100 辺境の村拡張

 翌日、ヴェロニカの部屋で共に起きだし身支度を整えた後一緒に朝食を取る。



「まったくショートさんが悪戯ばかりするからマルティナに怒られてしまったじゃありませんか。」


「ヴェロニカが眼の前で揺らしてるんだからしょうが無いんだ。」


「夜もずっと触ってらしたのに本当にお好きなのですね。お母様と一緒にいる時のお父様と同じ顔をしておりましたわ。」


「好きすぎてヴェロニカに一目惚れするくらいには大好きだね。それはそれとして親のデレデレした顔と同じなのは良い事なのか?」


「良い事ですわ、見慣れてますから安心しますもの。妹なんて小さい頃は父がその顔をしていると母に嫉妬して割り込んでいたんですよ。」


「へぇあの静かな妹さんがね、想像出来ないな。」


「あれは緊張して御澄ましおすまししていただけですわ。いつもはとてもお喋りな娘なんですのよ?」


「前回はほとんど喋れなかったからいつかゆっくりと話せるといいな。」


「そうですわね、嫁いでしまうとあまり話す機会がありませんしもう一度くらい集まれると良いのですけど。」



 和やかな会話をしながら食事を済ませ、デレデレとした顔で分かれのハグを惜しむと苦笑しながら送り出された。

 辺境の村に向かうためにアーラに乗って飛び立ち、ほんの一時間ほどの飛行を楽しむと村へと辿り着いて村長へ面会を申し込む。



「お久しぶりですボルドウィン様。本日はどの様な御用向きでしょうか?」


「お久しぶりですローマンさん、その様子だと連絡があった様ですね。」


「ええ、先日騎士様が通達書を持って来てくださいました。」


「通達書にもあったと思いますが私がこの辺の領主になったので今日はこの村に外壁や道、それと宿屋の建物を作りに来ました。」


「それは助かります、畑を広げたくてもなかなか壁を広げるのが難しくて困っていたのです。」


「取り敢えず新しい街道に繋げようと思いますけど門の数や場所に希望はありますか?」


「では街道側以外には北西と北東の2箇所にお願いします。今より広くなると門2個では足りないと思いますが4箇所に増やすには兵士が足りないので。」


「そういえばこの村の兵士は何人いるんですか?」


「専業の者は3人ほどですね、戦える者なら30名以上います。」


「多いですね、家の数的に村人のほぼ全員じゃないですか?」


「ええ、開拓村の初期人員は全員戦える者ですからね。従卒、衛兵、冒険者と職は色々ですが引退間近の者や嫁が欲しい者が自薦じせんして参加しています。」


「あ、やっぱり数年開拓したら嫁が貰えたりするんですね。

 そういえば領主が変わりましたけど嫁を用意するのって俺がやらないといけないんですかね?」


「いえ、開拓を始める時に費用は受け取っておりますので。

 3年開拓を頑張って費用を浮かせられれば残った費用で奴隷を購入するか移住希望者の中から結婚相手を選べるという契約なのです。

 ですから領主様が変わってもその事で新たに費用がかかる事はあまり無いかと。」


「そうなんですか、ちなみに後どのくらいで3年立つんですか?」


「あと三ヶ月ほどですね、収穫が終わると収穫量次第で家を出る者や子を売る者が増えるのでその後になります。」


「もうすぐじゃないですか。なら村を大きくするついでに今いる人達に新しく石の家を作りますよ。

 どうせ新規移住者のための家を建てないといけないので今住んでいる家を移住者用にした方がいいでしょう。」


「街道を作った手際を考えれば可能なのでしょうがよろしいのですか?」


「村の中に道を作ることを考えれば移動してもらわないといけない者もいるでしょうしね、今の畑から家が遠のく者も出るでしょうからその辺は新しく精霊に畑も作ってもらって対応します。」


「確かに道幅を考えると潰れる畑も出ますか…精霊が作った畑なら喜んで移ると思いますが出来れば潰すのは収穫後にしていただきたいのですが。」


「もちろんです、今回は外壁を南東方向に広げて南側半分を整備して北側は収穫後に手を付けるつもりです。村を4倍以上に広げてその半分を今回整備する感じですね。」


「4倍!?そんなに広げて下さるのですか?」


「いずれはもう一つ村を作るつもりですがそのくらい無いと街の食料を維持出来ないと思うんですよね。」



 ヴェロニカの執事に聞いたのだがこの国の農民の税制は人頭税+畑の収穫を半分領主に収める形になっており、領主が受け取った税収の4分の一を国へと収める必要がある。

 税収に見合った額の貨幣や他の物品で納めることも可能だが、往復2ヶ月近くかけて輸送しなければいけないことには変わりなく、かなりの費用がかかることが予想される。

 しかも開拓村からは5年間税が取れないのでこの村からの税は後2年は0だ。俺が作った街は開拓したのは俺なので始めから税を取れるが人口が増えれば買い付ける食料が増えて収穫まで出費が増えることになる。

 もちろん人口を増やせば街の成長が早まるのでバランスを見ながら増やさなければいけないが、そのためには資金が必要なのでまた素材を売りに行かなければいけない。

 ベイリアル男爵が言っていた一週間もそろそろだし村の拡張が終わったらレオゲンに向かうとしよう。

 2日をかけて外壁と家などの建築を終わらせるとヴェロニカとマルティナを連れてレオゲンの街に飛び立つ。


 街の北門に降り立つと対応してくれたいつもの門兵に数日レオゲンに滞在することを領主家に伝えてもらい、男爵家にヴェロニカを送り届けた後冒険者ギルドに素材を売りに向かう。

 今回も薬屋に泊まるのだがいつまでも護衛も無しで飛び回ってもいられないし、ワイバーンをもう1体テイムしたら連れ歩く人数も増えるだろうし薬屋を拡張した方がいいだろう。

 冒険者ギルドに卸した素材代が金貨30枚ほどになり人を増やせるようになったので炭鉱の街に戻る時にまた購入して連れて行こうと思う。

 今日の所は食料の注文と金属部品などを購入するに留めて薬屋へと帰った。


 薬屋に戻るとベイリアル男爵から連絡があり明日の昼過ぎに出来るだけ綺麗な身なりをして領主の館に来るようにとの事だった。

 いきなりではあるが何をするかはヴェロニカ経由で聞いていてそのための衣装も染料や金箔、金糸を使って作ってあり、式の作法も勉強して準備万端に整えてあるので心配は無い。

 緊張はするが俺はほとんど頭を下げていて「はい」と返事をするだけなので難しい事は無いのが救いだ。

 明日の午前中に最終確認を出来る時間をくれた様だし完璧にクリアして見せようじゃないか。

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