95 コークス炉始動

 翌日、大量の木箱を作り出し倉庫に積んだ後。石炭の精錬炉の2段目に1箱分の石炭を入れ1段目に薪と石炭を入れて火を付ける。

 何時間かかるか分からないが一段目に随時石炭を足していきコールタールが出なくなったら終わりでいいだろう。

 以前見た蒸気機関車の様に轟々と燃える炎を見ながら適当に石炭を追加していく。

 煙突から立ち上る真っ黒な煙を見てフィルターと触媒も必要かなぁなどと思っていると徐々に黒い液体がパイプから出て来た。

 後はこの温度を長時間保てばなんとかなるはずだ、火力を上げすぎると炉が壊れると聞いたことがあるのでやりすぎない様に注意しつつ火を維持したら出来上がるだろう。

 後どのくらいかかるのか分からないので液体が数分出なくなったら給気口と煙突を土で塞いで火を消すように伝えてジュリアに後を任せる事にした。

 炉にヒビが入っておらず隙間から空気が入らなければじきに火も消えて冷えてくれるだろう。

 レンガや木炭を作る時は一晩中火を燃やし続けるとか聞いたことがあるし夕方火を消して一晩冷ませば翌朝には完成しているかも知れない。


 アーラに乗って昨日の続きまで山を降りると辺境の村に向かって道を作り始める。レオゲンからこちらの村はすべて街道の北側に作られているので街道の南側に増設していけば邪魔になることも無いだろう。

 土を少し盛り上げ石の様に固めてしまうため水はけが悪くならないように中央からほんの少し傾斜をつけ、定期的に溝を作って小さな砂利で埋めることで水が通るようにする。脱輪した馬車が戻りやすいように端に傾斜もつけてやろう。

 思いつく限りの対策を施して実際に作るのは精霊任せだがノームは文句も言わずに黙々と道を作ってくれる。

 代わりにドライアドが木を動かしてもらうたびに文句を言っていたが切り倒すよりマシだろうから我慢して欲しい。


 この日は結局村まで辿り着けずに日が傾いてきたので炭鉱まで戻って来るとジュリアから精錬炉の火を消したと報告があった。

 隙間がないかノームに確認してもらい金属缶に溜めていたコールタールを10杯に分けて制作魔法でタール軽油を作り出す。

 量は大した事が無いが2回成功したので次回からは燃やす石炭の量を減らせるだろう。ストーブの様に使えば何時間かは火力を助けてくれるはずだ。

 夜は引き続き霊石集めを行い余分を作っておく。スカラとシドーなど参加できないメンバーが居て人数は増えていても戦力は減っているので補強するためにトラッドにウインドカノンを、サユキにアースカッターを覚えてもらう。

 さすがに鉱山奴隷達は連れて行かないがダークエルフ隊から2名を連れて行き弓で敵を減らしてもらうつもりだ。

 とりあえず100個を目標に集めようと思う、2日もがんばれば集まるはずだ。




 翌日はコークス炉の中を確認し、まだ熱気は残っていたものの入れないほどではなかったので箱に移して準備部屋に仕舞う。

 黒く艶があった石炭の見た目が薄灰色のざらついた見た目に変わり、箱一杯に入れても俺一人で持ち上げることが出来た。

 もっともステータスを考えると元の5倍以上のステータスになってるので100kgでも余裕で持ち上げられそうではある。

 箱の持ちにくさのせいか重くは感じたのでステータスを十全に使えていない気がする。

 箱も取っ手の形状など改良の余地があると思うので色々と作ってみようと思う。

 次は石炭の量を倍にしてやってみよう。明日は更に倍にして上手くいくようなら炉を3つに増やす予定だ。

 3基の炉で石炭の出し入れ、燃焼、冷却を順番に行えば発注が増えても対応出来るだろう。

 火入れまで終わらせると新しく治療の終わったジェニファーとジュリアにコークス炉を任せて俺は街道作りに戻る。

 今日明日は無理をすれば帰って来れるので様子を見ながら炉を動かしていく予定だ。




 道を伸ばし村に着くたびに街道の説明をする為に村へと寄る。

 事情を説明した時は胡乱うろんげな顔を見せるが実物を見せると笑顔で土産を渡そうとしてくる。

 今もらうと商隊が来た時に食料が足りなくなる恐れがあるので丁重に断り、宿の無い村には石造りの宿を作っていく。

 扉やベッドは村で作ってもらわないと行けないが平らな部屋があるだけでも違うだろう。

 徒歩で5日の予定が大幅に遅れレオゲンの街まで道を敷き終わったのはコークス完成から7日後だった。

 途中ヴェロニカ嬢の下へ向かう商隊ともすれ違ったので帰った時には何か変わっているかも知れない。


 7日の間に薬屋も準備が整い店を開店させた。

 もっとも開店セレモニーやセールなどせずむしろ南の大通りの店より全て1割、2割増しで店の看板を付けて鍵を開けただけなので手伝いも必要無く、閑古鳥が鳴いているそうだ。

 それでも買い忘れた冒険者や面倒臭がりの人が少しづつ買っていくらしい。

 俺達が採取してくる素材の物以外は消費期限が長い物に限って置いているので客が少なくても問題無い。

 そのうち噂が広まって認知されていくだろう、なんせ上級ポーションまで売っている店だからな。

 植え替えた陽光の花も安定して少しづつ蜜が採れるようになってきたし少しくらいなら売ってもかまわない。もっともこれも2割増なので金貨10枚ほど高くなっているが。

 大量に売れる様なら値上げも検討している売る気の殆どない商品だ。


 一度薬屋に帰り様子を確認した後は冒険者ギルドで素材を売り金貨20枚ほどを稼ぐ。41階以降に余り行けず同じ素材ばかりなので余り売ることが出来ず金額はそこまで高くはならなかった。


