78 おっさんと空の旅

 朝になって準備部屋に行くとネヴェアから冒険者ギルドから念話があったと言われた。


「旦那、冒険者ギルドから念話で起きたら出来るだけ早くギルドまで来て欲しいだってさ。」


「呼び出し?思い当たる事となると指名依頼でもあるのかね。」


「かも知れないね、早朝から何度も来てるから余程重要な仕事みたいだよ。」


「それは悪かった、やっぱり他のメンバーにも念話を覚えてもらったほうがいいな。」


「あたいが覚えようかい?ジュリアのおかげで魔素は貯まってるけど。」


「いや、ネヴェアはジュリアの分も必要だから覚えるてもらうならフェリかなぁドライアドのおかげで次の魔法を覚えるのが遅れても大丈夫だし。

 街に残る組はベラに覚えてもらうとして移動組はフェリに覚えてもらおう、というかローレルに言えば内容を伝えるのは無理でも俺を呼ぶだけなら出来たんじゃないか?」


「あ、そういえばあいつも使えるんだったね、木にしか見えないから完全に忘れてたよ。」


「まぁ仕方無い、急いで準備してギルドに向かうとしようか。」


「ああ、悪かったね次は気を付けるよ。」


「どうせこの時間になっただろうし大丈夫だ。」



 一応念話でこれから向かう旨を伝えておいて少し急ぎ目にギルドへ向かう。

 こういう時製作魔法で作った装備はカードを呼び出すだけなので楽でいい、まだ準備部屋に帰って来ていなかったホムンクルス達には念話で伝えておいて珍しくネヴェアとフェリとの3人だけの移動だ。




