97 露天売りの

 二日酔いは無いものの昼に近い時間に起きだした俺はいつもの奴隷商に向かって歩き出す。

 そこまで急ぐ必要はないので休みにしても良いのだがヴェロニカ嬢も心配なので早く帰還出来る様に準備は進めておいたほうが良いだろう。

 今回買うのは警備隊のリーダー役と木工が出来る職人を予定している。ドアノブやカギはこちらで買っていくだけでいいだろう。

 鉄がまだ手に入らないので鍛冶師を手に入れても手持ち無沙汰になってしまう。



「いらっしゃいませショート様。来店いただき有難う御座います。」


「こんにちはネロンさん、今日も購入したくてきました。」


「かしこまりました。それではお部屋に案内致します。」



 いつものように部屋に通され探している奴隷の条件を伝える。一度部屋を出たネロンさんが戻ってきた時には2人の男性と1人の女性を連れていた。



「お待たせしました、この物達が今うちにいる中で条件に合う物達です。

 左から木工職人のカラム、シルバー冒険者のコネリーとエメリン。2人は同じパーティだったそうです。」


「パーティで奴隷落ちとは何があったんです?」


「この街はそうでもないのですがデクオンの街の教会はあまり行儀の良い所では無くてですね、瀕死の者に法外な額を請求しては奴隷落ちさせるということを繰り返しているのです。

 教会には国もなかなか手が出せない上に強制はしていないということで教会の自浄作用も働かないようで…」


「瀕死の重症だった割には傷も無い様に見えますが。」


「ええ、仕事はきちんとする方で金さえ払えばどんな怪我も綺麗に治してしまうと噂の有能な方ではあるのです。」



 金次第ではどんな傷も治してしまう名医とは、顔に傷のある闇医者ではないがそう聞くと金にがめついのか名医だから料金が高いだけなのか判断がつかないな。



「では木工職人の方は何故奴隷に?」


「カラムは腕は悪くないのですが色狂いでして娼館通いが止められず店の売上にまで手を出したあげく借金をして奴隷になりました。」


「直接話しをしてもいいですか?」


「ええどうぞ、納得行くまで話をして下さい。」


「ありがとうございます、カラムさん良い働きをした時には褒美を出そうと思いますが娼館代と嫁ならどっちがいい?」


「褒美ですか!?それなら断然嫁が欲しいです私の生活を管理出来る嫁がいればもう身上しんしょうをつぶす様な事も二度とせずにすむかと思います!」


「なら甘やかしてくれる嫁と尻に敷いてくる嫁はどっちがいい?」


「それは尻に敷いて下さる方ですね。生活を正すためにも足で踏んで下さるくらいの方が良いと思います!」



 何かカラムさんの性癖が透けて見えてきた気がするが残念ながらうちのメンバーには女王様系はいないな、ネヴェアですら割と受け身で元娼婦たちも技術は習っていたが基本言われたことをやるタイプだった。

 強いて言えばサユキが当てはまるが嫁には出せないし褒美で殺してしまうわけには行かない。



「ネロンさんそういう強気な女性って今この店にいますか?」


「難しいですね、うちで販売するならある程度教育してから外に出しますからある程度大人しい方を買い集めていますので。

 外の露天ならば美人なだけで扱いにくい者を客寄せにしていますからそちらを買って教育するのはどうでしょう?」


「なるほど、帰りに見てみますありがとうございます。」


「いえいえ、仕事ですから。」


「コネリーさんとエメリンさんはどうです、欲しい物か結婚相手に希望はありますか?」


「お、俺は出来ればエメリンと結婚したい!です。」


「私もコネリーと一緒になれればと思っています。」


「おや、お二人は恋人同士だったんですか?」


「はい、奴隷になったのも私を庇ったコネリーが怪我を負って逃げる途中で結局私も大怪我をしたのが原因なんです。私はその恩を返せればと思っています。」


「エメリン!それは俺が勝手にやってドジを踏んだだけだから気にしなくて良いと言ったじゃないか!」


「ですからこれも私が勝手に言っている事です!」


「黙りなさい!質問に答える以外には話をしない様に!まだお買い上げ頂けるかも分からないのだぞ!