 クルスとダリアに領主への面会予約を取りに行かせるとこれから早速会い、ついでに今晩の夕食を一緒にどうかと返事をもらうことが出来た。



「よく来てくれたボルドウィン卿。ヴェロニカからも凄まじい働きだと報告が来ておるぞ。」


「お会い頂き有難う御座います。私もまさかここまで上手くいくとは思っていませんでした。」


「それで話は聞いているが鉄の精錬炉を確認したいということでよろしいかな?」


「はい、どのくらいの量を必要としているのかを知らないと採掘量が決められませんから。」


「丁度昨日精錬炉が完成してな。石炭が届き次第試運転をしようと思っていたのだ。鉄鉱石ではなくお主が取ってきたアイアンタートルの鉱石だが使う石炭の量は変わらんから参考にはなるだろう。

 鉄鉱石はまだ一週間ほどかかる予定なので届いたらまた連絡しよう。」


「有難う御座います。石炭は十分な量を持ってきたはずですのでぜひ見学させて下さい。」


「では早速明日やると鍛冶師達に声を掛けるとしよう。今まで材料が足りなくて打ち直ししかできなかったせいでうるさいのなんの…場所は南東の工房街に作られているから後で地図を渡そう。」


「明日は早めに行ったほうが良さそうですね…早く持って来いと家に押しかけて来そうです。」


「もしくは自分達で石炭を持ち寄って勝手に始めかねんからその方がよかろう。」



 武器屋でも採掘用のツルハシを無料で送りつけて来たと言っていたからな大分鬱憤が貯まっているのだろう。

 明日は現地付近でゲートを開き準備部屋で寝るのがいいような予感がする。



「そういえば街の前まで石の道を作ったと報告が来ていたぞ。一体どうやって作ったのだ?」


「精霊に魔力を込めた魔石を渡して土を固めて貰ったんです。」


「精霊に魔石か、それでは容易に真似することは出来んな。道の整備に関してだが依頼が来ても受けん様に頼む。王からなら問題無いが敵対貴族の領地から王都に向かう道の整備などされたら何が起こるか分からんからな。」


「承知致しました、今回の道は勝手にやってしまいましたが大丈夫でしたでしょうか?」


「うむ、私の領内での事だし道を整備するとヴェロニカからも報告が来ていたからな。さすがに石の道を作るとは予想しておらんかったが。

 そういえばヴェロニカが手を出して来ないと相談してきておったが不満でもあるのか?」


「不満などありませんがロバート様の結婚を待ったほうが良いかと思いまして。」


「なんだそんな事を気にしておったのか、ならば気にする事はない時期など1ヶ月どころか半年以上誤魔化す事などよくあることよ。」


「後はあそこまで急いでいる理由が理解できず戸惑っているというのが正直な所です…」


「そこは妹が婚約したせいだろうな。自分を無視して妹に声を掛けた連中を見返す意図や焦りもあるだろうが妹に申し訳ないという顔をさせたくないというのもあるのだろう。

 もう一つ、下位貴族からみてボルドウィン卿はかなりの有望株だよ。今回は爵位を私が伝え後から正式な書類が送られてくる形になったが本来なら戦場でもなければ王に会って直接授与されるものだ。

 だからこそまだ知られていないがこれが王都で授与されていたら何人か敏い者が声を掛けてきたはずだぞ。」


「そういえば私は国王様にお会いし無くてよろしいのですか?王都までは遠いので私は助かりますが。」


「なんだ国王様にお会いしたいのか?直接授与して頂きたいのなら私からお伝えするが面会の申込みをしてから最低1ヶ月は待たされたあげく暇つぶしに狩りでもするかと王都から出たら迎えに来たのにいなかったなどと嫌味を言われ実際には面会日を手紙で伝えられるなどという嫌がらせをされる事になるぞ?

 面会など呼ばれた時にだけ行けばよいのだ、喚び出した時はさすがに馬鹿共も嫌がらせは出来んからな。」



 実感が籠もった恨み節を早口で捲し立て吐き捨てる様に断言するベイリアル男爵の姿にもう会いたいと言う気は完全に失せていた。

 元からそれほど会いたいという訳でもなく貴族になったのに国王の顔も知らなくて良いのか?という軽い気持ちから口にしてみたが見事に地雷を踏み抜いたらしい。



「そうだ、それで思い出した。そなたの貴族位を証明する書類と家紋が刻まれた短剣とブローチが王都を出発したらしい。

 2週間もしたら我が家に届くはずだから使者が着いたら連絡させてもらう。

 家名と同じく家紋も断絶した家の物になるから変えたければ王都で紋章官に申し出る様に。当然これもかなり待たされる事になるだろう。」


「デザインを考える才能は無いのでお任せします。そのためだけに王都に拘束されるのも面倒ですし…」


「うむ、まあ古いとはいえ貴族家で使われていた紋章だおかしなものでは無いから安心すると良い。」



 貴族家の紋章など殆どは動物や武具を植物で飾ったものだろう。まさか花やハートでファンシーに飾った紋章が来るわけも無いし王様がよほどの悪戯好きでもなければ無難な物を選んでくれるだろう。

 夕食の話題は主にヴェロニカ嬢の売り込みになり酒に酔った最後の方には泣き落としになった。

 失敗したら二度と会わないなどと念話で脅されたらしい。

 無事に言質を取られヴェロニカ嬢をもらう事を約束させられるとようやく解放され、熱くなった頬を夜風で冷やしながら工房街へ向かいそれらしい建物の近くで準備部屋へと帰った。

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