96 鉄精錬炉稼働

 翌朝、ゲートから外に出ると精錬炉の前には数人の筋肉質な男達がいかにも文官という衣装の細い男に宥められている姿が目に入った。

 いつものメンバーを連れて近づいていくと騒いでいた男達が一斉にこちらを向いた。



「おはようございます、皆さんお早いですね。」


「おお!さすがは我らの英雄よ。我らの意をんで来てくれたのか。」


「ありがたい、職員もうるさかったし丁度良かった。今荷物を運ぶのを手伝いに行こうと話していたのだ。」


「荷物は全部マジックバッグの様な物の中なので大丈夫ですよ。どの辺に置きましょうか?」



 やはり少し遅れていたら家まで押しかけられていたかも知れない。家を知っているのかは分からないが必要なら何処かから聞き出して来そうな怖さがある。



「ならこの辺に置いてくれ。使わなかった分は俺達が倉庫に運ぶからよ。」


「了解です。」



 精錬炉の近くにゲートを開きクルス達に石炭とコークスを持ってきてもらう。



「ん?2種類あるな。こっちの白いのは何だ?」


「あれ、コークスって使ってないんですか?石炭だと火力足りないんじゃ。」


「おう、足りねぇから火と風の魔石を使って無理やり上げるのよ。」


「ならこれはその助けになるかも知れません、これはコークスと言って簡単に言えば石炭を木炭のように加工した物なんです。

 これなら石炭よりも火力が出るので上手く使えば魔石無しで鉄が溶かせるかも知れません。」


「なるほどな~なら最初はそいつを使って溶かしてみるか。駄目ならいつも通りやればいいだけだからな。

 なに、何年も我慢してたんだ1日くらい遅れても問題ねぇ。」


「だな、石の炭なんて珍しいもん使わねぇ方が持ったいねぇ。」


「しかしコークスが知られていないなんて、木炭は使われていますよね?」


「おう、鍛冶の時は使ってるな。石炭じゃ煙が出ちまうしかなり風を送ってやらないと鉄が柔らかくならねぇからな。

 炉の中ならともかく炉の外でやる焼入れには木炭を使ってるな。調子に乗って炉になんて使っているとすぐに森が無くなっちまうから精霊を怒らせねぇためにもあんまり使えねぇがな。」



 木炭があるなら同じ作り方のコークスも作られていそうだけどまだ発明されていないのか秘匿されているだけなのか。

 石炭とコークスを出し終わると鍛冶師達が早速炉に火入れを始めた。薪に火をつけ薪から木炭へ、木炭からコークスへと炎を大きくしていくと鍛冶師達から声が上がった。



「おお、確かにまだ魔石を使っていないのに炎の温度が高いな。」


「うむ、それに煙も少ないぞ。これなら焼入れにも使えるのではないか?」


「ほれもっと風を送ってみるぞ何にしても鉄が溶けねば意味が無い。」


「そうだそうだ、もっとそのコークスとやらを焚べてみろ。」



 ガヤガヤと騒ぎながら仕事だけは慣れた手つきで進めていく鍛冶師達の仕事ぶりを見ながら俺はノームに洗練炉を見てもらい作りを覚えてもらう。

 俺が作る予定の街に精錬炉が必要かは分からないがゴミのリサイクルを考えると溶かせた方が便利にはなるだろう。

 鍛冶用の炉は溶かすというより柔らかくする、もしくは少量を溶かす程度だろうから大型の物が1基あると安心だ。

 魔石がどう使用されているのかは分からないがそこは建築の時に誰かに聞けばいいだろう。


 数時間掛けて鉄を熱して溶かすと炉の取り出し口を塞いでいる土を崩しドロリと溶けた鉄を型に流し込んでいく。



「本当に溶けたのう。」


「本当に溶けたなぁ。」


「コークスとやらの価格によっては鉄の値が下げれるかも知れんな。」


「魔石はそんなに高いのですか?買取価格はそうでもなかったと思いますが。」


「いや、魔石自体はそこまで高くはないのだが魔力を込めて貰うのに金がかかるのだ。

 魔力の多い者はすでに稼げる者ばかりであるから手間賃も当然高くなってしまう。」


「複数人で補充し合うんじゃ駄目なんですか?」


「まぁ当然みんなそう考えるんだが、やってみると一人で魔力を込めた物より威力が低かったり、込めたよりも取り出せる量が少なかったりで使い難いんだよ。」


「へぇーそうなんですね。」



 待機で魔力が余っている召喚獣達に魔石の魔力入れを命じたりはするが混ぜちゃいけなかったのか。今度からは一人一個づつ渡すようにしよう。

 すべての鉄を型に流し込んだら後は冷えるのを待つだけだ。

 鉄と不純物を分けるためには出来るだけゆっくりと冷やす方が良いらしく、炉の前で祝の酒盛りが始まった。

 俺も遅めの昼食として参加しネヴェア用の小樽を一つ提供させてもらった。地球で買った甘めのワインを入れた物だったが割と好評で食事を持ってきた奥様方も消費を手伝いあっと言う間に空になった。