 申し訳ありませんショート様、教育が足りなかった様です。」



 喧嘩を始めた2人をネロンさんが止め、こちらに頭を下げてきた。

 事情と人となりを知りたかったのだがまだわだかまりがある様だ。まあ話し合う時間を与えればすぐに和解出来そうな内容だし問題無いだろう。

 街で暮らす奴隷にはいずれ相手を探すつもりだったが少し急ぎすぎたか?



「ならエメリンさんの働きの評価をコネリーさんに付けることにしましょうそれなら一緒になるのも早まりますしね。

 ただし他の奴隷と同じ様に働いてもらいますがよろしいですか?」


「もちろんです!精一杯頑張らせて頂きます!」


「お、おいエメリン。」


「コネリーは黙ってて!」


「色々先走りましたがそういえばこの方達の値段はいくらでしょうか?」


「おお、そうですな。本来ならカラムが金貨2枚、コネリーとエメリンが合わせて金貨5枚と銀貨40枚ですがこちらの教育が足りなかった部分があったようですので合計金貨7枚と銀貨30枚でいかがですか?」


「思ったより冒険者の2人が高いですね、結構優秀なパーティだったんですか?」


「ええ、長い事馬車の護衛依頼を中心に活躍していたパーティで怪我こそしましたが依頼自体は成功させています。うちの商会の依頼も受けたこともあるので実力は保証致します。」



 なるほど才能はあったが護衛依頼ばかりしてレベルが上がらずシルバーで燻っていたという所だろうか。

 ネロンさんもセットで売る気の様だしこちらに面倒が一つ減って都合がいい。



「警護が出来る者を探していたので丁度いいですね。3人共購入させて頂きます。」


「ありがとうございます、それでは契約書の用意をさせて頂きます。」



 用意された契約書にサインをし代金を支払うといつもの様に順に譲渡をしてもらう。何事もなく購入が終わるとコネリーとエメリンは準備部屋に行ってもらいカラムを連れて玄関まで案内してもらう。

 見送られて店の外で露天で奴隷を売っている店を巡っていくと各店の自慢の奴隷が台の上に乗せられて鎖で繋がれていた。

 普段通ってる時はただ商品を並べているだけだと思っていて、並んでいる人達も汚れていて明らかに扱いが悪く余り食指が動かなかったのだが、ネロンさんに聞いた所俺がよく買う様な怪我をしている奴隷などはむしろこちらの方に多くさらに安く手に入るらしい。

 商品も露店に並んでいる分だけでは無くテントの奥にさらに店があり、そこにいる奴隷が本来の商品で店の前で台に乗っているのはボッタクリの見せ物なのだと言っていた。

 そんな露天商でも比較的まともで俺の目的に合いそうな店を紹介してもらい、紹介状まで書いてもらった。その内の一つの店に辿り着くと店主に話しかけ紹介状を見せる。



「こんにちは、ネロンさんに紹介してもらったんだけど商品を見せてもらえますか?」


「いらっしゃい、うちは傷病奴隷専門の店だが大丈夫かい?