 冒険者ギルドに入るとサブマスターのヘイディさんがいつもの新規受付に座っていたがその片隅に金属鎧を着た筋肉質のおっさんが仁王立ちで立っていた。

 近づきたくはないが呼び出したのはヘイディさんなので新規受付に向かい話しかける。



「おはようございます、遅くなってすみません。」


「よく来てくれた、朝から呼び出して済まないね。詳しい話は応接室でするから付いて来てくれ。」



 ヘイディさんが先導するがやはりおっさんも関係者らしく共に後ろを付いて来る。

 向かい合った長椅子にヘイディさんとおっさんの2人と俺に分かれて座り後ろに奴隷である2人が立つと話を始める。



「まずは謝罪を朝は苦手でして念話に全く気が付きませんでした。申し訳ない。」


「いや、構わないよ本来ならこんな急に呼び出すほどの内容でも無いんだけど先方が急いでいてね。」



 そういうと横のおっさんを見て紹介をしてくれる。



「こちらはレオゲンの街の領主家騎士団長アーチボルド様だ。今回君に依頼をした領主様の代理でもある。」


「エドワード=アーチボルドだ、いきなり呼び出してすまんなこちらも急ぎたかったものでな。

 夜の王の噂を考えれば朝が遅いのをこちらが考慮するべきであったな。」



 そう言うと大声で笑って膝を手のひらで打った。



「森猫の影のリーダーをしているショートを申します。右がネヴェア、左がフェリシティと言いますどうぞよろしくお願い致します。」



 騎士団長になるくらいだから貴族家に連なる家の出身だろうし出来るだけ丁寧な言葉遣いをするように気を付けて紹介をする。

 久しく使っていないしせっかく元貴族のフェリがいるんだから礼の仕方くらい習っておけばよかったな。



「うむ、わしは貴族ではないし騎士も冒険者も乱暴者には変わらん、もっと砕けた口調で構わんぞ。

 しかし実に美しいのう、所作も慣れておるようだしどこぞのご令嬢だったのかな。」


「はい、この街の奴隷商で冒険者の先達を探していた所購入することになりまして。

 重症で死にかけていたのですがこのセイントスカラベのヒールのおかげで助けることが出来ました。」


「ええ、事件に巻き込まれ親に捨てられ瀕死の重傷で奴隷として売られていた所をショート様に助けられました。」


「なんと痛ましい、我が主の家格では手出しが出来なくてな主に変わって謝罪する。」


「いえ、ショート様には良くして頂き今は幸せでございますから。」



 始めは話題の1つかと思ったがどうやら目的の1つでもあったらしい、俺だけじゃなく奴隷達の身元も調べ済みだったのだろう。

 最初は話題の一つかと思ったが明らかにフェリから視線をそらさずフィリに向けて話しかけていたので頷いて会話を許可した。

 知り合いというわけでは無さそうだがフェリが運ばれて来た情報やあらましは知っていたのだろう。



「主を差し置いて話をしてすまんな。」


「いえ、美しい異性と話してみたくなるのは人間として当然でしょう。」


「うむ、奴隷でなければ息子の嫁にと声をかけたのだがな。

 残念だが本来の話に戻そうか、森猫の影というよりそなた個人への依頼になるかもしれんがわしをくだんの鉱石が採れた場所に連れて行って欲しいのだ。

 報酬は金貨1枚、現地で野営するかどうかはそちらに任せるが早ければ早いほど良い。

 脅迫に聞こえるかもしれんがこの依頼が終わるまで発見報酬は出んから断るならそのつもりでな、最低でも1ヶ月下手をすると何年も確認にかかるかも知れんな。」


「つまり兵士なり冒険者なり組織して確認に行かないと行けないけど本当にあるか分からないから予算が出しにくいということですか?」


「そういうことだ、本当にあるか確認出来れば予算も組めるんだが何分間違いもある事なのでな。

 あ~もし確認作業が安くすめばその分発見報酬に上乗せ出来るかもしれんな~」



 明後日の方向を見ながらにやにやとした顔で言ってくるが元々あると思っていた依頼なので断ることは無い。

 依頼料もゴールドランク個人への依頼としたら普通の額だしそれをパーティーで参加しても問題はないだろう。

 日暮れまでに帰ってくることは出来ないので向こうで野営することになるがテントなどは買ってあるので交代で寝れば大丈夫だろう。うちは人数が多いのが売りだからな。



「依頼はお受けします、ワイバーンで飛んでいき向こうで一泊ということでよろしいですか?」


「おお!助かる。貴族などと言っても辺境の領主では金貨を動かすのもやっとで正直なところ兵を集めて遠征出来る余裕など無くてな!」



 礼を言って豪快に笑っているが主を悪く言って大丈夫なのだろうか。



「いやーよかったよ。アーチボルド様が夜明けと共にギルドに現れたと呼び出されるし、ショートも全然念話が帰って来ないしネヴェアも音沙汰ないし本当にどうしようかと思ったよ。本当に…」


「うむ、冒険者の朝は速いと聞いていたのでな依頼を受けて街を出る前に捕まえねばならんと思って早朝訓練のついでに走って来たのだがまさかこんなに遅いとは思わなんだ。」


「私はいつもこのくらいの時間に活動開始するので依頼書の取り合いとかは参加しないんです。

 私では寝ている時は念話も気が付きませんのでここにいるフェリシティと今度始める薬屋の店員をするベラに念話を使えるようになってもらいますのでよろしければそちらにご連絡下さい。」


「おお、聞いておるぞ何やら上級ポーションが作れる薬師を引き抜いて来たらしいな。

 そうそう使えるものではないが領主軍でも薬を頼むかも知れんからよろしく頼む。」


「ええ、開店の際にはご贔屓によろしくお願いします。

 こちらは準備は出来ているのでいつでも出発できますがどうしますか?」


「わしも準備万端だいつでも行けるぞ。」


「ではこちらの依頼書にサインを頂けますか、カードはショートの分だけで大丈夫だよ。」



 依頼書を確認し問題も無かったのでサインをしてカードを渡す。

 控えを受け取って冒険者ギルドから北門の外に移動してゲートからアーラを呼び出す。



「紹介します、空の旅を一緒にするワイバーンのアーラ、シャドウキャットのシドー、セイントスカラベのスカラです。この2匹は魔法が使えるので空中での護衛になります。」


「おお、さすが野生のワイバーンは体躯が大きいな。わしが前に見た刷り込みの個体よりも二周り大きいかも知れんぞ。

 そこのスカラベはフェリ嬢が抱えておったがシャドウキャットの方は全く気が付かんかったわい。森で出会っていたら殺されておったかも知れんな。」


「席は前と後ろどちらが良いですか?少しくらいなら手綱で言うことも聞いてくれますが。」


「ワイバーンを自分で操れるのなら前に決まっておる!無茶はさせんから手綱をもたせてくれ!」


「分かりましたでは後ろに座らせて頂きます。フェリとネヴェアはここで一度お先に失礼させていただきます。」


「うむ、朝から慌ただしくしてすまんかったなまた会ったらよろしく頼む。」



 別れを済ませ2人がゲートに入ったのを確認するとゲートを消す。



「では行きましょうか。手綱を緩めて飛べと命じてやれば飛び立てます。」


「分かった!よろしく頼むぞアーラよ、飛べ!疾く駆けよ!」



 まるで戦記物の小説の主人公の様なセリフで命じるとアーラは羽ばたきを始め空へと上がっていく。

 街からしばらく離れてから上下左右に少し操作を楽しみ目印となる山の形に向かって方向を合わせてもらう。

 アーラには悪いが昼食は背中で干し肉で済ませて目的地に向かって飛んでもらった。

 トイレ休憩も取ったがアーラに近付いてくる命知らずもいなかったので何事も無く辿り着けそうだ。

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