69 空の旅

 夕食の後ワイバーンのいた44階の攻略をするために再び集まってもらい先へ進む。

 今回からはウインドカノンも解禁なので苦戦することもなくむしろ他の40階以降の階層よりも戦闘の難易度は高いが時間は短いくらいだ。

 少人数で倒せるようになればレベル上げ場所の第一候補といった所か、もっともそれをするならカノン系の魔法を使える人数が後2人欲しいところだけど。

 順調に攻略が進み3時間ほどで階段までたどり着いて次の階に行けるようになった。


 ワイバーンが落とす素材は皮を期待していたけど落としたのは翼の被膜でゴムのような感触と少し伸び縮みする性質を持った素材だった。

 皮なら鎧の材料に使えたんだけどな、ゲームにも出てくるワイバーンレザーアーマーはお預けな様だ。

 被膜で服を作ることも出来るが結構厚みがあるからどうだろう、俺のサンダーゴートの革服もそろそろ更新したほうがいいから試しに作ってみるけど柔らかいからゴーグルのクッションにも使えるかも知れない。




 翌朝アーラに敵が来た時と疲れた時の鳴き方を教えて空へと旅立つ。

 今回はネヴェアと共にアーラに乗っているが途中までは喜んであちこち指を指していたのに下をまともに見てしまってからは目を閉じて震え始めた。



「だから下を見るなと言ったのに。」


「つい目に入っちまったんだからしょうがないだろ!城壁の上くらいから見たくらいじゃ高いところも平気だったんだよ。」


「悪いけどもうしばらくは空の上だから我慢してくれ。」


「分かってるよ自分で乗るって言ったんだそれくらい我慢するさ。」



 安心させるつもりで後ろから抱きつく力を強くして役得を堪能していると目を開いてこちらを見てくる。



「旦那触るのは旦那の自由ではあるんだけど時と場合を選ばないかい?」


「何のために後ろに乗ったと思っているんだ子供と一緒でもない限り普通は手綱を握るほうが前に座るものだろう。」


「言われてみれば確かにそうだけど余りにも自然に後ろに乗ったから気にして無かったよ…分かった、もう触るのはいいから絶対に揺らすんじゃないよ。絶対だからね。」


「大丈夫、大丈夫さすがに冗談で揺らす気もこんな所でおっぱじめるつもりも無いよ。」


「本当かねぇまぁおかげで少し慣れてきたから時間まで景色を楽しませてもらおうかね。」



 呆れ顔をしたネヴェアと一緒に前を向き直すと前方にザカリーの街が見えて来たためアーラに大きく迂回をするように頼み、通り過ぎたらまた街道が見える位置を東へ向かう。

 途中まで進んでいたとはいえ2日かかる行程を数時間で来れるということは結構な速度が出てるよな、肌に当たる風の強さ的にも時速60km以上は出てると思う。

 レベルで身体能力が上がっていることを考えても戦闘もあるし歩行速度が時速6kmとして王都まで約12日休憩を入れつつ1日8時間くらい歩いていたから全行程で大体600kmくらいだと思う。

 60km出るということは2日もあればレオゲンまで帰れるのか、ヘイディさんには昨日5日ほどで到着すると言ったけど3日で到着してしまうな。

 アーラがどれくらい飛んでいられるかもまだ分からないし休憩を多めに取りつつゆっくりと進むとしよう。

 夕飯後はダンジョンの攻略を進めるつもりだワイバーンは手に入れたとはいえレベル上げに使える階層は探して損はないからな。


 昼からはフェリとベラが遠慮したのでエルジーと一緒にアーラに乗って空へ飛び立つ。

 エルジー自身は怖がっているようだがシルフは一緒に空を飛ぶことを喜んでいてテンションが高い。



「まさかエルジーと一緒に空を飛ぶことになるとは思わなかったわねぇ、この子ろくに部屋から出ないし魔法の練習もほとんどしなかったもの。」


「それなら何でエルジーと契約を結んだんだ?もっと外で駆け回る様な人の方が相性が良さそうだけど。」


「この子も昔は森を駆け回るわんぱくな子だったのよ、だからレベルも少し上がってたでしょ?

 弓で獲物を追いかけ回してた狩人だったんだけどねぇ狩人の先輩だった人が結婚してからはすっかり引きこもりよ、魔力の質もいいし仕事もくれるから契約を続けてたけどとんだ詐欺よね。」


「シルフ!そんなことまで言わなくていいから!」



 顔を赤くしてシルフに文句をいい空中へ手を伸ばすが危ないのであまり動かないで欲しい。



「エルジー落ちると悪いから余り暴れないでくれ。」


「す、すみませんじっとしています。」


「そうよ状況はアレだけど最近はいつもイチャイチャしてるんだからいいじゃない。」


「そういうのも言わなくていいから本当に怒るよシルフ!」


「あー怖い怖いそろそろ風で加速するからしっかり捕まっていなさい、落ちはしないけどびっくりするわよ。」


「え、ちょっと待って心の準備が…」



 慌てて手綱をしっかりと握り直し腰に回した手でエルジーを固定する。

 アーラを包むように風の繭が現れ目を開けるのに苦労したほどの向かい風がパタリと止んで軽く体がつんのめった。

 下を流れる風景の速度が一気に加速する。向かい風が無くなったせいで一気に現実味が無くなり次にどう動くか分からないという恐怖が湧いてくる。

 遊園地にある映画館のような所で椅子だけ動くやつ普通のジェットコースターより苦手なんだよね…エルジーも悲鳴を上げてるしこれは長時間耐えれそうにないな。



「シルフ、これめっちゃ怖いわ。悪いけど解いてくれないか?」


「あら残念エルジーも駄目みたいだし仕方がないわね…まぁ急に減速させるのは危ないから加速は止めるけど減速には時間がかかるわ。」



 周囲を確認すると風の守りはそのままだが確かに急激な加速は終わったらしい。

 いつの間にか気絶して静かになったエルジーを抱え直して減速が終わるのを待つ、このまま飛ぶのも危ないし今日はこのまま移動は終わりでいいかな。

 その後10分以上かけて減速を終えアーラに主導権を返すと地上に降りてもらって準備部屋に帰る。

 ベッドにエルジーを寝かせて精神的な疲れを癒やすために風呂に入る。


 なんと言えばいいか例えるなら直線をオートバイで法定速度で走っていたらに自動運転機能にハンドルの主導権を奪われてどんどん加速していく感じというか、ハンドルを離さなければ問題ない事は分かっていても不安と恐怖が湧き出してくる不思議な体験だった。


 今日はもう夕飯まで寝て過ごして夜の45階攻略まで英気を養うことにしよう。

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