94 炭鉱設備建設

 ダークエルフ属性は持っていなかったはずなのに大暴走してしまった翌日。

 冷静になって聞いた所ダークエルフは珍しいだけで問題は無く白いエルフとも仲は悪くないらしい。人間のように領土で争うことはあるが崇めているドライアドが光よりか闇よりかという違いしか無いそうだ。



「おはようございますショート様。昨夜はずっと待っておりましたのに残念ですわ。」


「申し訳ないヴェロニカさん、何分忙しかったもので。そうだ、姿見と鏡台が手に入ったので後で持っていきます。」


「あら?材料が無いと言ってませんでしたかしら?」


「ええ、昨日の夜足りないものを色々買ってきたので今日はそれを配置していこうと思います。」


「まぁまぁ!お嬢様のために夜通し駆けて下さるなんて!」


「感謝いたしますわ。ここまでしていただけるだなんて!」



 車でちょこっと行って来ただけなので1時間くらいしかかってないのだがお礼のハグがとても良い感触なのでそういう事にしておこう。



「それでは朝食を取ったら炭鉱に行きましょうか。炭鉱で働く奴隷で治療の終わった者を紹介します。」


「もう動き出すんですの?」


「ええ、試しに掘ってみてどのくらい採れるものなのか計算も必要になりますしまだ顔合わせが終わっていない者のおりますので。」



 広い食堂で3人だけで食事を取る。明日からは警備兵や奴隷がここを使いヴェロニカ嬢は自室で食事をする事になるのだろう。

 俺は炭鉱の整備が終わったら街道を整備しに西へ向かう事になる。

 1週間ほどで帰って来れる筈だが整備しながらだからどの位かかるか分からない。途中で一度帰って来た方がいいかもしれ無いな。

 朝から白パンと野菜スープとステーキという少し重いラインナップだが最近は動くせいか特に気にならない。

 食事を終えると準備部屋に戻り治療の終わっている3人の奴隷とダークエルフ組を連れて炭鉱へと向かう。



「お待たせしました、この3人が採掘をする奴隷になります。鉱山奴隷は後4人いますが治療が終わり次第連れてきます。

 そしてこの6人がしばらく炭鉱の警備を担ってくれる者たちになります。

 3交代で常に2名が家の屋上と外壁の門で待機する事になります。」


「まぁダークエルフの方とは珍しい、よろしくお願いしますわ。」


「無口で融通は効きませんが弓の腕は確かなので安心して下さい。」



 頭を下げるだけのホムンクルス達にフォローを入れ、採掘に必要な道具と木箱を出していく。



「重量がどのくらいになるのか分からないので入れるのは持てる範囲で止めてくださいね。」


「ありがとうございますわ。」


「それでは俺は外壁を作ってきますので失礼します。」



 ヴェロニカ嬢と奴隷達を残しダークエルフ達と炭鉱を離れる。

 広場に登って来れる場所に門を作り、家と炭鉱に入れないようにぐるりと壁で囲んでいく。

 炭鉱部分は崖になっているので横から入れない様にするだけになるので内門も必要だろう。

 3mほどの高さで外壁を作り終わると外で木を切っていたネヴェア達が湧き水を見つけたと報告してきたので現地を確認すると、岩肌からちょろちょろと濡らす程度に水が出ていた。



「ノーム、この湧き水に受け皿を作って二股に流してくれ。」



 一度受け皿に溜めてから動物が飲まないように蓋を作り二股の片側に動物用にさらに受け皿を作っておく。

 これは動物のためにという訳ではなく源泉を直接舐めて汚されないためだ。まだ飲めるかは分からないが水量も無いし動物が舐めた物を飲むのは微妙だろう。

 炭鉱へ向けて石製のパイプを地中に埋めていき洗い場の近くにタンクを作る。

 水量が少ないのでそこまで溜まりはしないだろうけど水瓶2、3本分にはなるんじゃないだろうか。

 ノームに頼んで井戸を掘ってもらえば水の心配は無くなったと思っていいだろう。


 残る必要な施設は石炭の加工用の炉だ。石炭を温め石炭内の燃えにくい油分を蒸発させるとより火力が出せるコークスが出来るらしい。

 問題としてはコールタールという黒くて燃えにくい油が精製されることだがこれについては制作魔法のおかげで簡単な処分方法が存在する。

 コールタールからタール軽油か防虫剤に使われているナフタリンを作ると失敗で9割が消滅するのだ。

 成功した軽油でコークスを作ることが出来れば経費も減らせるだろう。


 仕組みも簡単に円柱の1段目に軽油を入れて、2段目に石炭を入れて出た蒸気をパイプで出して冷やせばコールタールを回収出来るだろう。

 軽油に火を付けるには噴霧するか温めてやらないといけないので何か工夫が必要だと思うが鉄板を敷いてさらに下から温めればなんとかなるか?

