人尻を擦る事になった。


 王都は少し高台に作られていて坂道に道を敷いていかなければいけず、傾斜を緩やかにしたり道幅を広くしたりしたい所だったがすれ違う馬車を止める訳にもいかず。一部はそのまま上書きするだけになってしまった。

 次にやるときがあれば1日通行を止めてから弄りたいところだ。

 3日を掛けてザカリーから王都への道を敷き終わるとそのまま王都に入る。

 今回は何があるか分からないので奴隷組には準備部屋で留守番をしてもらいホムンクルス達だけを連れて王都へ入った。

 泊まる場所も宿では無くベイリアル男爵家の王都の屋敷に泊めてもらう。

 ヴェロニカの祖父母が暮らすその家はレオゲンの屋敷よりは小さいものの、調度品などの質は一目見るだけで分かる程にまさっていた。

 調整は全てヴェロニカがやってくれて顔合わせは夕食で、となったがレオゲンの屋敷以上に居心地が悪く感じるのは何故だろう…

 カーティス準男爵への到着報告も済ませて3日後に迎えを寄越すと返事をもらうことが出来た。

 念話を送って十分もせずに日程が決まったと返事が帰って来るとはカーティス準男爵は爵位以上に重鎮かも知れない。

 正装に着替えて護衛にクルスとダリアだけ連れてヴェロニカのエスコートで食堂まで案内してもらうと、すでに中にいた二人に挨拶をする。



「お初にお目にかかります、ショウト=ボルドウィンと申します。本日は招待頂き有難うございます。」


「孫共々遠い所をよく来てくれた質素だが食事を用意させたので楽しんで行ってくれ。」


「ささ、紹介など座っていても出来るのですからまずは席に着きましょうショート様。私疲れてしまいましたわ。」



 緊張しながら何とか自己紹介を済ませると何故か腕を組んでいたヴェロニカが抱く力を強めて席に案内してくれる。

 挨拶もそこそこに椅子に座らせられるとヴェロニカと祖父母も席についた。



「ゴホン、わしがヴェロニカの祖父のオズワルド=ベイリアル、隣が妻のマージョリーだ。息子達が世話になっているらしいな礼を言おう。」


「それにしても本当にあの子にそっくりな表情をするのね。ヴェロニカがお転婆過ぎて迷惑を掛けていないかしら?」


「お祖母様、わたくしだって大人になりましたのよ?時と場合くらい選べるようになりましたわ。」


「惚れた理由を聞いた時は何を馬鹿な事を言っているのかと思うたがなるほどな、これなら大事にだけはされるだろうな。」


「そうですわね、あの子と同じならきっと良い夫婦になると思いますわ。」


「無名の冒険者と婚姻すると聞いた時はどうなるかと思ったが話を聞く限り随分と優秀な者らしいな。」


「ショート様は本当にすごいのですよ、お祖父様方にも早く新しい道を体験してほしいですわ。」



 矢継ぎ早に繰り出される会話に口を挟むことも出来ず、食事のマナーにリソースを取られて会話もあまり頭に入って来ないがそんなに特徴的な鼻の下の伸ばし方をしているだろうか。

 自分では無表情を装っているつもりなのだがこちらに来てからよくだらしない顔をしていると言われるようになってしまった。

 まあ地球ではこんなにいい思いをする事もなかったのだが学生時代はどうだったのか恐ろしくもある。



「そういえば結婚式の日取りなどは大まかにでも決まっておるのか?レオゲンやボルドウィン領へは儂らは行くことが出来んから式に出ることは叶わんだろうが祝ぐらいは送らせてもらうぞ。」


「え?あ、はい。謁見後に領に帰ってから1ヶ月から2ヶ月後に領都で予定しております。」



 急にこちらに話を振られて慌てて質問に答える。

 ヴェロニカの両親とも話したが昇爵後に王から結婚の許可を貰い、新しい領都の紹介も兼ねて式を上げることになった。



「なるほど確かにそのくらいが頃合いか。」


「見に行けないのは残念だけどドレスの1着くらいは送らせてね、王都には1週間位は居るんでしょ?お直しくらいは出来ると思うの。

 私のドレスが着せられないのは残念だけど胸以外は入るからお直しする分以外にも何着か持っていくと良いわ。」


「ありがとうございますお祖母様、でも式に着るドレスはもうショート様に作っていただいたので明日お見せしますわね。

 材料のロックスパイダー糸はわたくしも自分で紡いだんですのよ。

 糸袋に針で穴を開けてこう、きゅーっと絞ると糸になって出て来るんですの、力が必要で大変でしたけど糸が出ていくのは見ていて面白かったですわ。」


「また貴方はそうやって貴族令嬢らしくない事を…まあ自分で素材を獲りに行った訳では無いから成長したのかしら?」



 少し興奮気味に糸袋を絞る仕草をしながら説明するヴェロニカにマージョリー様が呆れ顔をする。

 俺もヴェロニカのレベルを上げるために狩りについて来る事は出来るかと聞いた時には驚いたが兄の狩りに同行し、クロスボウで仕留めた鹿の皮で鞄や小物入れを作ったりした経験があるらしい。



「だ、大丈夫ですわ!さすがにゴールドランクの魔物がいるような場所について行ったりする程無茶ではありませんもの。」



 炭鉱の外壁からゴブリンを撃ったり、森の浅い場所での狩りに同行させたりはしているが。ロックスパイダーが出るほどの森の奥には連れて行ってはいないので嘘は言っていない。



「その様子だとまだ狩りに行くのは辞めていないようね。

 それにしても自分で紡いだ糸でドレスを作らせるなんて随分急がせたのね。出会ってまだ2ヶ月ほどではなかったかしら?」


「お祖母様、ショート様はクロスボウの名手ではありますが本来は制作魔法の職人が本業だそうですわ。

 素材も全てご自分で獲って来て、ご自分でドレスを作ってプレゼントしてくださったのですわ。」


「まぁ!素敵ね。私も昔お祖父さんから自作の羽根飾りのネックレスをプレゼントされて婚約を申し込まれたのよ。」


「ワシの素人作りの物と比べられるのも面映おもはゆいが見た目に似合わず粋な事をするではないか。」



 単純にドレスを頼める知り合いも時間も無くて手に入る素材で自分で作っただけだったのだが。貴族の間ではよくある告白方法だった様だ。

 思わぬ所で評価が上がった、これだけ喜んで貰えれば1着の為に20回ほど失敗して消え去った素材達も浮かばれるだろう。

 頭が煮えそうなほど細かい刺繍やレース、細工などを考え。それが消え去る絶望感にさいなまれはしたが美しさ以上の価値があった様だ。


 そこからはお祖父さんからのプレッシャーも減り、話し掛けられる回数が増えた事で苦労は増えたが会食を楽しむことが出来たと思う。

 喋っていたのはほとんどヴェロニカとお祖母さんだったが定期的に話を振ってくれるのでとても話しやすかった。

 夜は全員別の部屋に通されたので久しぶりに一人で眠る事になった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る