101 爵位授与式

 遅めの起床の後にもう一度流れと禁止事項を確認し直して軽く昼食を腹に入れると領主館に向かい案内された控室で待つ。

 しばらく待たされた後に通された大広間に入りベイリアル男爵家の面々が並んでいる中前へ進む。

 一人だけ知らない貴族が中央に立っているのでその前でひざまずく。

 俺が膝を付いて頭を下げたのを確認すると貴族が抱えていた飾り筒の中から手紙を取り出し高々と読み上げた。



「では、陛下の代理として私が勅令ちょくれいを読み上げる。陛下の御言葉だと思い清聴するように。

 冒険者パーティ森猫の影が発見した鉄鉱山の報奨としてリーダーであるショートに対し騎士の爵位と開拓村の一つを授与するものとする。

 今後はショート=ボルドウィン騎士爵を名乗り領地を良く治める様に。」


「はっ!拝命致します。」


「うむ、さてここからは勅令ではなく陛下からの依頼となる。」


「はい。」


「石炭の件と石の道の件はすでに陛下にも伝わっている。石炭だけでも昇爵には十分なのだが箔を付けるためにもレオゲンから王都までの道を整備して欲しい。

 依頼書に書かれている期限は1年以内にしてあるが王都まで来た時についでに顔合わせも済ませてしまおうということだからなるべく早く依頼を済ませてくれると助かる。」


「分かりました、用事を済ませたらすぐに作り始めようと思います。王都までですと街道の両側に村がありますが街道は上書きしても良いのですか?」


「それは仕方がなかろう、上書き出来なければ道など敷けないからな。」


「後は街の外だけでいいのですよね?」


「もちろんだ、街の中は貴族の管理する領域だからな。街道だけならお互いに利益があるから調整が楽だが街中までいじるとなると反発する者が居て調整できん。」


「それなら私も面倒がなくて助かります。」


「さて、これで私の仕事は終わりです。遅くなりましたが私のブライアン=カーティスと言う。準男爵の爵位を頂いている、すぐに同格になる様だし気軽に話てくれ。」


「ショウト=ボルドウィンですよろしくお願いします。」


「街道を敷き終わり王都に来た時は私に念話を飛ばしてくれ、そうすれば何週間も待たされることもなく謁見が可能になるからな。」


「それは助かります、ベイリアル男爵には散々おどかされていたので。」


「ああ、あの件か。あの時の人間はすでに王宮を去っているからそこまでの事にはならんがな。

 同じ事を始める馬鹿はいつの世代にも現れるので無いとは言えん。」



 その後は男爵家の面々を加えて談笑となりお茶を頂いてから解散となった。

 ヴェロニカの仲介で妹さんとも少しは話が出来て表面上は仲良く慣れた気がする。まぁヴェロニカが視線を外すと睨まれるのであくまでも表面上だけの様だが。

 その中で王都へはヴェロニカも連れて行くことになり野営をしなければいけなくなってしまった。

 王都で悪い虫が付かないようにするためということだったが、王宮内では敵味方も分からないし正直助かる。

 さらには注文した物資なども商隊に運ばせる事になりこのまま王都に向えとの事だ。急ぎ過ぎではないかと思ったが俺が街道を敷く速度が上手く伝わっておらず、3ヶ月前後かかると見積られていた。

 王都へは2週間ほどで街道を敷けると言うと早すぎるので1ヶ月以上掛けて王都まで来る様にと延長を申し渡された。

 遅くなる分には良いのだが問題はヴェロニカをどうするかということだ、街は執事や炭鉱の管理人でどうにかなるだろうが一ヶ月も野営させるのも忍びない。

 お湯などは簡単に準備部屋から手に入るし洗濯も準備部屋で綺麗になるのだが1ヶ月も馬車の中では暇だろう。

 期間にも余裕があることだし定期的に帰る単身赴任の形式が良さそうだ。確かレオゲンから王都まではアーラで10時間ほどかかったはずだ。

 さすがに1日で十数時間乗り続ける気にはならないが工期を伸ばすには丁度いいだろう。

 時間を無駄にしているとも言えるが最近はずっと働いているから休日のツーリングだと思えば良い過ごし方かも知れない。

 そうなると横を飛んでくれる相手が欲しくなるので2匹目のワイバーンをテイムしようと思う。魔素も貯まっているから部屋も広げられるし、ヴェロニカは念話も出来るので違うワイバーンに乗っていても会話可能なのも丁度いい。

 街道造りは数日毎に魔石を補給に帰るなど適当な理由で戻れば1ヶ月くらいすぐ過ぎるだろうから3日働いて4日休むくらいで丁度いいだろう。




 昨日、スマホを開いたら丁度ダンジョンが現れてから100日目だったららしい。

 テレビやネットは何かあるんじゃないかと騒いでいたが101日目になっても何も起こらず、ソシャゲの様なイベントや配布無いのかと肩を落としている人々が散見された。

 俺自身はレベル60を超えてほぼ年金生活の様な物なのだが、未だにウシの出る10階に足を踏み入れられなかったり、40階のバジリスクを倒せない人が沢山いる様だ。

 そんな人達にとって40階をクリアした人達の中でもソロで討伐を成功した者は恐怖心が壊れた人外扱いだった。

 スキルで人数を増やせば自分が戦わなくても倒せるのにな、と一瞬考えたが戦えもしないのに死ぬ危険のある場所を進んで行くのは十分壊れているなと思い直した。

 俺自身ゴブリンが4体にならなければ何処かで躓いていたかも知れないし、テイムしたモンスターはカードの召喚獣ほど長時間戦ってくれないから経験値や魔素を稼ぐ量にもかなりの差があるのだろう。

 バジリスクも今ならカノンで1発かミスリル武器で攻撃したら楽に倒せるだろうが、あの時は主力のトラッドの風魔法が効き辛く武器も皮を切り裂くのがやっとという有り様だったからな。あれを少人数かつ鉄の武器で倒そうとしてるならそれは恐ろしいだろう。

 お勧めのスキルなどは紹介されているが自分が強くなって活躍する事を諦めきれない人達はかなり

多いらしい。

 急ぎの仕事も無くなり、こちらの世界での居場所も完成した。生活もほとんどこちら側になっていたがこれからは少しは余裕ができるだろうか。

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