 どのくらい燃やすと必要な温度まで上がるのかが分からず試行錯誤が必要なのでなんとかなって欲しい。

 投入口と排出口の加工が大変だが毎回レンガと粘土で塞ぐのがやはり楽だろうか。

 鉄が大量に手に入れば鉄扉も作れるんだけどサイズを考えると鉄鉱山の稼働後になるだろう。

 買ってきた分のレンガでは全く足りなかったのでノームが石でレンガを作り代用する。

 耐火レンガを作ってくれと頼んだ時に粘土ではなく石を作り出したので聞いてみたが本人は大丈夫と言っていたので熱には強いのだろう。


 一通り必要な施設を作り終わると門から出来るだけ斜度を下げてつづら折り状の道を作る。

 休憩用の広場も完備しすれ違いも出来るように2車線分の道幅を用意するなどやっていると当然木が邪魔になってくるのでドライアドに頼んで移動して崖崩れ防止と落下防止のために密集気味に植えていく。

 大幅に地形を変えることになったが土と木の精霊の力を思いっきり使って平地まで道を繋げてしまう。

 明日はここからアーラに乗って方角を確認し、今の村にぶつからない様に真っ直ぐ道を作っていく予定だ。

 日が暮れ始めたので炭鉱に戻ろうと何を血迷ったのか歩いて登り始めたのだが折り返しを作りすぎたせいですぐ近くに見えるのに一向に近づかない。

 よく考えたら午後一杯を使ってここまで道を作って来たんだった、後日歩行者用に階段も作った方がいいかも知れない。

 結局皆を準備部屋に戻してアーラを喚び出して飛んでもらうことにした。



「お疲れ様ですわショート様。」


「お疲れ様ですヴェロニカさん、炭鉱の方採掘量はどうでしたか?」


「木箱の4分の一くらいなら2人がかりで持ち上げられるようです。わたくしもやってみましたが掘り出すのが意外と大変で3人で1日かけて5箱ほど採れましたわ。」


「では木箱は今の10分の一の大きさの物にしたほうが良さそうですね。

 速度も慣れれば早くなるでしょうし7人もいらなかったか?

 治療中の奴隷の内3人は石炭の加工へ回ってもらった方がいいかもしれません。」


「確かに箱は小さくするにしてもこの速度だとすぐに馬車1台分は集まってしまいますね。」


「計算してみましたけど木箱一箱で馬車1台分らしいです。レオゲンまで往復10日以上かかることを考えると3人でも掘りすぎかもしれません。」


「まぁ!この量で掘り過ぎですの?」



 調べた所石炭は1mの箱に入れると丁度1トン位になる比重らしい。コークスに加工すると半分~8割ほどに比重が減ると書かれていた。

 馬車の積載量が1トンちょっとなので馬用の水や食料を考えるとギリギリ一箱積めるくらいだろう。

 レベルの上がっていない人間が輸送する事を考えるとトロ箱くらいの大きさでいいのだろうか。

 鉱石の間に隙間もできるし100kg以下なら二人がかりで持ち上げられるだろう。



「加工したら3割前後重さが減るらしいので今日掘った分が丁度馬車1台分くらいですね。

 マジックバッグを使う事を考えても今ぐらいで十分な気がします。」


「鉄鉱石の採掘量にもよりますが調整は必要ですね。父上に採掘の予定量などを聞いておかなければいけませんわね。」


「毎日の使用量も計算しなければいけませんし次にレオゲンへ行った時に炉の試運転までやって来ようと思います。」


「分かりました父上に念話しておきますわ、いつ頃向こうへ立ちますの?」


「明日午前中に石炭の加工を試してみて大丈夫だったらそのまま街道整備しながらレオゲンまで向かうつもりです。

 明日は帰って来るつもりですけど5日から10日くらいここを空けることになるかと。」


「必要とはいえ寂しくなりますわ。」



 一日10箱使うなら結構な量の箱を作っておかなければいけない、1階の倉庫だけでは足りなくなるかもな。

 加工後の倉庫も必要になるかも知れないし街道が終わったら追加で建てておこう。

 夕食後は霊石が無くなってしまったのでスカラやシドー以外の集まれるメンツで集まってレギオンを倒しに49階で狩りを行うことにした。

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