91 空の旅サンドイッチ

 朝俺が起きてくる頃にはベラが注文した保存食も配達されておりヴェロニカ嬢も準備万端で待っていた。



「遅くなりました。準備が出来ているなら早速向かいましょうか。」


「おはようございますショート様もう買付は終わったのですか?」


「ええ、昨日のうちに必要なモノは買えたので後は向こうへ行って掘るだけですね。ああ、周辺の整備もありますか。」


「お早いですわね。私達の準備は出来ておりますのでいつでもよろしいですわ。」


「では向かいましょう。北門から出てワイバーンに乗るので荷物は預かりますね。」



 エルジー達薬屋組を残し家を出ると首をかしげて聞いてくる。



「あら?奴隷を買ってきたのですわよね、馬車は無くてよろしいんですの?」


「ああ、俺のゲートは人も入れるのでそちらに入れて連れていきますよ。北門までは歩きになるのはご容赦ください。」


「そう言えば黒い壁に出たり入ったりしていましたわね。てっきりワイバーンで馬車を持ち上げるものと思っておりましたわ。」


「そういう乗り物もあるんですか?普通の馬車では傾いて落ちそうで怖いですね。」


「ええ、竜籠と言って1頭~3頭のワイバーンに持ち上げさせて飛ぶのですわ。」


「へぇ~なるほどな。どちらにしても10人以上いるのでワイバーン1頭では持ち上げられそうにないですね。」



 アーラはレベルも上がっているし通常のワイバーンが馬やウォータースネークを持ち上げる事を考えると数百キロ~1トン近くまで持ち上げることができそうではある。

 重くなれば上昇するのが大変になるし大きくなれば風の影響も受けるので速度はかなり犠牲になることだろう。



「こいつがワイバーンのアーラといって今日一日空の旅を一緒にすることになるのでよろしくおねがいします。」


「わ~大きいですね。」


「あ、あの。私達も他の方の様に黒い壁の中に入って移動することはできないのですか?」



 今まで静かだったお付きのメイドが強張った顔で聞いてくる。アーラが出てくる前より1歩どころか2歩ほど下がっている気がする。



「残念ですがあれは奴隷の様に完全に俺の物にならないと中には入れないんです。」


「まあ!ではあの方達は!」



 何やらヴェロニカ嬢が気色けしきばんだ声を上げたがホムンクルスだとは言えないし奴隷には分かりやすく首輪がある。ごまかすためにはそういう事にしておかないといけない。



「ということで3人で乗るのですが前と後ろどちらに乗りたいですか?

 前なら手綱を握れるのである程度操縦が体験できますが捕まる所が鞍しかありません。

 後ろなら前の人間に抱きついていればいいので比較的安心できます。」


「前でお願いします!わたくしワイバーンを操ってみたいですわ!」


「後ろでお願いします!捕まるところも無しに飛ぶのは無理です!」



 対象的な意見を聞き入れヴェロニカ嬢、俺、メイドのマルティナさんの順番でアーラに乗る。

 今日のために3人乗り用の鞍を作り胴鎧を脱いできたのだ、抱きついた先が硬いと痛いかも知れないからな。

 ヴェロニカ嬢が前なのは残念ではあるが尻も良い形をしているし次回の楽しみにしておこう。

 飛び上がって上下する視界に違う意味でキャーキャー言っている2人も高度が上がりきって滑空を始めると静かになった。



「よい景色ですわね。街がもうあんなに小さくなりましたわ。」


「人が歩く速度の10倍は軽く出ますからね、夕方前に炭鉱に着きますよ。」


「確か一番遠い村まででも4日はかかるはずです。本当に早いですね。」


「あそこの木が無くなっている所には何があるんですか?」


「あそこはゴブリンかオークの巣ですね。上から見てみますか?」


「オーク!?では倒さないといけないではないですか!場所を知らせないと。」


「ああ、大丈夫ですよ今日通る辺りにあるものは報告していますから。」


「そうなのですか?でも知っているのならショート様が倒してしまえばよいのでは。」


「そうしてもいいのですがオークは金になるのである程度残しておかないとレオゲンの税収が減りますよ。

 村や街にオークが来ないようにゴブリンという防波堤も必要ですしすべて倒すのもそれはそれで問題だと思います。」


「そういうものなのですね。いつも村が見つかると冒険者に頼むか領兵を出すかでお父様が頭を抱えていたので倒すものだと思っていました。」


「他の魔物が住み着くだけなので全部倒してしまってもいいのでしょうけどね。この辺りだとウォーターフロッグやスネークかウルフが住み着くだけなので街の西側と変わらなくなってしまいます。冒険者の買取額的には大分下がってしまいますね。」


「それは困ります。手に入る魔物素材の多さはレオゲンの売りの一つなのです。」


「なのでよほど村や街に近く出来無い限りは全滅はさせないようにしています。そのせいでたまに街道まで魔物が出てきたりしますけどその辺の匙加減をするのが冒険者ギルドと領主の仕事なんでしょうね。」