 産地を聞かれたが酒に詳しくないので樽に書かれて無いなら分からないと言ってごまかしたがこんなに好評なら俺が作る街で作ってみるかな。

 湧き水はすでに見つけてあるし、ブドウは地球から持って来た種か苗をドライアドに頼めば最適な育て方が分かるだろう。

 そういえば激甘精霊の実を水で薄めて酒を作るというのはどうだろうか?話題性だけはあるので高級酒として売れるかもしれない。

 カビ菌すら消されるダンジョン内で酒が造れるのか?という問題があるので酒蔵が出来てからになるがやってみる価値はあるだろう。


 鉄が冷え切るまでは深夜まで時間がかかるらしいのでそれまで飲み会は続くらしい。

 そんなに長時間よく飲んでられると言ったところ一人以外はドワーフだったらしい。確かにガタイが良くヒゲは生やしているがそこまで長くはなく、身長も160cmはあって特に低くはない。

 強いて言えば肩幅が広く腕が太いくらいだがエルフの様に外見的特徴は無い。

 日が暮れてからは武器屋の親父など参加者が増えて来てさらに盛り上がってきたがさすがに酔ってきたので俺はアルコールの無い物に飲み物を変えた。ステータスが上がって丈夫になったとは言え5時間以上飲み続ければ酔えるらしい。

 月が天中に登った頃酒を飲んでた連中が示し合わせたように炉の前に集まりだした。



「どうだ、って聞くまでもねぇな、アイアンタートルの鉱石だったか。」


「まぁ純度は保証されてるからな問題は不純物の方だ。」



 そう言って出来たインゴットを火にかざして金槌で打って確認していく。



「さすがに金や銀は混ざってねぇが手つかずの鉱脈だけあってミスリルの粒が混ざってるな。」


「おお、ならしばらくはミスリル特需がおこるな。久しぶりに鉄打ち放題な上にミスリルまで扱えるなんて本当に魔王様々だな!」


「おい!それは言うなって!」


「あ、すまん。つい。」



 失言をしたらしい男が後ろに立っていた男に頭を叩かれこちらに頭を下げてくる。一瞬ミスリルの情報を大声で喋ったことを怒られたのかと思ったがどうやら魔王様というのは俺のことらしい。

 鉱山を見つけて崇められてるとは聞いたが魔王というのは何処から来たんだ?



「すまねぇ、さすがに風聞が悪いから言わねぇように注意してるんだけどよ。」


「そうだぞ第一お前の腕前じゃミスリルを扱う依頼なんて来ねぇだろうが!」


「それはお前も同じだろうが!」


「変な噂が流れてたのは知ってましたけど何処から魔王になったんです?」


「いやぁ最初は淫魔の主とか性王とか呼んでたんだけどよ。いつの間にか混ざって短くなっちまったんだよなぁ。」


「さすがに教会から討伐隊が来ることはないだろうけどよ。外聞が悪いだろ?だから止めさせたんだよ。」


「討伐隊?魔王って存在するんですか?」


「いやな、たまに強力な魔物を教会が魔王認定して自分達で倒して権威を示すんだよ。店出してるとたまに寄付金せびりに来るからお前の所にもそのうち来るんじゃねぇか?」


「へぇ怪我の治療だけじゃなくてそういうこともしているんですね。」


「まぁ孤児院とか炊き出しとかもしてるから悪い事ばかりじゃねぇんだけどな。討伐も街道や街が安全になったりその魔物の縄張りに入れるようになったりと旨味もあるしよ。」


「最終的にはこっちの儲けにもなるけどいきなり来るからよ、支払いやらで金が足りねぇ時に来られると困っちまうんだよな。」


「寄付ってよく来るんですか?」


「いや1、2ヶ月に1度だな。寄付が集まらないと期間が短くなるとか聞いたことがある。」


「へぇ期間が伸びるなんてちゃんとしたところなんですね。」


「まぁこの街の教会はそうだな、場所によっては毎月同じ日にって街もあるし。」



 魔王うんぬんは別にしてベラには来たら多目に渡していいと伝えておこうかな。今後街を作るなら奴隷だけじゃなく移住者も募らないといけないし信用があれば孤児の中からも移住希望者が出てくれるかも知れない。

 すべての鉄の確認が終わり倉庫に移動させると宴会はお開きになり、俺も後片付けは明日やるからしなくていいと言われたので早々に帰らせてもらって裏路地で準備部屋に戻り眠りについた。

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