 ネロンさんの知り合いだってんなら勉強させてもらうけどあの店みたいなキレイで行儀のいいのはいないぜ?」


「怪我は直せるから大丈夫だよ。怪我を癒す代わりに辺境の村や鉱山で働いてくれる奴隷を探しているんだ。」


「なるほど、それならうち向きだな。それじゃ付いて来てくれ。」



 店主に付いて奥へと行くと鉄格子の牢が通路の両側に並んでいた。店主は鉄格子に近づくと木の棒で鉄格子を打った後大声で叫んだ。



「この方がお前らの傷を治す代わりに辺境の村で働いて欲しいそうだ、希望者は前へ出ろ!」



 突然の大きな音に驚いたが奴隷達は慣れている様で驚いた反応も見せずただ鉄格子の前に近寄る。

 腕がない者はともかく咳をしてようが足が無かろうが自分の力で動かないといけない様だ。

 店主に近づき牢の中の奴隷達を見回すと牢の中から女が話しかけてきた。



「ねぇ貴方怪我を治してくれるって本当なの?治してくれたらお礼は期待してくれていいわよ。

 これでも前は娼館の稼ぎ頭だったから最高の夢を見せてあげられるわよ。」



 ネロンさんの店ではこちらから話しかけるまで声を掛けてくる事はなかったので教育を大事にしているというのは確かなのだろう。

 今回は気が強くて経験がある人を探していたので丁度いいかも知れない。

 顔に傷があるくらいで大きな怪我はしていないようだが病気にでもなったのだろうか?



「カラム、傷や病気は治すから気にしなくて良い。好みかとか一緒にやっていけそうかとかどう思う。」


「本当にこんなに綺麗な人と一緒になれるんで!?」


「まぁ褒美だから半年後とか1年後の話ではあるけど真面目に働いてくれれば必ず。」


「頑張ります!細工でも何でも出来ますよ!」


「うん、やる気を出してくれて助かるよ。それじゃ希望者全員とそこの寝ているダークエルフの子供っていくらになります?」


「全員!?そりゃありがてぇけどよ14人全員だと金貨8枚と銀貨30枚ってとこだな。

 それにしてもそいつがダークエルフの子供だってよくわかったな耳も切り落とされてるってのに。

 育てれば高く売れるんだが喋れねぇし最近は食い物も食わなくなっていつ死ぬか分からねぇって状態で売られてきたんだが、それでよければ銀貨20枚でどうだ?合計で丁度金貨9枚でキリが良いだろ?」


「わざわざそんな状態にして売りに来る人がいるんですか…」


「事故にしろ故意にしろうちはそんなのばっかりだぜさっきお前らに話しかけてた女も客に腹壊されて働けなくなったから売られてきたたぐいだし。

 この店に売りに来るやつは大体虐待されたやつだな。死ぬと面倒だから死ぬ前にここに売りに来るんだよ。

 おかげで初級のヒールが使えるだけの俺みたいなのが儲けてるんだけどな。」


「売った金でまた被害者が増えてしまいそうですね…金貨9枚でしたよね支払います。」


「逆だ逆、今まで殺さえて人知れず埋められてた連中にチャンスを与えてるんだよ。まぁ20人も30人も売ってくる奴なら被害者が増えてるかも知れねぇけど。

 この店は買い取りは一律銀貨1枚の代わりに死にかけてても買い取る超優良店だぜ?」



 死なせる奴がいるから買い取るのか売ることが出来るからやるのか、卵が先か鶏が先かの押し問答はあるがこの人なりの目的があってこの仕事をやっているのだろう。

 牢にいる人達も汚れてはいるが殆どは元気そうだしネロンさんが紹介しても良いという程度にはまともな店なのだろう。

 俺だって傷を癒やしてダンジョンや炭鉱という危険地帯に送り出しているのでどうこう言えないのだがやるせない気持ちになるな。


 人数が多すぎて全員とパーティを組むことは出来ないが準備部屋には入れるので戦えそうな者はバンシーの階に。戦いが向かなそうなものは準備部屋で待機してもらい一通りスカラに癒やしてもらった後スライムグミを配り食事をしてもらう。

 石炭用の木箱や食料なんかも置かないといけないので部屋の拡張を2回行い床に寝れるようにする。

 ネロンさんの店で購入した3人はリーダー格になって貰う予定なのでバンシー部屋でみんなの世話係をしてもらい、治療の終わった炭鉱用の奴隷達に準備部屋内の世話を頼んだ。

 食料にドアノブなどの金属部品、木工や鍛冶の道具など買い集めないといけない物は沢山あるが何から買いに行ったもだろうのか。

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