「お父様がそんなことまでしていたなんて。あ、あの光っているのはなんですか!?」


「あれは湖が陽の光を反射している光ですね。」



 尽きぬ疑問に観光ガイドの様な会話を返しながら2人の感触を楽しんでいると時が過ぎるのが早く感じあっという間に辺境の村までやって来た。



「そう言えばあの村にショート様が領主になることと山を開拓することを伝えなければいけません。

 何も知らずに山から木が倒れる大きな音が聞こえてきたら不安になるかも知れませんもの。」


「確かに、道も作る予定だから段々村に近づいて来るしホラーだな。」


「ほらー?知らせは追って来るはずですがさすがにワイバーンの速さには叶いません。領主家の証明はできるので村長に話しておけばよいでしょう。」


「分かった騒ぎになるかも知れんがアーラを村の外に下ろそう。」


「しかしもうすぐこの空の旅も終わってしまうんですね。もうすぐショート様の誘惑も完了できたはずですのに。」



 そう言って尻を揺らし押し付けてくるヴェロニカ嬢がこちらに微笑んでくる。

 一度目の休憩を取った後から徐々に攻勢が始まりメイドが腰を掴んでいたはずが腹をなでたり下に手を滑らせたり、ヴェロニカ嬢がやけに動くようになって体を抱きしめさせたりと素敵な接待をするようになった。

 もし一緒に乗っているのがフェリやネヴェアだったなら空の上で始めていたことだろう。


 村の門の近くに出来るだけゆっくりと下ろしギリギリで名前を思い出した門番に念話を送って危険が無いことを知らせる。

 アーラには降り立った場所に残っていてもらい村長の所まで案内してもらう。



「いやー驚いたあの時の青年がまさかワイバーンに乗ってくるとは。」


「ええ、運良くテイムすることが出来て重宝していますよ。」



 以前の様に先導してもらい村長の家に着くと大声で呼び出す。



「おーい村長客だぞ!竜騎士様の御成おなりだ!」


「そんな大声で呼ばんでも聞こえると何度言わせる!なんだこの前の若いのじゃないか。」


「お久しぶりです。今お時間大丈夫ですか?」


「久しぶりだな。まぁ中に入れ女日照りのこの村の者にはつらいべっぴんさんも連れておるし白湯くらいは出そう。」



 中に入って椅子に座ると丁度湯を沸かしていたのかさほど待たずに白湯が出てくる。



「すまんな、茶のほうがいいのだろうが苦い薬草茶くらいしか無いものでな。」


「いえ、ありがとうございます。」


「それでこんな辺境に何の用があったんだ?」


「詳しいことは後日通達が来ると思いますが実はこの間ギルドの依頼中に鉄鉱山を見つけまして、その報奨でこの辺を領地として貰い受けることになったという連絡と。それに関係してこの村の東の山で開発を行うため木が倒れるような音が聞こえてくるかも知れませんが安心して欲しいという2つですね。」


「にわかには信じがたいが…」


「村長それについては本当かも知れん。こいつ、いやこの方か?ワイバーンに乗って村まで来たんだわ。」


「なんと、ということはそちらのお嬢さんも商人の娘ではなく貴族様か?」


「紹介が遅れましたわ。わたくしベイリアル男爵家長女ヴェロニカ=ベイリアルと申しますの。」


「なんとご領主様の御息女ではありませんか。言われてみれば確かに奥方様の面影がございます。」



 会っているはずの似ている領主ではなく奥方を思い出すのは何処を見ているのかバレバレだがヴェロニカ嬢が出した家紋の付いた短剣を確認する。



「先程も言いましたが正式な通達は後日になりますが先に東の山からこの村まで道を作ることになります。通達が来るまで変わりなくこの村を治めるように。」


「ははっ!頑張らせて頂きます!」


「まぁ村長が他に移されるとかは無いと思うけど一応今の予定では東に半日の所に新たに領都を作って街道を整備するつもりでいる。あと村の壁もいずれ石の物に変えるよ。」


「まぁもうそこまで考えているんですの?」


「絵空事でも考えておかないと後で後悔するし重い荷物を馬車で運ばせるなら街道の整備は最優先だ。」



 ゲームなら無理やり立ち退きしても苦情だけですむが現実でそんな事をしたら露頭に迷う人たちが出て来る。

 守るためには仕方がないのかもしれないが未来の大通りを考えずこの村のように中央に密集させていたら立ち退きだらけになってしまうだろう。

 しばらくは石炭を売った金で食料を買う生活になるだろうがそのためにも早めに道を繋げなければ。



「そうですか、この最奥の行商人すら来ない村の先に街が出来るなんて感慨深いですなぁ。

 手伝えることがあれば及ばずながら手をお貸しいたしますのでお声がけください。」


「ありがとうございます。まあまずは通達が来ないと始まらないので東は気にしなくていいくらいに思っててください。」


「分かりました、村人にはそう知らせておきましょう。」



 話し合いが終わり村を出ると寝ているアーラを起こして空に飛び立つ。何を思ったのかヴェロニカ嬢が後ろになったせいでマルティナさんがまたガチガチになってしまっている。もうそこまで時間はかからないから頑張ってくれ…

 背中の感触は素晴らしいが長時間焦らされている俺には長い一時間が始まったのだった…

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